第19話 ママチャリ300kmの旅 その13(暗闇・前編)
文字数 1,196文字
道の駅を出ると外はもう暗い。
しかしまだ50kmも走れていなかった。
翌日を到着予定日とした考えで飲み食いや宿泊に金を使っていたため、翌日の夜までにゴールできなければ、野宿&飯抜きで走行することになる。それをさけたい私は、翌日で到着できるような距離まで減らしておかなければと、スマホのマップで残りの距離を確認する。
まだ150kmほどあった。
これはもう嫌でも進まざるを得ない。
体はとうに疲れているが、マップに従って夜道を進んでいく。
しかしこの日は、“本物の恐怖”を知ることとなる。
私はスマホのマップに従って、海沿いの道を走っていた。
それにしてもスマホのマップ機能は本当に便利だ。これがなければ旅もままならない。そう考えると、スマホなしで日本を練り歩いた伊能忠敬には頭が下がる。というか、化け物だろ。自転車に乗ってもこのざまなのに。
しかし、スマホのマップも完璧ではない。
前の山岳地帯でそうだったように、たとえ険しかろうが、最短ルートを選択する。
そしてこいつは、またやってくれた。
マップのルートはたしかにその道を選択している。
――国道1号 富士由比バイパス
険しいどころか、そこは、場所によっては自転車で走ると違反になる道だった。
ちょうど侵入しようとしたところに、バッテンされた自転車の標識があったので、おかしいと思って調べてみると、そういうことだった。しかもちょうど周囲に道がなくなってきたところでこのトラブルだ。仕方なく、別の道を探すためにマップを見直す。
あるにはあった。
だがその道は、マップ上で見ただけでも、じつにか細くて不安げな道だった。
こういう道はハズレが多い。
この旅だけでなく、今までの経験則からでもそう思う。先につながっていると信じてそのような道を車で進めば、車の通れる道幅じゃなかった、なんてこともあった。これまでの道のりは山道でもなんでもマップ上にしっかりと書かれた道を走ってきたが、とうとうこのような道を進むことになるのか。
しかし、戻るにしてもずいぶんと戻らなければならない。それならば進むほかない。
「おい、マジかよ……」
私に立ちはだかったのは、またしても山だった。
しかし今回は険しさではない。
――“恐ろしさ”だ。
大人になってから、本当の恐怖を味わうとは思わなかった。
この旅でも恐怖を感じたときは何度かあった。
安全を確認したのに車に轢かれたとき。
通れないトンネルの前で死を連想したとき。
雪道のカーブで背後から車がやってくるとき。
それでも、これには。
山の作り出す――“暗闇”に勝ることは、なかった。
つづく
※この夜の暗闇の話を書きたかったのですが、記憶違いで出来事の順番を間違えてしまい、以前にアップした19話のときと比べて大きく加筆修正してあります。以前のものを読んでいる方がおられたら、ごめんちゃい。
しかしまだ50kmも走れていなかった。
翌日を到着予定日とした考えで飲み食いや宿泊に金を使っていたため、翌日の夜までにゴールできなければ、野宿&飯抜きで走行することになる。それをさけたい私は、翌日で到着できるような距離まで減らしておかなければと、スマホのマップで残りの距離を確認する。
まだ150kmほどあった。
これはもう嫌でも進まざるを得ない。
体はとうに疲れているが、マップに従って夜道を進んでいく。
しかしこの日は、“本物の恐怖”を知ることとなる。
私はスマホのマップに従って、海沿いの道を走っていた。
それにしてもスマホのマップ機能は本当に便利だ。これがなければ旅もままならない。そう考えると、スマホなしで日本を練り歩いた伊能忠敬には頭が下がる。というか、化け物だろ。自転車に乗ってもこのざまなのに。
しかし、スマホのマップも完璧ではない。
前の山岳地帯でそうだったように、たとえ険しかろうが、最短ルートを選択する。
そしてこいつは、またやってくれた。
マップのルートはたしかにその道を選択している。
――国道1号 富士由比バイパス
険しいどころか、そこは、場所によっては自転車で走ると違反になる道だった。
ちょうど侵入しようとしたところに、バッテンされた自転車の標識があったので、おかしいと思って調べてみると、そういうことだった。しかもちょうど周囲に道がなくなってきたところでこのトラブルだ。仕方なく、別の道を探すためにマップを見直す。
あるにはあった。
だがその道は、マップ上で見ただけでも、じつにか細くて不安げな道だった。
こういう道はハズレが多い。
この旅だけでなく、今までの経験則からでもそう思う。先につながっていると信じてそのような道を車で進めば、車の通れる道幅じゃなかった、なんてこともあった。これまでの道のりは山道でもなんでもマップ上にしっかりと書かれた道を走ってきたが、とうとうこのような道を進むことになるのか。
しかし、戻るにしてもずいぶんと戻らなければならない。それならば進むほかない。
「おい、マジかよ……」
私に立ちはだかったのは、またしても山だった。
しかし今回は険しさではない。
――“恐ろしさ”だ。
大人になってから、本当の恐怖を味わうとは思わなかった。
この旅でも恐怖を感じたときは何度かあった。
安全を確認したのに車に轢かれたとき。
通れないトンネルの前で死を連想したとき。
雪道のカーブで背後から車がやってくるとき。
それでも、これには。
山の作り出す――“暗闇”に勝ることは、なかった。
つづく
※この夜の暗闇の話を書きたかったのですが、記憶違いで出来事の順番を間違えてしまい、以前にアップした19話のときと比べて大きく加筆修正してあります。以前のものを読んでいる方がおられたら、ごめんちゃい。