第38話 薫るメニュー

文字数 5,864文字

ここでアリサは初めて
両親の出会いの話を真剣に聞いた。
そして、厳しい評価を下す。

「まあ素敵な出会いのエピソード・・うっとり
等と言うとでも思ったか? この戯け者めが
刑事なのに、掛け算も出来ないなんて致命的よ。 
やっぱり男を見る目ないんじゃない?
それにお付き合いもせず、数回レジ前で話しただけで
いきなり結婚って・・絶対に重いと思うわー。
しまいには、コンビニに婚姻届を持ってきて
芝居がかって逮捕状だとか言って

『逮捕する』

キリッだなんてキモい事もするし。重いし臭いわ。
私にもその血が半分流れていると思うと
ぞっとするわね。忌々しい。
まだまだアレをパパとは言えないわ。親父止まりね」 

「アリサ・・この戯け者めがって・・
どこで覚えたのよ・・その言い回し」

「そんなの一々覚えていないよ?
何かの本で見たとしか言い様がないわ
1ヵ月に50冊は読むからねアリサ。
学校の図書室はもう制覇しちゃったし
近所の児童会館の方に足を伸ばすという
プランを立ててて・・って
そんな事はどうでもいいの
ママ! この事は私以外に誰にも言っちゃだめよ?
生き恥を晒すだけだからね!!」 
きっぱり言うアリサ。

「はぁ・・そうよね。予想通りの反応だわ。
言うんじゃなかったかな・・わかったわ
この話はお墓まで持っていくわ。気を付ける
でもパパをアレ呼ばわりはしないでよね」

「そうね。素直でよろしい、でも指輪の所だけはさー
不覚にも、私もこんな事されたいなー
なんて思っちゃったかなー。ほんのちょっとよ?」

「あらあら・・でしょ? でしょ? 
なんだかんだ言ってもママの子供じゃない!
アリサも可愛い所あるぅー」
満面の笑顔で、ぎゅう。突然抱きしめられる。

「ちょお、ママ苦しいって」

「照れるな照れるな小さい頃は
よくやってあげたでしょう? うりうりー。
でもアリサ、あなた小さい頃は
パパに付きっ切りだったのよ? ママが嫉妬する位に」
更に力がこもる。

「痛いって。すごい腕力ね
アリサを締め落とそうとしてるの?
よもや、さっきの事根に持ってない?
抱擁にしては痛すぎるよー
それにママ、人は時と共に変わるのよ。
今の親父は駄目ね。
娘の私に、髪の毛が生えただの減っただの
全く興味のない話しかして来ないんだから
でもさ、イメージしてみたんだけど
鎖の長さにもよるけど、もし短すぎた場合は
お互いの左手薬指に鎖付きの指輪を
嵌めて向かい合った状態だと、一緒に歩く時
どちらかがマイケル・ジャウソソみたいに
ムーソウォークしないといけないよね? 
そう考えたら間抜けだなって思っちゃったわ」

「ププッ、そういえばそうだった。
鎖が30センチ位しかなくって
めちゃめちゃ動きづらかったわね。
でも、お互い外すのも嫌だったし結局、パパが
後ろ向きでコンビニ出て行ったの思い出したわ。
あの時、もう一人いた後輩に
一部始終見られちゃったからね。その子に
後の事を任せて、店長に今までお世話になった
お礼も言わずに出て行っちゃったっけ」

「そうか、オヤジもどうせ断られると思って
成功した後に一緒に移動するって事までは
頭で描けなかったか。だから鎖は
指輪同士を繋げる事だけを考え更に
普段使っている手錠と同じ位の長さにした訳ね。
一緒に嵌めた時の事とか体の位置関係等は
眼中になかったんだね。
この深謀遠慮(しんぼうえんりょ)の無さは、刑事にとっては致命的よね」

「アリサ、あなた凄いわね。深謀遠慮?
何その言葉。ママも知らないわ。
しかもそこまで克明に言い当てるなんて。
パパ、全く同じ事言っていたのよ。 
鎖、手錠と同じ長さにしたんだとか。
後の事は考えて無かったとかほぼ全部よ。前言撤回するわ
アリサはきっと良い刑事になるわ」

「な・・?」
突然褒められどうして良いかわからないアリサ
と、咄嗟に。

「そ、そういえば、当時ママは家出娘。
そして相手は一応馬鹿ではあるけど公務員。
大袈裟かも知れないけど、玉の輿に乗れたんじゃない? 
公務員将来安泰だもんね」

アリサの言葉に意味深に微笑み。

「フフッ、意外と逆玉だったりしてね。
なんてね。あ、なんでもないわ。
で? この暗号ね? 
カタカナのさとすが組み合わさってるわね。
見当もつかないわ、これは?」

