第69話  夜の訪問 2

エピソード文字数 2,919文字


 ※



 聖奈がシャワーを浴びている間、僅かの時間でも小説を更新しようと思い、パソコンの電源を入れる。


 妄想を爆発させて、テキストを立ち上げようとすると、そろそろリミットの頭痛が激しくなってきた。


やばい……

 あと五分ほどで二時間になっちまう。

 ちなみに二時間を越える辺りから頭痛は激しくなってくる。

こりゃダメだ。パソコン弄ってる場合じゃない

 そうでなくとも今の時間でさえも、結構フラフラだった。

 俺はパソコンの電源を落とし、ベッドの上で天井を見上げるのだった。

お待たせ。あれ? どうしたの? 眠たい?

 なぁ聖奈。グレーのフリフリレースなチュニックって言うのか? しかもまさかの黒パンイチ姿に唖然となった。

 リラックスしすぎで笑えてくるぜ。



 じゃなくって! 俺の今の状況を伝えねば。

聖奈。悪いんだが……リミットが近いからもうすぐ男になっちまう
え~? そうなの? せっかく色々と持って来たのに

鞄から取り出したのは、色んな化粧品のようなビンやら、俺には縁の無さそうなモノが次から次へ出てくる。


そして聖奈は、家に来た時に玄関前に置いていたでかい鞄を持ってくると、中から出てきたのは小さなドレッサーみたいなボックスだった。


ああっ。ちょっと小さくてこじんまりしてて可愛いなどと思っていると、俺は今更ながら聖奈が何をしようとしているのか気付いた。

ちょっとだけやらせなさいよ
分かった分かった。好きにすりゃいいよ。
 俺を好きに化粧やらメイクしたいんだろ?
白竹さん家のママに先を越されちゃって悔しいんだもん!

 聖奈はこの話を何度もするんだよ。


 以前に白竹ママに色々と弄くられて、その写メを見た聖奈は後でやたら悔しがっていた。  


 私だってもっと楓蓮を可愛く出来る。そう言って聞かなかったからな。

やっぱ綺麗な髪ね。ムカつくくらいに

 そうは言うものの、鏡越しに見える聖奈はにこやかだった。

 後はもうこいつの好きにさせりゃいいか。そう思っていると、ぐっと頭が重くなった。



 リミットから二時間経過。

 あぁ……久しぶりに感じる生命の危機といったところか。

ん? どうしたの?
え? 何が? 気にせず弄ってくれ

 せっかく楽しんでるのに、ここで水を差す訳にはいかん。

 どうせなら限界ギリギリまで女でいてやろう。

でもさ聖奈。好きに弄るのは構わんが、俺が女として目覚めることは無いぞ。

 これだけは分かって貰わないと、どんどんエスカレートしちゃたまらん。

 だが聖奈は、俺の髪を解きながら溜息を漏らし、こう答えた。

ねぇ楓蓮。その考え方。ちょっと改めてみない?

この前あんた。楓蓮なんてオマケとか言ってたけども、そんな風に考えて欲しくない。

 鏡越しに目が合うと、髪を解いていた手も止まる。

あんたが男だと思ってるのは別に構わない。だけど……

楓蓮でいる間はもう少し女の子として振舞ってもいいんじゃない?


だって楓蓮は顔だって身体だって、普通の女の子と何一つ変わらないのに。

それを……女の子として扱ってあげないなんて。楓蓮が可哀想よ。

えっ?

 一瞬何を言われたのか理解出来なかった。

 楓蓮が可哀想? そんな発想……今まで考えたことが無かったからだ。

 あんたは女の子でもあるのよ。

 それならもっと女らしくしてあげて欲しい。


 言葉使いだってそうだし、もっと可愛い服着たり、お化粧したり、そうすれば楓蓮だって女の子としてきっと嬉しいと思うの。

…………楓蓮は、可哀想なのか。
もっと女らしくしても良いんじゃない? 

