二章

文字数 15,559文字

二章

 午後三時過ぎ、藤崎はここ何日かで唯一の裁判である賃金不払い事件の口頭弁論に出かけた。帰り道、日比谷のドトールに入った。以前はスタバかタリーズの常連だったが、コーヒー代もばかにならない。そこでアメリカンをラージサイズで注文し、桜田通りを見渡すカウンター席に腰かけた。
 恥ずかしいくらい大きなため息が漏れた。
 週末には弁護士会主催の「ブラック企業相談会」が開かれる。長時間労働や賃金未払い、それに不当なリストラから追い出し部屋まで、いわゆる悪徳企業にまつわる労働問題に対する無料電話相談だ。正義感あふれる弁護士が弱者救済のために一肌脱ぐかのように思われているが、実態は顧問契約が打ち切られそうになってあわてふためいているような弱小弁護士たちが、寄り集まって新たな依頼人に目星をつけるイベントである。言うなれば、弁護士による営業活動。あと何年かしたら、相手からの電話を待つだけでなく、こっちからめくらめっぽう電話をかけまくって、八百屋のご用聞きよろしく、法的トラブル、つまり弁護士の出る幕を探しまくるなんてこともあるかもしれない。
 アウトバウンド――。
 さっきの女はそんなことを言っていた。それが確立された営業手法なんだとか。藤崎は認めたくなかった。曲がりなりにも自分は司法試験を通ったエリートだ。あんななんの取り柄もなさそうな中年女とは人間の出来がちがう。
 いつのまにか例の手紙が四つ折りになったまま目の前にあった。無意識のうちに尻ポケットから取りだしていたのだ。藤崎はそれをじっと見つめるばかりで、広げようとはしなかった。それよりもぬるくなりだしたコーヒーを貧乏くさそうになめながら、手紙を送ってきた人物の腹の底を探ろうとした。
 藤崎統一郎の弁護士業が経営難に陥っていると知る者によるいたずら。大方そんなところだろう。ことによると、すこぶる悪名高かった米丸代議士と父親が関係していたことを暴露して、藤崎をノックアウトしようと考えている輩のしわざかもしれない。だが藤崎の息の根をとめようなんて、いったいだれが考えるだろう。ヒロミや義父母であるわけがない。そんなことをして本当に廃業に追いこまれたら、それこそ家の恥だと猛り狂うはずだ。
 だったらだれだよ?
 敗訴になって相手方の弁護費用までむしり取られた依頼人か、それとも無料電話相談で邪険に扱った相談者か。もしかするとむかし捨てた女かもしれない。それなら心あたりがないでもないが、ちょっと月日がたちすぎていまいか。
 だが藤崎は認めざるをえなかった。自分で自由に開け閉めできる金庫の奥に、悪徳政治家がためこんだ金が隠してあればいい。心の底でずっとそうねがっていた。百万円でもいい。いや、たとえ十万でも――。
 米丸直太郎に関する事件を父親が直接あつかっていたとは思えない。だが山形の建設業者はどうだろう。藤崎は意を決してカウンター席から立ちあがった。腰を据えて資料室を調べてみる必要がある。
 事務所への帰り道はいつもより速足になっていた。父親の担当事件は、資料室のキャビネットにまとめてある。量は膨大だが、タイトルで推察できるはずだ。それをピックアップして調べればいい。まずはどの棚からチェックするか。あれこれ考えていたらあっというまに大手町までもどってきていた。
 ドアを開けるなり、藤崎は眉をひそめた。紗江も祐介も姿が見えない。まだ五時半だ。やつらの終業時間は六時だ。いくらヒマでも店じまいには早いし、そんなことを勝手に決める権限はない。が、二人のデスクではパソコンが開きっぱなしだったし、書きかけの伝票や書類が散らかっていた。
 そのとき資料室のドアがすっと開いた。
