第19話  ヤンキー烈伝 2

エピソード文字数 4,709文字



 ※


 本当にケンカの強い奴って、大概目を見ればおおよその見当がつく。こいつは強い。そう思わせる独特のオーラが出てるもんだ。


 今目の前に見えるヤンキー達からそんな覇気は感じられず、どちらかと言うと「何でケンカ売られてるの?」と言った目をしてやがる。



 確かに因縁をつけたのは龍子さんっぽいが、ぶっちゃけ言わせて貰うとこの手の人間は俺も軽蔑する人種なので、情けは無用。視界に入るだけで腹が立ってくる。



ちょ! 待てって。何で俺らに……
かかって来いよ。この雑魚がぁ!

 そして龍子さんのキャラが恐ろしすぎる。


 今度はスキンヘッドが餌食になった。顔面パンチで怯んだ隙に組み合うと、龍子さんは豪快な内股でアスファルトに叩きつけた。



 うあ……こりゃえぐい。


 あんなのモロに食らったら俺も一撃かもしれない。


 おっと。龍子さんに見とれててはいけない。


 俺は俺で、染谷くんの仇を討つという、極秘任務があるんでね。

私もやろっかな。最近身体が鈍っちゃって
どうぞどうぞ楓蓮さん。好きなの選んでくださいね

 じゃあ遠慮なく決めますね。


 俺のド本命はもちろん長髪野郎。てめぇだよ!

じゃあ私。この人がいいな

 俺は俺なりに可愛く言ってみた。


 すると龍子さんは「え?」と漏らし顔色を変えてしまう。

(おっと! まさか楓蓮さんがそいつを選ぶなんて……)
あ、待って。その男はわたしが……やりたいな
え? 龍子さんもこいつがいいんですか? 私がやりたいです

 と、思わず食い下がってしまう。出来ればこの男は任せて欲しいんです。



 しかし……何故か龍子さんも引き下がらない。

なんつーか……ボコり甲斐があるような。


私に殴って欲しそうな。そんな顔してますんで

 いや、こいつは俺がやらないと。


 染谷くんや白竹さんの為に復讐しないといけないんです。

あぁそれは何となく分かりますね。


殴られたいオーラが出ていると言うか、なんとなくその顔を整形してあげた方が本人の為というか。


だから私が……

 何とか譲って欲しい。


 お願い。こいつは俺にやらせてください。

 などと、二人が長髪野郎の取り合いに発展している中、こいつも黙っていられない。
おい! ちょっと待てよ! 何で俺が……


 俺と龍子さんを交互に見るヤンキーだったが、その横に居た他の仲間が「指名だぞ」と言いながら、長髪野郎を前に差し出した。




 なんと仲間思いのヤンキー達だろうか。




 てめぇらは自分の保身の為、平気で仲間を見捨てる。自分さえ良けりゃいいのだ。


 それが当然だと思ってるからな。どこかの世紀末集団と変わらない。



私がやりたい。もっとこう……鼻が曲がった顔のがイケメンになりそうな予感がするんだけど
 ふははっ。龍子さんは顔面やるつもりだ。容赦ねぇ。

待って龍子さん。こいつに選ばせましょうか?


なぁお前。どっちがいい? どちらのお姉さんと遊びたいですか~?

 こう提案したのは、俺に分があるからだ。


 龍子さんはまず選ばないだろう。既に豪快な内股を見てるからな。

 そこに床ペロしてるヤンキーが再起不能なのが物語っているぜ。



 さぁどっちだ? きっと俺を指名してくるはずだ。




 だが長髪野郎はどちらも選ばずに、後ずさり逃げ出そうとするのだ。

 その時、仲間に手を掴まれ捕縛された時には、思わず笑ってしまった。



 良い友達を持ったな。感動して涙が出てきそうだ。


ありがと。君達には手を出さないであげよう
楓蓮さんは優しいね。まぁ……楓蓮さんは手を出さなくても、俺が全員ボコるんだけど


 やべぇ! 龍子さんマジ極悪で容赦ねぇ!



 そう思っている間に長髪野郎に詰め寄った龍子さんは、顔面に容赦なく拳をお見舞いしていた。


 鈍い音と共に一撃でダウンした長髪野郎は、白目になってやがる。




 あぁ~もうっ! ずるい! 

