二本足で立つようになったのは

文字数 1,465文字

夜空があまりに遠いので

ワタクシたちは 二本足で立つようになったのです

天体図を指しながら 先生が教えてくれたね


ボクがノートをとってると

キミがエンピツのおしりで つついてきた

おどろいちゃったよ

だったさ キミとは話したこともなかったんだから

チェ ちがうのに

先生はわかってない

キミの横顔は ちょっとおこってた

それから 顔を寄せて こう言ったんだ

二本足で立つようになったのは

夜空が きれいだからよ

とってもきれいだから 立つようになったのよ

ホントにホントよ

キミの耳打ちを

キミのおこり口調とキミの真実を

ボクはいまも憶えてる

ちゃんとね 憶えてる


どのくらい経ったかな

天体図を頼りに 遠く 遠く

とうとう ここまでやって来た

いくつものターミナルを経て 軌道を変えて 

いまは たぶん 宇宙のまん中あたりを走ってる

ちがうよ まだ はじっこよ

そんなキミの声が 聞こえてきそうだ

車窓の斜め後方 下の方角から

二角形を結ぶ星が のんびりと巡ってくる

お互いを支えて ワルツを踊っているようだよ

よかった 戻れたんだ

キミは憶えてるかな

ボクたちの貝がらだよ


星座に属せない微小な遊星は 引力に導かれ 海に落下してしまいます

その中のいくつかは 貝がらになります

先生の言ってたことは 本当だったよ

クラスのみんなは 憶えてないだろうね

だって かってにおしゃべりしたり ふざけたりしてたからね

先生はとてもスクエアで 冗談も言わないから

みんな 退屈しちゃってたんだ

コツコツ ツツ コツ ツツ

あの時 キミはエンピツのおしりで つくえをたたいたんだよ

ヒミツの信号を送るみたいにね

夜になったら 海に行こうよ

だから ボクも ツツ コツ ツツ 返事を送ったんだ

うん 行こう


ボクたちは 波打ちぎわで貝がらを探した

でも ホントの貝がらと 星だった貝がらは

見分けがつかなかった

これ きっと星だったと思うんだ

キミの手には 小さな巻貝がひとつのっていた

ね 銀河みたいでしょ

ボクは キミの指先ほどの白い貝がらを選んだ

だって キラキラと合図を送ってきたから

ボクたちは それぞれ

思い切り高く投げ上げて 夜空に返した

それから 波打ち際に腰をおろした

膝を抱えて 満天の星を映す暗い海を だまって見てたんだ

潮騒に耳を澄ましていると

宇宙のルールが するすると解けていって

ボクたちの胸に どうしてかな なつかしい気持ちが満ちてきた

ボクは砂を払って キミの手を握ったんだ

ちょっとドキドキしながらね

握った手には 星のとんがった感触が少しだけ残っていた


キミに会いたい

キミとふたりきりになりたい


あと数光年でキミの駅だよ

あと数光年でキミの夜空だよ

あと数光年 数光年 


客車を降りると

きっと 美しい夜空が広がってるんだろうね 

その美しさと広さを 360度うっとりと見渡して

ボクは ため息をつくんだ 多分ね

もしかしたら 涙があふれてきちゃうかも

それから 小高い丘を探す

いちばん高いとこに着いたら

座り込んで膝を抱える

あの夜のボクたちみたいにね

そして キミを想うんだ


遅くなって ごめんよ

会いに来たよ

ボクが見えるかい


星々の煌めきに耳を澄ます

キミの笑い声やないしょ話が まじってたら

ほんとに泣いちゃうだろうな


会いたくて 会いたくて しかたないよ


腰を上げて

ひざを伸ばして

つま先立ちになって


満天の星に 思い切り手を広げて

キミの全部を抱き止める

ボクはきっと 胸をいっぱいにする

二本足で立つようになったのは……


おーい ここまで来たよ

ペンのおしりで 窓ガラスをたたく

キミに届くといいな

コツコツ ツツ コツ ツツ


あと数光年だよ

あと数光年で

キミのいる夜空だよ





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