「おかえりなさい」紗江が小さな顔をのぞかせた。すこしあわてたようすが見てとれた。心なしかブラウスの胸元が乱れているような気がする。うしろに祐介がこそこそするように立っていた。
 藤崎はかっとなった。あるじがいないすきになにしてやがる。まるで貴族の館で不貞に走る使用人どうしみたいじゃないか。だいたい祐介の野郎、なに考えてんだ。司法浪人なんて世間的にはただの無職だぜ。女にはおまんこがあるから文字通り裸一貫でも生きていけるが、男はそうはいかない。ちゃんとした職ってもんが必要だ。それなのになんだ。身の程知らずもいいところだ。藤崎は苦々しく口走った。「不用心だな。二人ともいないなんて」
 お客さんなんてだれも来やしませんよ――なんてことを口にするほど紗江はばかじゃなかった。「すいません。高いところにあるものを取ってもらおうと思って」
「プリンターのトリセツですよ。前のプリンターのトリセツとごっちゃになって置いてあるから、時間かかっちゃって。前のは捨てときました」紗江のわきから祐介が前に出てきた。たしかにメーカーの取扱説明書を抱えている。「調子悪いんです。直らないようならリース業者に連絡しないと」
「壊したのか」藤崎は意地悪く言った。
「ちがいますよ。前から調子悪かったじゃないですか」紗江が頬を膨らませた。白いブラウスの胸元にはくっきりともみしだかれたようなしわがついている……ように見えた。
 目の前にモップでもあれば、それを振りあげて藤崎は祐介を撲殺していただろう。おれだってまだ味わったことがないっていうのに。それに紗江だってどういう了見しているんだ。欲求不満があるなら、あるじにしがみついてくればいいものを。胸の内を悔しさとプライドがせめぎあい、結局、すこしばかり非難めいた口調でこう言うしかなかった。「調子悪かったのか。気づかなかったな。祐介、おまえに直せるか」
「やってみます」
 祐介はプリンターと格闘を開始し、紗江は伝票をふたたび打ちはじめた。藤崎も親父のいすに腰を落ち着け、メールチェックなど残務整理をした。資料室にこもるのはやつらが帰ってからにしよう。事務所の入口にも鍵をかけ、ひと晩かけてでも調べてみるつもりだった。こんな場末のオンボロ事務所で、従業員たちになめたまねをされながら朽ち果てていくなんて絶対ごめんだった。
 どうでもいいメールにどうでもいい返信を書いているとき、散らかった机のすみに妙なものが転がっているのに気づいた。親父が使っていた筒状のペンケースの背後だった。藤崎はフケの落ちたキーボードを打つ手をやすめ、吸いこまれるようにそれを見つめた。球状をした中身をリボン形のビニールが包んでいる。
 キャンディーだった。
 それを手に取るなり、藤崎のなかに懐かしさのようなものがこみあげてきた。駄菓子屋でよく売っていたコーラ味のキャンディーだった。
「どうしたの、これ?」
 ボスに問われ、紗江はきょとんとした顔で見つめ返してきた。「なんですか、それ」
「きみじゃないの?」そう言って藤崎は紗江から祐介に視線を移した。やつはプリンターの前に立ったまま首を横に振った。
「だれも来てないんだよな」
「来ればわかりますよ」紗江がそっけなく言った。皮肉にもなるほどと思えた。奥の院で乳をもみしだかれ、股間を濡らしていたのなら、事務所の人の出入りにはとりわけ注意するはずだ。頭の半分では恍惚となりながらも、もう半分ではなによりあるじが帰ってこないかひやひやしていたことだろう。
「士朗先生ですよ」祐介が訳知り顔で言った。なんだか自慢しているようでむかついた。「飴玉、好きでしたから」
 藤崎士朗の息子はだれだ? コーラ・キャンディーを握りしめながら藤崎は苦々しくアシスタントを見つめた。「そうか。おまえは親父に入れてもらったんだっけかな」
