秘境の里うつほ

文字数 681文字

いや〜、今年も綺麗に紅葉したね。
山々の隙間から見える滝もなかなか良い絵…。
戌宮様!
あ、八文。

どうかしたの?

どうかしたの?ではありません!

まだ風邪が治ってからそれほど経っていないというのに…。もう木登りなさって。

ご心配どうも。

でも、平気だよ。

私がそういうんだから大丈夫。

全く…。

くれぐれもお怪我はなさいませんよう、気を付けてくださいな。

私もそこは十二分に気をつけているよ。

何たって、お仕事に支障をきたすようなことは極力避けなければいけないからね。

それよりも貴女のお身体の方が心配なのです。

確かに仕事は大事ですが…。

まあ、とにかく平和に暮らそってことね。
戌宮様、冷泉より伝言です。
あら、なになに?
里に外の者が迷い込んだようです。

沙耶殿が保護しているとのことで、現在私共でお迎えの準備をしております。

仕事が早くて助かるよ。

じゃあ、緋稲にも宜しくね。

わたくしがお伝えいたします。
了解。じゃあ、頼んだよ。
はい。

失礼いたします。

失礼いたします!
戌宮は色付いた木の葉とともに地へ降りる。
紅の…身に降る楓、いとおかし。

人忘ることやはなかりける…。

なーんちゃって、昔の言葉は難しいなー。
でも…。ずっとここで育ってきた私でも慈しめるのならば…。
旅人さんが忘れるはずもないね。

料理も美味しいし。

特に温泉から見る山々。

ちらっと覗く滝は…私の趣味か。

とにもかくにも、私もお迎えの準備をしなくちゃなー。
深い深い山奥の里、うつほ。

まるで世界から切り離されているかのようなこの秘境。

そこを訪れたという人は口を揃えてこういうのだと言う。


もしかすると自分は、神様の世界に行ってきたのかもしれないと―

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登場人物紹介

櫛笥 緋稲(くしげ ひいな)

水晶館を管理する少女。

少女といっても、十八歳らしい。

おっとりのんびりふわふわとしていて、よくドジをする。

しかし、何事にも真摯に取り組もうとする真面目さん。

近衛 戌宮(このえ いぬみや)

巫女を務める少女。十六歳。

フレンドリーで、特に沙耶と仲が良い。

少し自由奔放なところがあり、世話係の八文を困らせることもある。

冷泉 沙耶(れいぜい さや)

うつほの周りに迷い込んだ人がいないか見回っているのが冷泉家。その長女が沙耶。

しっかりしていているが、少し素直になれない十六歳。

思いやりの心は強い。

西園寺 八文(さいおんじ やぶみ)

近衛家に仕える侍女。二十八歳。

昔から戌宮の世話係を任されており、信頼が厚い。

決して甘くはないが、優しい。

瑠乃(るの)

うつほに迷い込んだ少女。十五歳。

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