「この紙、あのおばさんが事件が起こる前に
見つけたらしいの。気味悪くなって
ゴミ箱に捨てたらしいんだけどその話を聞いて
アリサが拾ってきたの」

「へえ、じゃああの人がもしかしたら
この紙を送った人に狙われてたって事になるのかしら?
でも、ビュッフェでターゲットに
毒を盛るのは相当大変よ。毒は調べた所
あの人のサラダにしか入ってなかったんだから。
だから、警察もこのホテルの評判を落とす為の
無差別殺人だって考えだし 
さっき洋食のコーナーに行って
シェフから話を聞いたんだけど
怪しい人間はいなかったって話なのよ。
ただ、一人無断欠勤したシェフがいて
その穴埋めとして、サラダのコーナーと
スープのコーナーが近くなので
スープ担当のシェフが行き来している
いう話は聞いたわ」

「うーん、じゃあ下のこの文字は何か分かる?」
は危険が赤い文字。な香り、が緑の文字。 
この6文字を指してアリサは聞いた。

「これかあ、いかにも何か意味はある筈だろうけど
さっぱりだわ。でもこの暗号
もしビュッフェの始まる前に解いていたら
危険な香り=毒? を、照代さんは
回避出来たのじゃないかしら?
・・・犯人は照代さんをどうしたかったのかしら
・・わからないわ」

暫しの沈黙。そしてアリサが思い出す。

「ママーお腹減ったよー
アリサぶっへで何にも食べてないよー」

「あらそうなの? そういえばママもよ。 
仕方ない、悔しいけどルームサービスでも頼むね。 
会場の料理は全処分らしいし」

「えー? 勿体無いねー
アリサちょっと位毒入ってても食べたいよ」

「ママも同じ気分よ」
しかし、0・1ミリで鯨が死ぬ程の猛毒である。

「ルームサービスのメニュー部屋にある?」

「電話の傍にあるわ。どれにしようか?」
メニューを見る。すると・・
どす黒いオーラが漂っている。
一体どんなメニューが記されているのだ?

ブルーチーズの盛り合わせ 2500円

ドリアンサラダ 3000円

くさやお茶漬け 1100円

おにぎり (具。は7。種類から、選べま。す) 
くさや タラコくさや 山葵くさや 梅くさや
鮭くさや おかかくさや 昆布くさや 各1100円

シュールストレミングスカツカレー 2600円

ホンオフェ丼 2900円
 
サンドイッチ 2800円
(シ。ー。チキンはく。さや、で作ってありま。す)

食べられる美味しい土入りコーヒー 1000円

鍋焼きうどん 3000円
(く、さやを、うどん。に練り。込んでま、す)

隆之見大福 10円

まき○ソフトクリーム 5円

ブリブリ君 4円

おじいちゃんのべたべた焼き
(超人。気、の、お。煎。餅、で。す) 1枚 2000円

他にもあり得ない内容で
あり得ない値段の品々が羅列している。
カッコの中のおかしな所で
句読点が打ってある注意書きは
隆之が書いたと思われる。よく見ると
一階売店のアイスクリーム等も混ざっている
この中ならつい買ってしまいそうな値段だ。 

「どれにする? アリサ」

「どれにする? じゃないわよ。目が見えないの?
このメニューは、あのじじいが監修しているな
・・ママ止めようよ」
ビュッフェには介入出来なかったが
ルームサービス位は臭いのキツイ料理にしようと
頑張った結果がこのメニューである。
自分のホテルとはいえ一般大衆には
受け入れられない内容である。更に値段が高い。

「でも腹ペコなのよ私は。くさやは食べ物よ
鼻を摘まんで食べれば死にはしないわ」

「でもケイトちゃんのスキルで
私はくさやが食べられない体になっているの」

「ケイトちゃん?」

「そう、一階で迷子になっていて
アリサが助けたのよ。その子が私に
くさやが食べられない様にスキルを使ったのよ」

「そんな嘘まで突いて食べたくないなら
アリサの分は頼まないわよ?」

「じゃあブルーチーズを・・
タンパク質は重要だし・・
あのじじい・・許さない!!」
嫌々頼むアリサ。

「分かったわ」
電話を取り連絡するママ。
「これとこれとこれお願いね」

暫くするとルームサービスがやってきた。

「失礼しますうっぷ」

ルームサービスは鼻をつまみながら持ってきた。
臭いはキツイ。だが、空腹は最高のご馳走
世界で一番旨い物に見えた。
しかし、これを運ぶはめになった
不幸な星の元に生まれたボーイは

「こんな注文来たの初めてですよ。
厨房でも皆苦しみながら、涙を流し
咳込みながら最後には
ゲロを吐きながら作っていましたよ。
こんなゴミ二度と注文しない欲しいもんですよ!!」
と捨て台詞を言い残し去っていった。

バタン!!