 嫌味に気づいていないらしく祐介はしゃべりつづけた。「食べ忘れたのが出てきたんじゃないですか。包み紙がべっとりしてるでしょう。もうずいぶん時間がたっている。士朗先生の遺品ですよ」
 親父が遺したものについて、おまえにとやかく言われる筋合いはないぞ、とは思ったものの藤崎はこらえた。「まあ、そうだろうな」
 六時ちょうどに紗江が席を立ち、不器用ながらもプリンターをなんとか調整しおえた祐介は、七時前まで準備書面と取っ組みあっていたが、司法試験予備校の授業があるのでそこそこで引きあげた。
 藤崎はパソコンを閉じ、あらためてキャンディーを手に取った。リボン形の包装を開く気はなかったが、どう見てもそれはごく最近購入されたもののようにパリッとしてつるつるだった。藤崎はあらためて首をかしげながらそれをゴミ箱に放りこみ、資料室に入った。
 もういちど金庫を調べてみたが、やはり米丸直太郎がらみの書類は見つからなかった。山形の建設業者、西原康夫に関するものも見あたらない。こうなったら書棚に並ぶ父親があつかった膨大な事件資料を本当に一つ一つ点検するしかないか。二十畳ほどの広さの資料室を熊のようにぐるぐるとめぐりながら藤崎は思案した。
 以前のような狭い資料室だったなら、ひと晩では無理にしても三日ぐらいかければ調べ終えるだろう。しかしいまの資料室では無理だ。一週間以上かかる。十年前に行われたビルの大規模修繕のさいに、オーナーである総合ディベロッパーの黒澤地所と、その系列で隣にコールセンターを置く黒澤証券と三者で協議のうえ、壁を取り壊し、両者の専有面積比率を逆転させた末に誕生したものだった。コールセンター業務を縮小した黒澤証券側の占有部分が半分になり、藤崎総合法律事務所側が倍増したのである。それにより藤崎士朗は、手狭になった資料室の拡張をはかったというわけだ。そうでもしないと半世紀以上におよぶ弁護士生活の証は収容しきれなかった。いまでも資料室にある事件記録の九割以上が、藤崎の父親が担当したものだった。もちろん拡張工事には相当な費用が見積られた。そこで父は、大学時代の友人である西原康夫に無理を言って、おそらく格安で請け負わせたのだろう。
「まいったな」徒労に終わりそうだったが、藤崎は腹を決めた。「やるしかないか」
 記録は民事と刑事にわけ、年代別に並んでいる。せめて背表紙に原告・被告名が表示されていればよかったが、事件の種別――貸金返還請求とか交通事故損害賠償請求とか――しか表記されていない。記録をひとつずつ手に取り、いちいちページをめくりながら、念入りに調べていくほかなかった。
「時間ならたっぷりあるさ。どうせヒマなんだから」最初の記録に手をのばし、自虐的に口走ったとき、電話が鳴った。番号非通知だった。藤崎は記録をつかむのをやめ、やれやれと電話に出た。非通知でかけてくる相手は一人しかない。
「もしもし」
「やっぱり金曜の晩から来てほしいんだって」責めるような早口に藤崎はうんざりして、スマホを耳から遠ざけた。「だいじょうぶでしょ?」
「待てって。まだわかんないよ」藤崎はヒロミに抵抗した。お盆の里帰りの話だった。里帰りと言っても、ヒロミは生まれも育ちもいま暮らしている広尾だ。しかし両親が長野に隠遁して以来、毎年、盆暮れにはかならず子どもたちをそっちに連れていくことになっている。ヒロミは運転好きだから――とくにパパが購入資金を融通してくれたベンツが大好きだから――そんなことはあいつ一人でもできそうなものだが、それをよしとしない。それは妻の見栄というより、あんたの首根っこはあたしががっちりつかんでるんだからね、忘れるんじゃないわよ、というダメ夫に対するデモンストレーション――藤崎にとってはもはや威嚇行為にしか感じられなかったが――の一環であった。それにヒロミの両親にしてみれば、父親の死後、まともな事務所経営のできない男をあれこれいじくりまわすのは、バーベキューの網にジビエをのせるのとおなじくらい心躍る陰湿な愉しみにちがいなかった。ひとたび人生の成功者の域に突入した人間というのは、たいていそんな残酷な変質者としての一面を善人面の裏に隠し持っている。