 取られちまった。俺の獲物が……



 しかも大量の鼻血で顔が見えねぇし。こりゃ絶対鼻が曲がってるだろ。


おらっ! 全員でかかって来いやぁこらぁ!

 一気にエキサイトした龍子さんを止める事は出来なかった。


 既に戦意喪失していたというか、元々やる気が無かったヤンキー達は龍子さんの毒蛾にかかり、次々とアスファルトに転がった。 



 最後の一人となった黒髪短髪ヤンキー。


 今までで一番弱そうな感じだな。仲間がやられてるのに、加勢も出来ず、イキがってるだけのような奴だな。


 そういう奴に限って弱者には一番凶悪な事をしやがるから手に負えない。


待てよお前ら。こっちに俺らのボスが向かって来るぞ。


ボコられんのはてめぇらだ

 おっ! ボス登場?


 これには龍子さんの顔が綻んだ気がした。

 まるで「まだやっていいの?」みたいな。無邪気に笑う子供のようだった。

いいぜ。早くつれて来いよ。ヤンキー追加入りま~す
よ~し。じゃあ私もやりますか。全然やってないし


 シャドーボクシングをしだす龍子さん。

 俺もストレッチして身体を伸ばすと、ボスが来るのを待っていた。やる気満々である。



 後は倒れたヤンキー達はコンビニの端っこに固めておいて、準備万端。

 ほら。コンビニに迷惑がかかっちまうからな。


 


 ※ 


来たっ。お、お前ら。どうなっても知らねぇ……ぐはっ! 


がっ。う、うぉ~~~!

 最後に残った一人も、龍子さんのフルコースをお召しになった。

 顔面パンチが結構お気に入りなのだろうか。そこからの一本背負いで、コンビニの隅っこに投げ捨てたのは最早芸術の域であった。




 さぁボスの登場か? 来た来た。



 ついでに取り巻きもいっぱい来てやがる。中型バイクやら原付やらで構成されたヤンキー部隊は、俺達の前まで来ると、まずやられた仲間に駆け寄っていく。その数六人ほどか。




 その後からチャリに乗ったヤンキーが見えると、龍子さんの顔つきが変わってしまうのだった。



げっ!

どうしたんですか?
 と、そう聞いている間にも、その理由が分かってしまった。
おおっ! 龍姉! もしかして俺の兵隊やったのは姉上ですかい?
なんだよ。お前の連れかよ!

 虎ちゃん登場である。全国統一を夢見る女の子だな。


 一人だけチャリに乗っての登場に拍子抜けしてしまう。


 しかもそのチャリは装飾されており、色んな部分がピカピカ光っており、小さいデコトラのようだった。


 ハンドルはバイクのようにひん曲がっていた。通称鬼ハンだっけ? 虎ちゃんにとっては、とてつもない拘りがありそうなチャリである。




 ここは……笑ってはいけない。


 だが、ハンドルに付いたラッパの音がした時に「ぶっ」と噴出すと、龍子さんが「あんのバカ」とか言うので、盛大に笑ってしまった。



「パラリラパラリラ」と言う音には耐えれたが、口で「ばばんぼー」と叫ばれると、無理だった。



ばんばばんぼぉーーーーぱーぱぱーぱぱぱ。ぱーぱぱーぱぱぱ。ばぅんばぅん!
こりゃ無理だ。盛大に笑っちまった。
ごめん楓蓮さん。あいつとんでもないバカだから
いえいえ。とってもキュートな妹さんで

 

 虎ちゃんが、こちらに歩いてくる。

 まるで極道の偉いさんのような、肩で風を切るような歩き方で、やたら格好いい登場だ。

バカだなお前ら。この人はな……


ウチのチーム。ヴァルハラの影の総長。山田龍子さんだこの野郎!


お前らごときのハナクソが勝てるわけねぇだろ!

 え? ヴァルハラチーム? 影の総長?


 龍子さんに思わず振り向くと、彼女の方が逆にテンパっていた。

こらてめー! 勝手に決めんなよ。


あの~楓蓮さん? 俺はこんな奴らと一切関係ありませんからね

 思いっきり全否定する龍子さん。


 その顔からは誤解しないでオーラが滲み出ていたので。うんうんと頷くしか出来なかった。

そしてっ! その隣にいるのが特攻隊長の白峰楓蓮さんだ。


お前らが千人いても勝てねーから

 なっ! 俺まで特攻隊長になってるだと! 

 ってか千人は無理だって!



