第1話

文字数 1,929文字

今日はめずらしくエディンバラは晴れている。
街の人はルンルンと闊歩している。
観光地としても機能するこの街は、休日は休日でいつも以上に忙しくする人がいる。
クリスティーンは、本を買いに出かけにきた。
今日はシャーロットと一緒だ。
最近、クリスティーンはこのシャーロットという友達ができたおかげで、
『友達がいない』というコンプレックスが薄れてきた。
 とはいえ、月に一回遊びに行く程度で、一人でいる時間がそんなに削られたわけではない。
「ねえ、ジョジョ・モイーズ、また新作出したんだね!」
シャーロットがクリスティーンの肩を2回叩いた後、その本を指差した。
「本当だ!『世界一のキライなあなたに』はこの前読んだよ」
シャーロットはクリスティーンをまじまじと見つめて、目を丸くしてパチパチと瞬きをした。
「クリスティーンも恋愛小説とか読むんだ・・・」
「失礼ね・・・私だって憧れとかあるのよ」
「じゃあ、クリスティーンはどんな人がタイプなの?」
「タイプ・・・そうね・・・」
クリスティーンは考え込んだが、明確なイメージが浮かばなかった。
そのままシャーロットから追及がないので、クリスティーンは言葉を濁して話題が変わるまでそのままやり過ごした。

 二人が目的の本を購入して、本屋を出ると、
「クリスティーン!」と呼ぶ声が聞こえた。
声がした方向をクリスティーンが向くと、後ろから
「こっちよ」
という声が聞こえた。
そこにはアンナがいた。
クリスティーンは妙な胸騒ぎがした。
「ちょうどよかった。クリスティーン、私の友達のエマよ!」
アンナの隣には、非常にスタイルの良いオーラを放った美しい白い肌で長い黒髪を靡かせた少女がいた。
「え、あのエマなの?女優のエマ・ウッドさん?」
シャーロットは口元を両手で覆った。
「そうよ、エマは私の友達なの!」
なんとも勝ち誇ったように自慢げなアンナの顔がそこにはあった。
一方で、クリスティーンはエマの存在は知っているが、興奮することなく冷静に挨拶をした。
「ちょうどあなたを探していたのよ、クリスティーン!」
クリスティーンは『面倒なことに巻き込まれそうだ』と感じて少したじろぐ。
「エマ、彼女がクリスティーンよ。私の友達の探偵さん!」
「ああ、あなたが!」
エマはびっくりした表情を浮かべた。
「意外だわ。想像していた以上に普通の女の子なのね!」
『普通の女の子』と聞いて、その通りではあるが、ちょっとムッとした気分にクリスティーンはなった。
「クリスティーンです」
ボソッとした声で、クリスティーンは端的にそう言った。
「エマよ!よろしく!早速だけど、あなたに聞いて欲しいことがあるの」
クリスティーンは首を傾げた。
「ああ、でもここで話すのも気が引けるから、カフェでも行きましょ!」
エマはそう言ってテキパキとスケジュールを組んでいく。
クリスティーンとシャーロットもこのあとはスターバックスでゆっくりするつもりだったのだが、予定が少し変更になるので『スケジュール変更になるけど良い?』とクリスティーンはシャーロットに尋ねた。
「もちろん!」
シャーロットはむしろ乗り気だったので、渋々クリスティーンはうなづきながら、エマの案内についていくことにした。

「私、女優という職業に飽きちゃったの!」
クリスティーンとシャーロットは『ポカーン』とした顔を浮かべて呆気に取られた。
「どうして?」
お気に入りの手帳にエマのサインをもらったばかりのシャーロットは、頻繁に瞬きしている。
「それが分からないのよ・・・」
エマは下を向いてカプチーノを飲んだ。
「今回クリスティーンに解いてもらいたい謎はこれなの。どうしてエマが女優に興味を失ってしまったのかを調べて欲しいの」
アンナはそう言った。
「うーん、わたしは、心理学者ではないので・・・期待に応えられない可能性は高いわ」
クリスティーンはまたアンナに無茶な依頼をされたことに気づき、青ざめる。
そもそもクリスティーンは心理学は眠くなるので好きではない。
探偵とは元来、人の心ではなく、証拠と手がかりから論理を組み立てて謎を解く。
心情は推測程度にとどめる。
ただ、今回は人の心情や感情をメインにするのだ。
『いちいち他人の感覚を訪ねていくのは面倒だ・・・』
クリスティーンはそう思っている。
ただシャーロットは乗り気のようだ。
その様子を見ると、いつものように即答で無理とも言えない、いやむしろ断れない状況にある。
「解決されなくても良いのよ。何かきっかけが掴めれば・・・」
エマは悲しそうにそう言った。
それを見て、シャーロットは目をきらきら光らせながらクリスティーンにアイコンタクトを送った。
クリスティーンは『仕方ない・・・』と内心ため息をこぼしながら、
「わかったわ」
と返事をしてその依頼を承諾した。

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