初めてのすべり台
文字数 1,996文字
ふーんふんふーん♪
………。
ベッドはひとつ、枕はふたつ♪
…………。
体はふたつで、いずれはひとつ～♪
その不快なオリジナルソングやめろ！
『深い』？ そうそう、勇成君はいつも深いトコまで――
言わせると思ったかそれ以上！
つーか、なにが哀しくて女子２人でラブホに入らなきゃいけないわけよ。
だって、リナちゃんがおねだりするから。
してねーわ。
……美優、なんだかテンション高くない？
リナちゃん、遠足の前の日って興奮しなかった？
は？ 子どもの頃は、まあ……。
いま、私そんな気分！
しないからね。
そのドキドキの先には進まないからね？
はぁ。
……どうしてこんなことに。
～～ 以下、回想 ～～
まさか図書館がいっぱいだとはねぇ。どうしよっか。
いいじゃん、テスト勉強なんて、暇なときにすれば。
テスト勉強はそういう性質のものじゃないと思うよ。
うー、外は暑いなぁ。
他にエアコンが効いてて、静かなところは―――
あ！
待って！ 嫌な予感しかしない！
う、腕を引っ張るな、や、やめ――
～～ 回想終了 ～～
……まあ、あれだよね。
私も押しに弱すぎるって話だけどね。
ラブホ、ラブホ♪ リナちゃんとラブホ！
コラそこ、ベッドで跳ねない。
――仕方ないから、勉強しよっか。
うん！……あ、もしかして、大人のお勉強？
高校生のお勉強。
ほら、さっさと教科書開く。
え、なにを開くって？
てめーいい加減ラブホモードOFFにしろ。
そんな無茶な……だって、ラブホだもん。
そりゃそうだけどさ……。
つーかこの部屋むっちゃ広いし……なにアレ？
アレ？
ああ、あれはお風呂だよ。ガラス張りのお風呂。
じゃなくて――その中にあるアレ……すべり台??
すべり台だねぇ。
お風呂にすべり台？
なに？ なにが目的なのこのホテル。
童心に返って開放的になれるんじゃないかな。
えぐい童心もあったものね……。
いいじゃない。思い出に残るよ、きっと。
まあ、裸であんなとこ滑ったら記憶には残るだろうけど。
だよね。
でさ、将来思い出すんだよ。優しい旦那さんと、家族みんなで公園に行ってさ。子どもがすべり台で遊んでるときとかに、ふと、あの頃を――
やだなー。そのシチュエーションでのその回想は嫌だなー。
ああ、勇成君とすべり台で遊んだなぁ、いい思い出だなぁ……って。
…………。
念のため聞くけどさ、そこで隣にいる『優しい旦那さん』は、勇成君本人なんだよね？
うーん……｡
そういうこともあるかもしれない。
可能性低いのかよ。じゃあもっとやだよ。なんで昔のセフレをしみじみと思い出してんだよ。
――つーか、ホント豪華だよねこの部屋。
料金、高いんじゃないの？ ２時間の休憩とはいえ。
うーん、ちょっと高めだね。
でも大丈夫、ここのホテルのポイントも貯まってるから、ほとんど無料で済ませられるよ。
いろいろと聞き逃せない点があったけど積極的に聞き逃すことにするわ。
はーあ……。
あ、リナちゃんずるい。私を置いて1人でおっ始めないでよ。
…………。
だから、私たちはテスト勉強しに来たんでしょうが。美優はそうやって遊んでなさい。私は勉強するから。
――家で勉強する時にさ。
ん？
急に掃除とかしたくなるじゃない？ ああいうときに限って。
あの現象って、ちゃんと名前があるんだって。
名前？
セルフ・ハンディキャッピングって言うんだってさ。わざと不利になる状況に自分を置いて、あとで自分への言い訳に使うんだとか。
ふうん。無駄な知識とエッチな知識だけは豊富だよね美優は。
だからほら。ほらほら！
は？ なによ、その期待のまなざし――。
言い訳つくろうよ。
『今回テストが駄目だったのはテスト前に美優とエッチしてたからです』って☆
くちびる縫い付けるぞこの全方位型ビッチ！
さらにその動画をSNSに投稿すれば、友だちへの言い訳もばっちり～☆
全世界のお友だちと、私らにとっても忘れられない思い出になりそうだけどね！
大丈夫大丈夫。私の裸になんてたいして価値ないから。
なんでそこの自己評価低いの？ なんか私、微妙に心配になって来たんですけど？
………。
――じゃあ、リナちゃんが自信ちょうだい？
――ん。
『ん』……じゃねぇよ！
そんな簡単に私は落ちないからな！
ちぇっ。
ならさ、せめてお風呂には入ろうよ。外を歩いて汗かいたし、せっかくすべり台もあるんだし。
別に、興味ないし。
……ふっふっふ。
なによ？
私、知ってるんだよ――リナちゃん、実はずっとあのすべり台やってみたくて、うずうずしてるって。
な、なってねーし。
またまた、意地張っちゃって。『ラブホの女王としては、裸すべり台くらいは経験しておかないとな』って目をしてたよ。
それは完全にあんたの思い違いだ！
でも、滑りたいのは本当なんでしょう――？
ち、ちが――
うふふ、上のお口は頑固だね。
口は上にしかない！
でもほら、体は正直……
ちょ、ちょっと、押さないで、脱がさないで！
せーの、えいっ！
あ――、
ああああああああ！
楽しい！
このあと２人でむちゃくちゃ息抜きした。