 しかしその話をヤンキー達は、とってもピュアな瞳で、羨望の眼差しでこちらを伺う。

 まるで水戸の爺さんが持ち歩いてる印籠を見たかのごとく、その場にひれ伏してしまった。



マジかよ。千人いても勝てねーのかよ。


す、すげぇ!

やべー。総長の言ったとおり、マジでくっそ美人だぞ。
だから言っただろ? 楓蓮さんはな、この世に転生した女神だっつーの!

確かに。この世の女性とは思えない美貌だ……


眩しすぎて直視できねぇ

こんな美女がチームの特攻隊長なんて……


やる気出てきたぜ!

こらこら。勝手に盛り上がるなよ!


何血迷ってんだ!

ああっくそ!


もっと暴れられると思ったのに

おいお前ら。龍姉がサンドバッグをご所望だ。やる奴はいねぇのか?


 いやいや。そんなひでぇ目に遭うのは嫌だろ。

 当然誰も立ち上がろうとしないし、顔も上げない。


 しかしその様子を見て虎ちゃんがこんな事を言うのだ。

お前らバカじゃねぇの? こりゃ千載一遇のチャンスだぞ。


今ここで龍ねぇの目に留まれば、正式なヴァルハラチームに加入できるかもしれねーのに。


エインフェリャルになれるチャンスだ。お前らも英雄になれるんだぞ

 ふははっ! ってか虎ちゃん。面白すぎるぞ。


 よくそんな神話っぽい話も知ってるんだな。そういうのは虎ちゃんに無縁だと思ったが。

今ここで命を捧げろ! 戦いの女神が迎えに来てくれるんだぞ!

 すると、数人の勇者が立ち上がると、男達が皆立ち上がるのだ。


 おいおい嘘だろ? サンドバッグだぞ?

やります! どうぞ総長! 俺をヴァルハラに連れて行ってください

俺も……強くなれる力が欲しい! 


どうぞ! 楓蓮さん! 思いっきりやってください!

(なんだこいつら。頭沸いてんじゃねーか?)

こら! てめー! ずるいぞ! 俺が先に殴られるんだよ! 


召喚されんのは俺だぁ!

俺も! 今ここで死んで……迎えに来て下さい!
(つーか。でけーおっぱいだな。バレーボールみたいにでかいし)


 何だこのノリは。虎ちゃんに洗脳されてんのか?


 ってかやめとけよ。死んでも迎えにこれねーから。

あぁ~~ったく! もういい。


やる気の無いヤツ倒しても面白くねぇから

 ごもっともである。


 相手がやる気が無いなら全然面白くないし、殴ってくださいとか言われるとキモすぎるだろ。

だったら今から出陣しましょう!


片っ端からケンカ伝説。幕開けですか?

ジ、ジハード勃発?

やらねぇっつってるだろ!


つーか。お前らこそどっかいけよもう。邪魔なんだよ!

ええっ。なんでだよ! そんな事言わないで、俺達の伝説作りましょうよぉ! 

てめーら全員消えろっつってんだ!!


今すぐ俺の視界から消えろ!


 確かに知り合いのチームだったら手を出すのも気が引けるよな。




 

 結局、俺も暴れられないまま終了となった。


 ってか俺。何もやってねぇ……


 誰もこっちに来てくれなかったし……暴れ損ねた感半端ない。


あっ、そろそろやべぇ。楓蓮さん。ポリが来そうです
じゃあここで解散しましょっか
ごめん。また遊びましょう!
分かりました。また喫茶店で
 迅速に行動しないと、ポリに見つかると面倒くさい。

 コンビニから四散するヤンキー達に紛れ、俺もささっと暗闇に消えてゆく。




 ってか……龍子さんも面白キャラしてやがる。


 なんかこう、波長が合うというか、高校での染谷くんのような存在に近いと思った。




 虎ちゃんもヤバイな。

 面白さにおいては龍子さん以上かもしれない。まぁ勝手に特攻隊長になっていたのはどうかと思ったが。




 あのチャリにはきっと彼女の全てが詰っている。そんな気がした。



――――――――――――――――――――――――

 登場人物紹介。


 ヴァルハラメンバー


 虎子が結成したチーム。ヴァルハラのメンバーは全部で八人。


 要するに不良だが、虎子や龍子。楓蓮にはとても忠実。


 ちなみに、長髪野郎もこのチームのメンバーである。


 

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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