「だってお盆のころは裁判所だって休みに入るって言ってたじゃない。パパにその話をしたら、だったら早目に来られるだろうって」
「なんだよ、勝手に。そんなにヒマじゃないんだって。いろいろやらなきゃならんことがあるんだよ」
「でもなんとかなるでしょう」なんてわがままな女なんだ。こんな女と正常位でまぐわってきたことが信じられない。嫌悪よりも恐怖心に藤崎はとらわれ、汗まみれのトランクスのなかに潜む正直者がぎゅっと縮こまった。
「だからわかんないって」いや、わかっているし、はっきりしている。表向きは穏やかな印象の老人が朝から薪割りにいそしむ別荘は、老人が銀行――よりによって藤崎総合法律事務所の窓からよく見えるあの高層ビルに本店をかまえる新光銀行だ――の役員時代に職務権限を濫用して競売物件のなかからさらに格安で手に入れた豪邸だった。藤崎は毎年訪れているが、ソファセットから玄関マットにいたるまで、ブランドショップのタグがまだぶら下がっているようで、すこぶる居心地が悪かった。
「マサシたちも金曜に着くんだって」
 不愉快さが増した。義弟のことだ。父親のコネで新光銀行系のシンクタンクに入ったドラ息子。社会的適応性のうえでは、自分のほうが数段上だ。最近ではそんな卑屈な自負さえ藤崎はおぼえるようになっていた。「とにかく待ってくれよ。まだ月曜だろ」藤崎はウソをついた。「仕事が山ほど残ってるんだ」
「子どもたちは早く行きたがってるからね」
 夫は行きたがっていないぞ。心のなかで怒鳴りつけ、電話を切った。途端にもう一件着信した。また非通知。まだなにか言いたりないってのか。晩飯ならいらないぞ。「なんだよ――」
「藤崎さまでいらっしゃいますね」
 ねっとりとした声が耳の奥でとぐろを巻いた。藤崎は一瞬、時間がとまったかのように言葉を失った。
「鳥居です。パーソナル・リアリティーの鳥居です。着信拒否になっていたようで、べつの電話を使っています」
「しつこいぞ」
 背の高い書棚の間で藤崎は声にどすをきかせた。言葉に気をつけるべきとの紗江のアドバイスより、さすがに怒りのほうがまさった。「べつの電話からかけてくるなんて非常識きわまりないな。あんたとは話したくないから着信拒否にしたんだろう。もういいかげんしてくれ。こっちはいそがしいんだ。やめないとお宅の会社にクレーム入れるし、法的措置も取るぞ」
「そうしていただけるとありがたいです」鳥居と名乗る女の声のトーンが一段高くなった。耳触りで甲高い。開き直ったみたいだった。「わたしも好きでかけているわけではありませんので」
 藤崎の怒りが爆発した。「おまえ、そんな物言いってないだろう」スマホを握る手に力が入る。いつのまにか汗まみれになってスマホの裏面がつるつると滑るようになっていた。「勝手にかけてきておいてなんだよ。こっちになにか買ってほしいんだろ。そうでないとしても失礼だぞ」
「そうでしょうか」態度の微妙な変化を藤崎は感じ取った。昼にかけてきたときの低姿勢は失せている。紗江が言っていたことが本当に起きるのだろうか。胸の奥がぞわぞわしてきた。「ワンルームマンションを販売するように言われているんです。それをわたくしはマニュアルにしたがって藤崎さまにご紹介もうしあげているにすぎません。場合によっては、藤崎さまにフィットするかもしれないし、しないかもしれない。それでもできるだけフィットするように努力する。会社とわたくしとの契約はそういうことです。でもそれがわたしの心からの思いであるとはかぎりませんよね」
