好きなもの

文字数 433文字

彼氏と別れた。

一緒に住んでいた部屋から出た日は曇りで、雨でもなく晴れてもいなかった。

今日、彼に新しい彼女がいる事を知った。
たぶん、その人と好きな映画を見るのだろう。そしてあれこれ言いながら好きな珈琲を淹れてあげるのだろう。

それとも違うかも。もしかしたら映画も珈琲も嫌いな女の人で、彼は全くしないかもしれない。そうかもしれない。
あんなに好きだったとしても。

最近の私は映画をずっと見てないし、コーヒーはインスタントばかりだよ。
もう、あなたの煩い解説を聞かなくてもいい。
でも、聞いた事は覚えているよ。
あなたの好きな映画も珈琲も、話している時の笑顔も、
覚えている。

あの日々は二度と戻らない。
繰り返したい訳でもないんだ。
でも、あの日々は、あの香りは、あの笑い声は、あの光は、私のもの。ずっとずっと。あの日のあなたは私のもの。
そして、あの日の私はあなたのものだった。


夏空に入道雲。晴れた空は眩しい。
目を細めて見上げて伸びをする。
「夏だね! あー、恋がしたい!」
隣の友人が笑った。






ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み