第40話 最後の村①
文字数 1,338文字
母親の愛車N-BOXは何度も運転しているが、同じ軽自動車でもミライースは足回りがやや窮屈だった。
正語 は自分の車でコータの家に行くと持ちかけたが、道幅が狭いから大きな車は無理だと真理子に止められた。
——私が運転します。
と真理子は言ったが、それを正語はやんわり断わった。
真理子の運転下手は先刻承知だ。
かくして正語は、凹み傷だらけのピンクの車を運転することとなった。

「弟さんは、おいくつなんですか?」
「17です」
コータが女子更衣室に忍び込んで女の子のバックに悪戯したと真理子は言った——卑猥なメモを中に入れたと。
男性器の名称でも書いたかと、正語は勝手に想像していた。
「立ち入った事をききますが——」
正語が言うと、真理子が吹き出した。
「ごめんなさい。立ち入ったことをきくのが、お仕事ですよね?」
なんでもきいて下さいと、真理子は親しげに笑った。
「……コータ君は、病院に通っているんですか?」
「はい。湯川の病院です」と真理子はカバンをガサゴソいわせた。「診察券見ます? コータの症状を病院に問い合わせるんですよね?」
「あなたは、温室に鍵をかけたのはコータ君ではないと考えているんですよね? 他に誰か心当たりがあるんですか?」
「鍵なんか掛かかってなかったんだと思います」
「それなのに一輝さんは、中から出られなかったんですか」
「仕事に夢中になりすぎているうちに、具合が悪くなったんじゃないでしょうか」
「あの温室で何を作ってたんですか?」
「トマトです。新種のフルーツトマトを作って、町の名産にしようとしていました」
「一輝さんは、霊媒師としての仕事はしなかったんですか?」
真理子はまた笑った。「信じてないくせに」と軽く正語の肩を小突く。
「そういうの、叔母の代で終わりです」
「鷲宮久仁子 さんですか?」
はいと真理子はうなずいた。「私も一輝さんも、あの人ほどの力はありません」
「でも、あなたは一輝さんの霊は呼び出せたんですよね?」
真理子はちょっと驚いた顔で、こっちを見た。
「そんなことも調べたんですか……親戚の方に頼まれたんです」
「『よかれと思ってしたことが裏目に出た』と、一輝さんは言ったんでしたね、どういう意味なんでしょう?」
全くわかりませんと真理子は眉を寄せた。
「もっと色々聞きたかったんですけど……私の力不足です……」
真理子の言うままに走らせていた車は、民家がほとんどない寂しい場所にきていた。
「雅さんから伺ったんですが、一輝さんは岡本さん親子のことを心配していたようですね。何か相談を受けていたんですか?」
「私より、雅さんにきいた方がいいと思います。岡本さんと親しいし……」
それにと、真理子は言いにくそうに続けた。
「一輝さんを殴ってから、岡本さんは町の人たちからちょっと距離を置かれてしまって……私が岡本さんに声をかけても、避けられているんです……」
町の名士一族に暴力を振るうと、それだけで後ろ指をさされてしまうようだ。
突然、真理子が思い出したように顔を上げた。
「九我さん、コータの家に行く前に神社に寄ってみますか?」
「一輝さんのスマホが見つかった神社ですね。お願いします」
その神社は真理子の母親が首を吊った神社でもあったなと、正語は思い出していた。
——私が運転します。
と真理子は言ったが、それを正語はやんわり断わった。
真理子の運転下手は先刻承知だ。
かくして正語は、凹み傷だらけのピンクの車を運転することとなった。

「弟さんは、おいくつなんですか?」
「17です」
コータが女子更衣室に忍び込んで女の子のバックに悪戯したと真理子は言った——卑猥なメモを中に入れたと。
男性器の名称でも書いたかと、正語は勝手に想像していた。
「立ち入った事をききますが——」
正語が言うと、真理子が吹き出した。
「ごめんなさい。立ち入ったことをきくのが、お仕事ですよね?」
なんでもきいて下さいと、真理子は親しげに笑った。
「……コータ君は、病院に通っているんですか?」
「はい。湯川の病院です」と真理子はカバンをガサゴソいわせた。「診察券見ます? コータの症状を病院に問い合わせるんですよね?」
「あなたは、温室に鍵をかけたのはコータ君ではないと考えているんですよね? 他に誰か心当たりがあるんですか?」
「鍵なんか掛かかってなかったんだと思います」
「それなのに一輝さんは、中から出られなかったんですか」
「仕事に夢中になりすぎているうちに、具合が悪くなったんじゃないでしょうか」
「あの温室で何を作ってたんですか?」
「トマトです。新種のフルーツトマトを作って、町の名産にしようとしていました」
「一輝さんは、霊媒師としての仕事はしなかったんですか?」
真理子はまた笑った。「信じてないくせに」と軽く正語の肩を小突く。
「そういうの、叔母の代で終わりです」
「
はいと真理子はうなずいた。「私も一輝さんも、あの人ほどの力はありません」
「でも、あなたは一輝さんの霊は呼び出せたんですよね?」
真理子はちょっと驚いた顔で、こっちを見た。
「そんなことも調べたんですか……親戚の方に頼まれたんです」
「『よかれと思ってしたことが裏目に出た』と、一輝さんは言ったんでしたね、どういう意味なんでしょう?」
全くわかりませんと真理子は眉を寄せた。
「もっと色々聞きたかったんですけど……私の力不足です……」
真理子の言うままに走らせていた車は、民家がほとんどない寂しい場所にきていた。
「雅さんから伺ったんですが、一輝さんは岡本さん親子のことを心配していたようですね。何か相談を受けていたんですか?」
「私より、雅さんにきいた方がいいと思います。岡本さんと親しいし……」
それにと、真理子は言いにくそうに続けた。
「一輝さんを殴ってから、岡本さんは町の人たちからちょっと距離を置かれてしまって……私が岡本さんに声をかけても、避けられているんです……」
町の名士一族に暴力を振るうと、それだけで後ろ指をさされてしまうようだ。
突然、真理子が思い出したように顔を上げた。
「九我さん、コータの家に行く前に神社に寄ってみますか?」
「一輝さんのスマホが見つかった神社ですね。お願いします」
その神社は真理子の母親が首を吊った神社でもあったなと、正語は思い出していた。