16 多数決を疑う(1)

文字数 2,150文字

坂井豊貴さんに『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(岩波新書、2015)って本があるんだけど、民主主義に興味のある人ならぜひ、一読をオススメしたいなぁ~

あれでしょ。

多数決で選ばれた選択が、必ずしも多数派を代表してるものとは言えない、って話でしょ?

お!

なんで知ってんの?

ぼく昔ね、F1グランプリが好きでさ、よくチェックしてたんだ。

でね、F1でさ、年間王者を決めるじゃないですか、その決め方をどうするか?

どういう決め方をしたら、正しく一番強かったと言えるのか?

それって結構、難しい問題だと思いますね

たとえば今は21戦あるんですけど、1位になった回数を競う、って考え方があります。

1位を10回とったヤツ、8回とったヤツ、3回とったヤツがいれば、10回とったヤツが一番強かった、って言えますよね?

しかしですよ、もし1位を10回とったヤツが、残りは全部リタイアなり何なりで、どーしよーもない成績だったとしたら、どうなのか?

対して、1位を8回とったヤツが、じつは3位やら4位やら、10回も入賞してたとしたら、どうなのか?

確かに、1位をとった回数じゃ負けるけど、トータルに見たら、こいつのほーが強いと言えないか?

しかしです。

と、言いつつ、じつは1位を3回しかとってないヤツが、2位を18回もとってたとしたら、どうなのか?

こうなるともう、判断はビミョーですよね?

そこで、F1ではポイント制が導入されてんだけど、ただね、ポイントの配分をどうするのか、そこに正解はなくてね・・・・・・

フジテレビの深夜でテレビ中継してた時代はさぁ、

1位から6位までが入賞でね、ポイントは10-6-4-3-2-1点と、配分されてたんだ。

それがね、後に8位までが入賞となり、10-8-6-5-4-3-2-1点制へと移行。

と、思いきや、10位までが入賞になっちまい、25-18-15-12-10-8-6-4-2-1点となったり・・・・・・

じつにめまぐるしく変わる

どうポイント配分するかによって、場合によっては優勝者(王者)が変わっちゃうだろうね~
そうなんだよ

多数決はね、2択だったらいいんだけど、選択肢が3つ以上あるとね、どれが本当の意味で「多数派」だと言えるのか、ビミョーに分からなくなるんだよ。

票の割れが、発生するから。

F1の王者選定も、選択肢がたくさんある多数決だと見なせなくもない

さて、たとえばね、A、B、Cさんの3人から委員長を選ぶとする。

で、みんなに、そうだね、5人の投票者に記名してもらうとしよう

すると、結果Aさんが一番得票してね、選ばれたとする

この場合は、3人が票を入れたとしよう

したらね、大ブーイングが発生!

というのも、Aさんは好き嫌いが分れるタイプでね、票を入れなかった2人はさ、心底Aさんが大嫌いだったわけ。

一方で、Bさんは万人受けするタイプでね。その2人がBさんを推してたのはもちろんとして、Aさんに票を入れてた人も「Aさんじゃないなら、Bさんがいい」と思ってたとする。

ここに、F1ルールを適用してみようか。

1番手・・・ 3点

2番手・・・ 2点

3番手・・・ 1点

すると、Aさんの得点は、

3点 3点 3点 1点 1点 ・・・計11点

Bさんの得点は、

2点 2点 2点 3点 3点 ・・・計12点

なんと、Bさんの勝ちとなり、逆転してしまうんだ

だったら、委員長としてはね、

(1)みんなに嫌われてないBさんにすべきか、

(2)好き嫌いが分れる、ある意味キャラが立ってるAさんにすべきか、

どちらが、民主的な決定と言えるのか?

わかんなくなるよね?

ちなみに、こういった順位に配点しながら多数決に付す方法をね、ボルダルールという

でも単純に、1位が3点、2位が2点、3位が1点で良いのかどうか・・・・・・

1位には特別な価値があるって考え方もあるよね?

それこそ、F1みたいにさ

うん、そうだね

配点に差をつけるやり方を、スコアリングルールと言うんだが、

さて、ボルダルールとスコアリングルール、

どちらがより民主的だと言えるのか?

正解はないんじゃない?
ただ確実に言えることは、坂井さんが指摘するとおり、【有権者が何人でも、選択肢が何個でも、そして有権者の選択肢への順序付けがどのようであっても、ボルダルールはペア敗者を選ばない。つまり「いかなるときもペア敗者を選ばない」という規準、ペア敗者規準を満たすわけだ。その意味でボルダルールは集約ルールとして性能がよい】[坂井:P14]
ペア敗者規準?
つまりボルダルールで選ばれたAさんは、確実に、Bさんよりも、Cさんよりも、Dさんよりも・・・・・・ペア同士、1対1で比べてみるならね、つまり各人の投票行動においてさ、どっちが上位で得票していたか、を比較してみるならね、常に優っている、というわけ

それがスコアリングルールだと違ってくる。

結果的にはAさんが選ばれたんだけど、たとえば、AさんよりはBさんの方がマシだったな、と思う人の数がね、BさんよりAさんの方がいいな、と思っていた人の数を上回ることがある、ってわけ。

これが、ペア敗者なのに当選しちゃうってジレンマ

よくわかんないな~
詳しくは、上掲書を読んでみてくださいな~

[引用文献・参考文献]

坂井豊貴『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』岩波新書、2015

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登場人物紹介

デンケンさん(49)・・・・・・仙人のごとく在野に生きることを愛する遊牧民的活字ドランカー。かつては大学院にいたり教壇に立ったりしていたが、その都度その都度関心があることだけを考えていきたい、という専門性を磨こうとしないスタンス、及び『老子』の(悪)影響があり、アカデミズムを避けた・・・・・・がゆえに一介のサラリーマンである(薄給のため独身、おそらく生涯未婚)。

朝倉恭平(30)・・・・・・ご近所の鷺ノ森市文化創造センターに契約職員として勤務。

(チャットノベル『毒男女ぉパラダイス!!』の登場人物・朝倉5年後の姿)

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