「なに言ってるんだ、あんた。頭が……」おかしい、と口にしたい衝動を藤崎は必死にこらえた。「あんた、あんまり妙なことは言わないでくれよ」
「頭がおかしいと思われているんですよね。だけどこんな仕事、だれが喜んでしてると思われますか。バアさんとか言われて。体がきかないとか言われて」
「話にならないな」独り言のように藤崎はつぶやいた。「切るからね、いいね。もうかけてきちゃだめだよ」
「召しあがりましたか」
「え……? なんだよ」
「キャンディーですよ。コーラ味の」
 その言葉が脳みそのどまんなかに突き刺さった。藤崎はすぐには言葉を返せなかった。沸き起こる疑念より激しい怒りのほうがまさった。
 蛍光ペンの一件が脳裏をかすめた。信じがたい話だが、どこからともなく迷惑電話をかけてきたこの女は、やはり藤崎統一郎の職場のすぐそばをうろついていたのだ。
「事務所に入ったな」それを口にしながら藤崎は、あわてて資料室から事務所側に飛びだした。がらんとしてだれもいない。だが入口のドアは無施錠のままだった。本能的に藤崎はそれをロックした。なんてことだ。紗江が言ったことが現実になった。「おれの机まで来たんだろう」
「わたくしはただ電話をかけさせていただいているだけですよ。パパさん」
「とぼけるな。最初からそうだったんじゃないか。相手がおれだってわかって電話してきてるんだろう。こんなたちの悪い迷惑電話、はじめてだぞ」語気を荒げ、罵りながらも藤崎は頭をめぐらせた。事務所に侵入するには、まずこのビルのエントランスゲートを通過する必要がある。しかし仕事の打ち合わせなどで多くの部外者がテナントを訪問しにくる。いちど入館証を手にしたらあとはどこへでも行ける。その過程で藤崎を見つけ、胸元に蛍光ペンがささっていることを知り、さらにコーラ飴を持って事務所にやって来た――。
 入館証の発行記録でわかるはずだ。
「すでに住居侵入が既遂になってるんだ。これ以上の迷惑行為はやめたほうが得だぞ。いまから防災センターに行って調べてきてやる」やつは一線を越えてきた。もはや下手に出る必要はない。それなりの対策を取ればいいのだ。「警察を呼ぶからな」
 電話は向こうから切れた。耳があたる部分が汗の滴で濡れたスマホを見つめ、藤崎はしばし呆然とした。なんであんな女にからかわれなきゃいけない。ヒロミに侮蔑されるのとは異質な不快感がさえない弁護士の胸にわきおこった。
 そうじゃない。
 やつが口にしたなにかべつの言葉が胸の片隅に引っかかっていた。それがなんであるか藤崎はすぐに思いだした。
 パパさん……。
 なんだよ、それ。おれの家族関係まで調べたっていうのか。
 しかしそのとき藤崎統一郎の潜在意識では、もっとほかの遠い日の記憶が地震の初期微動のように疼いていた。それがなんであるかいまの藤崎には思いだしようがなかった。資料室のドアが開けっぱなしになっていたが、もはやそっちにもどって捜索を再開する気はしない。それよりもやることがある。藤崎はカバンをつかみ、入念に戸締りをしてから防災センターに急いだ。
 説明に時間を要したうえ、結局、個人情報も絡んで入館証の発行記録は見せてもらえなかった。しかし“警備隊長”なる警備会社所属の無能そうな中年男――年齢的には藤崎とおなじぐらいかもしれなかった――が慇懃無礼な口調で言うには、すくなくともきょうの来館者のなかに女性は一人もいなかったという。
 ならば内部の女か。
 防犯カメラの映像をチェックしてもいいが、各フロアとも従業員たちのプライバシーに配慮して、カメラはエレベーターホールにしかついていない。つまり藤崎の事務所にだれがやって来たかまでは映っていないのである。それにホールを経由せずとも非常階段を使えば、藤崎総合法律事務所にたどり着くことができる。事務所前の廊下のつきあたりが階段室への扉なのだ。
