第11話 大丈夫
文字数 1,320文字
ポストに差出人の名が書かれていない手紙が入っていた。覚えている限り、これで3通目だ。宛名がレイなので私が確かめることも出来ないが、この手紙を見るとレイの挙動がおかしくなる。差出人不明なのに相手が誰なのかわかってるみたいだ。あまり隠し立てする方ではないが、読まれると困るのか手紙は読んだ後にシュレッダーにかける念の入れようだ。怪しい。
今日は手紙の差出人に呼び出されたのか、読み終わると落ち着かない様子で身支度をしている。急用で出かけるので夕飯はいらないと言われた。
悪いと思ったが、上着のポケットに入れた手紙をトイレに行った隙に読んでしまった。19時に駅前の喫茶店BONで待ってます。やはり呼び出しだ。
見つかるとヤバイと思い焦ったので全文を把握できなかった。浮気とは違う気がしたが、こればかりは断定できない。しゃあない、買い物ついでに駅前のコンビニでも寄ってみるか。
嫌な予感がしていた。こういう時は決まって風向きが悪いほうに向くものだ。そして私の予感は良く当たる。
駅に行く途中で、大通りを隔てた向こう側の通りにレイが歩いているのが見えた。一人だったので声を掛けようとしたが、頻繁に車が往来するので叫んでも聞こえないだろう。横断歩道の信号が赤に変わりそうだったので、全力で走った。走りながらなぜかレイから目を離せなかった。
少し間隔を開けてレイの背後を歩いていた女が急に小走りに近づいた。何かを突き出すように前に出した手にナイフが光った。
「レイ、後ろ!」歩道の真ん中で声の限りに叫んだ。
レイは一瞬、こちらを見てから背後を振り返った。女はレイの顔を見て
「レイ、レイ、いゃーーーあ、レイ」
歩道を渡り切った。早くレイを助けないと。
「くるな!」
女がナイフを持っているので危険と判断したのか、レイは私を制して顔を歪めた。血に染まったナイフがポトリと道路に落ちたのを見た。
「ああ、だめ、だめ、やだよ、レイ!」そばに駆け寄り、屈んでるレイを起こそうとするが、手が震えてうまくいかない。
「大丈夫、大した傷じゃない。切れたのは手だけだから」
振り向いた瞬間に咄嗟にナイフを掴んだらしい。掌の内側の関節の辺りがざっくり切れている。ポケットにあったハンカチできつく縛ったら、見る間に真っ赤な鮮血に染まった。顔を上げてレイを見る。
「大丈夫だから、、、大丈夫、大丈夫」
安心させようとした言葉は、まるで自分を励ますように何回も繰り返された。
女は逃げることもなく言葉も発せず、呆然と立ち尽くしている。自分の行動が全く理解できていない様子だ。
「しおり、お願い、このことは公にしない。警察にも通報しない。いい?」
「・・・レイがそういうなら、、、」言いながらも手の震えが止まらない。
店じまいの店舗が並んだ通りに人気はない。ナイフを拾ってポケットに入れたレイは落ち着いた様子で女に声をかけた。
「佳奈美さん、こっちに来て、ちょっと話そう。そこの公園まで行こう」
ダメだよ、何度も首を振る私を制して女を促す。彼女は顔面蒼白で心此処にあらずといった風に見えた。私も後を追う。ケガの状態が心配だよ。