「いただきまー」
ピンポーン 誰かが来た様だ。 

「は?」
ママはイラつきながらドアを開けた。

すると、八郎が少し驚いた様子でママを見ながら

「この部屋だったんですね? 探しました
と言ってもすぐでしたが」

「え? どういう事?」

「先輩が泊まってる部屋を探していたんです」

「何か驚いてるようだけど?」

「そうなんです。先輩とは、4階で降りて別れましたが
どの階に泊まっているかはわかりません。
なので、5階から最上階まで虱潰しに
探そうとしていたんですよ。
そしたら5階の3番目の部屋にいたので
あっという間に見つかったなあと」

「そうだったのね? 下手すれば
何時間かかるか分からない冒険に出た訳ね? 
勇者ねー。で、何の用かしら?」

「そうです。まあこういう作業は好きなので
平気でしたけど
それに絶対に見つかると信じていたさ!!」
おかしなテンションの八郎。

「そ、そうなの」
(情緒不安定ね)

「・・うっそういえばこの部屋臭いませんか?
オイラの鼻が馬鹿になったのかな?」

「あっ・・それはその・・」

「まあいいです。実は彼女と喧嘩してしまって
口喧嘩ですけど。こんなホテルに泊まったばかりに
怖い目にあったと・・それで追い出されて・・
今外をうろついていたら危険ですよね? 
それで頼れるのは先輩しかいないと思って
ここにお邪魔しようと思ったんです。
鍵も内側からかけられてしまって・・
謝ろうにも電話も出てくれずです」

「そうなの? 仕方ないわね上がっていいわ」

「助かります」

「こんばんは八郎さん」

「こんばんわアリサちゃん、この臭いで思い出したけど
うん○く斉藤の臭いは取れた?」
うん○くさい斉藤の事をうん○く斉藤とは
かなりのダジャレである・・
こやつ・・ダジャレの達人であるな・・!!

「うん、また付けられちゃったけど
それもプールで落としきれたわ」

「アリサ? プールにも行っていたの?
それ初耳よ? あんた泳げるようになったの?
それに、またって?
2回もあの臭いを浴びたの?」

「そう、厨房に生意気にも私の許可も無しで
入ってきて、そこで勝手に私の名前を聞いてきて
その時浴びせられた・・
プールは浮き輪を使ったから平気よ
ちょっと水に入り過ぎて寒気がするけどね」
悲しそうな顔で答えるアリサ。

「アリサ・・竜牙刑事に会う前にも
その後にも色々あったのね?
ケイトちゃんとかプールとか厨房とか
初耳の出来事が多すぎるわ。何で全部話さないの?」

「文字数が多くなっちゃって大変だから・・」
うんうん

「そうか、なら仕方ないわね・・って
文字数ってなあに?」

「乙女の秘密!!」

「なら深くは聞かない」

「先輩。事件はどうなったんですか?
不安で仕方なくって・・」

「そう、丁度その話してて八郎君が来たのよ」

「そうなんですか・・
それで犯人の目星は付いたんですか?」

「それが全く・・アリサが5階のゴミ箱拾った
暗号みたいなのが解けなくて・・
これなんだけど八郎君は分かる?」

「へえ、そんな物が・・どれどれ?」
と受け取り見てみる八郎

「何か不思議な暗号ですね。
そして、下にも色が付いた文字が?
これは分からないなあ・・
これが被害者に届いたって事ですよね?」

「そうなの」


プルルルル

八郎の携帯が鳴る。

「ん? あ、彼女からです。ちょっと失礼。
もしもし、あ・・こっちこそほんとにごめん
もうあんな事は言わないから・・」

「何て言ってたの?」

「逆に謝られました。そして、戻ってきてと」

「そう、よかったわね。そうだお土産に
このおにぎりどう? くさや山葵味だけど」

「いえ、これから彼女に会うのに
口臭を酷くはしたくないので。この臭いで話したら
また追い出されますよ。気持ちだけ頂いときます
臭いの原因これだったんですね?」

「ま、まあね」

「それ食べるんですか? オイラも
ルムサビのメニュー開いた瞬間気持ち悪くなって
破り捨てちゃいましたよ」

「ルムサビって・・何でも若い子は略すのねー
でも一時的な感情の昂りで
ホテルの備品を破っちゃ駄目よ」

「そうでしたね。後でガムテで補強しときますよ」

「また略した! でもセロテじゃないと
内容が見られないんじゃない?」

「どうせあんな物、内容が分かった所で
誰も頼まないでしょ?
全品悪臭が漂っているんですから
悪意しかないです」

「う・・食べようと思ったけど・・止めようかな」

「そうですよ。やめた方がいいと思いますよ
じゃあこれで失礼します」

「じゃあね」

バタン

「ママー、食べないの?」

「一日位食べなくても大丈夫でしょ?」

「でも、7000円位無駄にしちゃったね(´・ω・`)」

「はあー何でこんな物買っちゃったんでしょう
じゃあもう早いけどシャワー行って寝ましょう」

「はいっ!」
ただ、今シャワーを浴びて綺麗になっても
薫る食品達のせいで、また臭いが体に
纏わり付くのではないだろうか?

すると

ピンポーン

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