 ただ、非常階段を利用できる人間は限定される。非常階段の扉はフロアから出るときは自由に開くが、逆に階段からフロアに入る際は各階のテナントごとに登録されたICカードが必要で、違うフロアの人間が非常階段で九階にやって来ることは不可能なのだ。つまり藤崎の事務所を階段で訪ねてきたのは、必然的にこのフロアの人間ということになる――だれかが開けた扉に飛びついてあとから入ってきたのでないかぎり――が、九階のテナントだけで何人の女がいるだろう。きょうの午後、だれが事務所に忍びこんだかなんて容易にはわからなかった。
 鳥居と名乗る電話の相手は、エレベーターで上がってきたこのビル内の女か、それとも非常階段を使った九階の女なのか。千代田線から日比谷駅で乗り換えた日比谷線に揺られながら、藤崎はずっと考えていた。お盆の恒例行事についてあらためて問いただそうと妻が待ちかまえる広尾のマンションにもどってからも、そのことが頭から離れなかった。そして悶々として眠れずにいた深夜二時すぎ、ついに本物の事件が起きた。
 警察から電話が入ったのだ。


 刑事なら二人組でやって来るものと思っていたが、事件の概要をじっさいに藤崎にじっくりと説明したのは、ノーネクタイに白の開襟シャツでやって来た縁なし眼鏡の男一人だった。きっと相棒は、ビルの防災センターで防犯カメラの映像でも見ているのだろう。
「丸の内署の篠原ともうします」
 クリームイエローのポロシャツに紺のチノパン姿で広尾のマンションを飛びだしてきた藤崎に向かって男は名刺を差しだしてきた。もうすこし涼しくなってネクタイを締めて上着をはおるようになったら、刑事なんかよりエリート官僚として通用しそうな落ち着きと物腰の柔らかさ、それにそれなりの知性――もちろん司法試験を突破して弁護士となったおれのほうが優れているのだが――も感じさせた。名刺には、刑事組織犯罪対策課と所属先が刷ってある。警部だった。
 午前四時半。
 夏空はすでに明るくなっていた。今夜も熱帯夜、いや三十度を超えていた。
 頭が悪いんじゃないかと思わせるくらい時間を費やして念入りに行われた現場検証がようやく終わり、犯行現場となった事務所に残っているのは、篠原と藤崎、それにドアの外で門番よろしく立たされている若い制服警官一人だけだった。そもそも寝つけなかったとはいえ、職場に泥棒が入ったと真夜中に連絡を受けたら、いやでもアドレナリンは全開になる。心配していた被害が実質的にはゼロとわかり、緊張と興奮のピークが過ぎたいま、こんどは分厚い雨雲のようなどんよりとした疲労感が背中にのしかかってきていた。
 濃いコーヒーを無性に飲みたい気持ちをおさえ、藤崎は訊ねた。こんなときであっても泰然自若としている雰囲気を漂わせたかった。藤崎統一郎という男はどこまでも見栄っ張りだった。ある意味、妻のヒロミなんかよもずっと。
「失礼ながら、刑事さんなんですよね?」
 篠原は口を結んだまま目元に微笑を浮かべた。「そう呼んでいただいてかまいませんよ。でも刑事とはあまり名刺に刷りませんね」
「たしかにそうかもしれませんね」藤崎は数少ない刑事事件の経験を思いだした。何人かの警察官と名刺交換したが、篠原の言うように刑事の名刺なんてもらわなかったかもしれない。
「気恥かしいですよ。しいて言うなら司法警察員ですかね。検事さんの下っ端、捜査の実働部隊ですよ」 未明の出動にもかかわらず疲れた顔ひとつ見せず、篠原はただじっと藤崎の顔を見つめていた。見た目以上にバイタリティーに満ちた男なのかもしれない。「藤崎先生は以前は?」