でも俺は……男なんだ。


そんな俺が急に女言葉喋ったりしたらキモいだろ?

そんなの。誰にも理解されないぞ

私は理解する。


男としても振る舞い、女としても別の人格を持って振舞う。それでいいじゃない。 

入れ替わり体質の人間なら……何も間違っていない。私はそう思う。

 聖奈はたまに核心に迫る話を持ち出してくる。そして色々と気づかされるんだ。


 今までそんな話をするのは家族だけだったからな。

 親父だって入れ替わり体質特有の考え方しか教えられなかったし、納得もしてきた。



 だけど聖奈は普通の人間であり、普通の人間から見た視線で色々と教えてくれる。

 それはきっとありがたい事なのだろう。

あ~あ。いいなぁ。私も男になってみたい。

 聖奈がお決まりの台詞をぼやく。


 だが聖奈よ。そんな簡単に男になりたいと言うが、この入れ替わり体質はそんな甘っちょろく考えて欲しくないぞ。 本当に色々あって苦労が絶えないんだから。


 さて、会話が途切れた所で、俺は思い出したことがあった。

 竜王さんの件である。一応、お前にも被害が及ぶ可能性があるからな。


 早速聖奈に伝えると、普通に俺の胸を揉みだした。おいおい。髪の毛弄りは飽きたのか?


 一通り話終えると聖奈は「心配ないわよ」と一蹴される。

一人で出歩く事なんてしないし。平八がいるからね

 ちなみに。平八さんなのだが……

 親父曰く「あいつが本気を出したら俺より強い」らしい。


 いつも無表情で「おっぱい職人」である平八さんが親父より強いと言うのは俄かに信じられなかった。


 親父は俺が本気を出しても余裕で遊ばれるレベルなのに、それよりも強いって……異次元レベルすぎるだろ。



 なので平八さんとは一度お手合わせ願いたいと密かに思う楓蓮なのであった。

それよりもさ、なんか喫茶店でも楽しんでるじゃない
おいおい。楽しんでいるというか、ヤバイ話をしてるんだが
いいなぁ。私だって喫茶店に行ってみたいのに

 こいつにとっては竜王さんのストーカー話など、どーでもいいらしい。



 ちなみに聖奈も喫茶店へと行ってみたい。それは前から聞いていたが、実は俺がストップを掛けている。

 というのも……


  

 楓蓮と聖奈が知り合いという事が分かれば、白峰家と黒澤家との関係もぐっと近くなるだろう。



 つまり学校でも染谷くんや白竹さんにも、楓蓮は蓮とも近い存在だとバレてしまうからな。

 そうなれば皆から突っ込まれ放題となるのは火を見るより明らかだ。


 聖奈は「そんなの私が上手くやるわよ」とは言ってくれるし、こいつならボロを出さないとは思っているが、この件に関しては「まだ待ってくれ」と言ってあるのだ。

すまんな聖奈
分かってるわよ。だけど嫉妬しちゃうわね。メイドで働いてるのも見てみたいし

 そう言いながら背中から抱きつくな。

 当然、こいつの胸が当たるので顔を引きつらせていると、至近距離からニヤけ顔になった聖奈は、全体重を乗せてくる。

ちょ。待て。おま……

 前のめりに倒れても抱擁を解こうとしない。

 しかも俺の胸を揉み揉みしだすと止まらない。



 本当ならすぐにそのスケベな手を捕まえるのだが、どうやらリミット限界を越えた俺は、それどころでは無かった。


 リミットから二時間半経過。

 ここからの頭痛は桁外れになり、もはや激痛になってくる。


 そして身体も満足に動かせない。

すまん。もうダメだ……

 前のめりになったまま身体を起こす事も出来ない。

 激しい頭痛と共に全身の力が抜けていく。

 こうなってくると、次は意識が朦朧としてくるんだ。



 これが入れ替わり体質の最大の弱点なんだよ。

 こうなってしまえば……何処であろうと、強制的に入れ替わってしまうんだ。


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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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