真夜中の断頭台
文字数 1,993文字
ソライユの報告に年若い美貌を憂いに陰らせた枢機卿は、腐敗貴族の一派と争うこの国の重鎮である。
枢機卿の前で影のようにして跪き、唇を噛むソライユ。
枢機卿は法衣を翻すとその手をとった。
枢機卿は法衣を翻すとその手をとった。
彼女は目の前のこの美青年の中に一縷の希望を見出していた。
前王の血を引く者として王位継承の争いに巻き込まれ、命を狙われた幼いソライユを救出し、新しい名を与えて匿い育ててくれたのが彼だった。
処刑人という身分を与えられたのは、出自を隠すため。
前王の血を引く者として王位継承の争いに巻き込まれ、命を狙われた幼いソライユを救出し、新しい名を与えて匿い育ててくれたのが彼だった。
処刑人という身分を与えられたのは、出自を隠すため。
伸ばされた枢機卿の手に忠誠を込めて口づけをする。
彼と共にこの国を変える。暗黒の時代を終わらせ、正義と公正を世にもたらす。それがソライユの理想だった。
そんな彼女を優しい眼差しで見つめ返し、枢機卿が静かに口を開いた。
彼と共にこの国を変える。暗黒の時代を終わらせ、正義と公正を世にもたらす。それがソライユの理想だった。
そんな彼女を優しい眼差しで見つめ返し、枢機卿が静かに口を開いた。
※ ※ ※
『真夜中の断頭台』──近頃、王都ではそのように呼ばれる奇怪な暗殺事件が立て続けに起こっていた。
標的は腐敗貴族ばかり。
その私邸で堂々と為される犯行。
現場には切り離された犠牲者の首と胴が残される。
今宵、腐敗貴族一派の元締めである国務大臣の邸宅に集められたその取り巻きたちの話題も、自然とこの事件に関する事ばかりとなっていた。
標的は腐敗貴族ばかり。
その私邸で堂々と為される犯行。
現場には切り離された犠牲者の首と胴が残される。
今宵、腐敗貴族一派の元締めである国務大臣の邸宅に集められたその取り巻きたちの話題も、自然とこの事件に関する事ばかりとなっていた。
話は彼らと対立する政敵、枢機卿に対する不満に移る。
枢機卿との暗闘は、処刑合戦の様相を呈していた。
汚職を暴き、次々と処断する枢機卿。
捕えられた仲間を賄賂を使って救い出し、或いは邪魔者に濡れ衣を着せて葬る彼ら。
そのバランスは、ソライユの厳格な処刑執行によって枢機卿優位となりつつあったのだ。
汚職を暴き、次々と処断する枢機卿。
捕えられた仲間を賄賂を使って救い出し、或いは邪魔者に濡れ衣を着せて葬る彼ら。
そのバランスは、ソライユの厳格な処刑執行によって枢機卿優位となりつつあったのだ。
そのようにして密談を終え、仲間達を見送った大臣が寝室へと向かうと、そこでは異変が起きていた。
ベッドを囲むケープが夜風にはためいている。そして……。
開け放たれた窓。
カーテンと共に、金色の髪をなびかせて立つ女の姿。
開け放たれた窓。
カーテンと共に、金色の髪をなびかせて立つ女の姿。
それはつい先ほどまで議論の遡上に上げていたばかりの者──処刑執行長ソライユ・ペルソーヌその人だった。
だが、処刑場で見かける彼女とは違った、異様な出で立ちをしている。
だが、処刑場で見かける彼女とは違った、異様な出で立ちをしている。
フードは被らず堂々と美しい素顔を晒しているばかりか、その素肌の多くを露出した、局部だけを覆う革コルセット。
長い手袋とロングブーツには刺々とした悪魔的装飾が施され、地獄の使者かと見紛うばかり。
その怖ろしくも妖艶な装いの彼女が氷のような表情で厳かに口を開いた。
長い手袋とロングブーツには刺々とした悪魔的装飾が施され、地獄の使者かと見紛うばかり。
その怖ろしくも妖艶な装いの彼女が氷のような表情で厳かに口を開いた。
怯え、転がるように逃げ出す大臣に、ソライユはひとっ飛びに追いすがると、手にした鎖を振るった。
先端に奇怪なパーツをつけた幾条もの鉄鎖が宙を舞い、互いに組み合わさる。
ガアッシィ────ン!
一瞬で組み上がった人間の身長ほどの小型断頭台に拘束される大臣。
先端に奇怪なパーツをつけた幾条もの鉄鎖が宙を舞い、互いに組み合わさる。
ガアッシィ────ン!
一瞬で組み上がった人間の身長ほどの小型断頭台に拘束される大臣。
躊躇うことなくソライユが鎖を引く。
留め金が外れてギロチンの刃が落ちる。
しかし、それはガキンという鈍い音と共に止まってしまった。
留め金が外れてギロチンの刃が落ちる。
しかし、それはガキンという鈍い音と共に止まってしまった。
ガウンの下に隠されていた大臣の首には分厚い鋼鉄の首輪が巻かれていた。
それが刃を阻んだのだ。
それが刃を阻んだのだ。
その声を合図に衛士たちが部屋に雪崩れ込んで来た。
十重二十重に包囲するその人数。
完全な待ち伏せだった。
十重二十重に包囲するその人数。
完全な待ち伏せだった。
衛士に助け起こされた大臣が、下卑た笑顔でソライユの瞳をのぞき込む。