 聞きたいことはわかった。「最初から弁護士ですよ。ヤメ検じゃない。父親がこの事務所を持っていたものでしてね。気がついたらこの仕事をしていました」
「おとうさまは?」
「去年亡くなりました」
「それはそれは」篠原は肩をすくめ、小さく頭をさげた。これで口髭を生やしたら、むかしよく見た「マイアミ・バイス」のキャステロ主任にそっくりだ。藤崎ははたと額を打ちたい衝動に駆られた。
「だけど盗るものなんてありませんよ。事件の資料ぐらいだ。金目のものといったら、パソコンぐらいじゃないかな」
「担当事件の関係者にとっては、公判記録そのものが金目のものかもしれない」
 父親があつかった事件ならそうかもしれないが、息子となるとまずありえない。そう思うと複雑な気持ちになった。
「たまたま警備員さんが巡回していたからよかったんですね」篠原は事件の概要を説明した。「こちらの事務所の前を通ったとき、物音に気づいたそうです。午前一時半すぎのことです。ドアにも鍵がかかっていなかったので、なかに入ってみたら、犯人と鉢合わせして――」
 犯人は女だった。
 やっぱりだ。あの女、迷惑電話の鳥居だ。冷たくあしらったからって、逆恨みにもほどがあるぞ。
「このフロアに勤めている女です。エレベーターホールをはさんで、ちょうどこの事務所の反対側にあるミルトン・バケーション・クラブというリゾートホテル関係の会社に勤務する小松志保という三十五歳の女です」
 小松?
 鳥居じゃないのか。年齢的にも微妙な感じがするが、声音だけでは年はわからない。
「ざっと聴取したところ、以前からこちらの事務所への侵入を計画していたそうです」
「鍵はかかっていたはずですが」
「鍵はもちろん、警備会社に直結する防犯システムも作動していた」篠原は親指を立てて、ドアのほうを差した。
 ドアの外には大規模改修の際に設置した防犯装置がついている。毎朝、紗江が暗証番号を打ちこんでシステムを解除してから、鍵を開けることになっている。だが小松志保は、事務所の向かいにある給湯室にじっと隠れて紗江が出勤するのを待ち、そこからスマホのムービーカメラを使って紗江が暗証番号を打ちこむところを撮影していたのだ。
「ドアの鍵自体は、自分の会社とおなじ形式だった。ネットで手に入れたピッキングセットを使って、会社のドアで何度も練習をくりかえしていたそうです」
「ほんとに計画的だったんですか」藤崎は訊ねた。鳥居から最初に電話がかかってきてから、まだ二十四時間もたっていない。「おかしいな」
「おかしい?」
 藤崎は迷惑電話のことを話した。鳥居と名乗る女が事務所に侵入した形跡があったことも。コーラ・キャンディーの話だ。篠原は部下に電話を入れ、容疑者のスマホの発信記録を調べさせた。しばらくして回答が届いた。
「藤崎さんの携帯番号にかけた記録はありませんでした。こちらの事務所に侵入したのも今回がはじめてのようです」交番に落し物の照会にやって来た善良な市民に対する接し方かくあるやと思わせるほどの、同情を微塵も感じさせぬ機械的な物言いで篠原は答えた。そしてこんどは独居老人を慰める福祉事務所員のように話しかけてきた。「迷惑電話ならわたしの携帯にもかかってきますよ。もちろん勤務中にもね。わかりますよね?」刑事の仕事がどんなものであるか、ドラマの「相棒」を見ずともいっぱしの大人なら察しがつくだろうと、目元に人を小ばかにするような笑みをわずかに浮かべて言った。「張りこみの最中がいちばんいらつくんです。だからわたしもつい悪態をついてしまう。だからといって向こうはさほど心外に感じたりしませんよ。いちいちそんなことで腹を立てていたら商売にならんでしょうし。そもそも迷惑電話をかけているとの自覚ぐらい、そういう連中にもありますよ。だからそういのは織りこみずみ。屁のかっぱでしょう」
「だけどキャンディーがあったのは事実ですから」藤崎は食い下がったが、すくなくともリゾートホテル関係の会社の従業員が事務所に侵入したのは、きょうの未明がはじめてのようだった。
「彼女にはもっとほかの動機があったんですよ。『ジャックの家』というのは聞いたことありますか」
「ジャックの家? なんですかそれ」
「ネットで最近話題になっている都市伝説です」
「都市伝説?」
「ジャックというのは、スロットマシーンのジャックポット、大当たりのことです。大金のある家とでも言うのでしょうか。政治家が不正蓄財した資金が隠されているマンションの一室を意味する隠語なのだそうです」
「政治家って――」
 篠原は藤崎の内心を見通すようによどみない声で告げた。「米丸直太郎です。亡くなって二年になりますか。収賄で大金星をあげたと検察が喜んでいたのもつかのま、無罪判決ですからね。同業者としては言葉もありませんでしたよ。その米丸が関係者に金をばらまいていたことは周知の事実だし、だったら金の隠し場所があるというのもあながちうそでなさそうだ。うん、そうだ。きっとまちがいない。大先生が急逝したいま、金の動きはとまり、ジャックの家は人の出入りもなくなって、ひっそりと静まり返っている。まあ、こんな感じでうわさが広まって、都市伝説なんて言われるようになっているのでしょう」
 藤崎の胸は、大手町じゅうの排水路を早朝から駆けずりまわるドブネズミたちをいっせいに振り向かせるほどドキドキと高鳴っていた。動揺を警部に気づかれまいと藤崎は口元を引き締めた。下の八重歯が唇の裏側に食いこむ。あとでトイレの鏡に映したら歯形が残り、血がにじんでいるかもしれない。胃袋は登山道で蹴散らされた石ころ並みに縮こまっていた。あの手紙にはなんと書いてあった?
 米丸先生の裏金
 管理人は士朗先生
 事務所の金庫
「ジャックの家に関するネットの掲示板のなかにあるんですよ」篠原はこっちの顔色をうかがうような目を向けながらつづけた。「『カギを握る者たち』として八人の男性の名前があげられているんです。ところで藤崎士朗さんというのは、先生のおとうさまですよね」
「そうですが」
「八人のうちの一人です。米丸先生と交遊があったのでしょうか」篠原はさらりと訊ねてきた。
「はじめて聞きました。デマじゃないですか」
「かもしれません。所詮ネットですしね。ただ、八人に関するその後の書きこみのなかには、本人の顔や関係する場所の写真が載っているものがあった。そこにこちらの事務所を外から撮った写真もありましてね」
「うちの事務所……?」
「はい。それで彼女は狙いをつけたようです。確証があったわけでなく、あてずっぽうのようでした。ネットの書きこみを見ると『弁護士が怪しい』との声がけっこうあるんですよ。八人のうち、東京在住者は藤崎士朗さん、お一人なんです」
「さっぱりわからないな」藤崎はうそぶいた。米丸後援会に所属していた西原康夫と父親の関係やきのう届いた手紙について、いちいちこの刑事に教える必要はない。
「とりあえずは犯人が捕まったからよかった」篠原は探るような目をふたたび向けてきた。「だけどデマであっても信じる人間がいるのは世の常ですから。気をつけるにこしたことはないでしょう」
「ネット見た連中がよってたかって、うちの事務所に押しかけてくるって?」藤崎は冷静をよそおって言った。「迷惑な話だな。だけどそんなことにはならんでしょう。そこまでみんなバカじゃないだろうし、八人のうちの一人なのでしょう?」
「どうでしょうね。いずれにしろ、職業柄申しあげておくことが一つあります。入り口のドアですが、防犯システムは設置されているにしろ、鍵自体は脆弱なようです。素人の女の子でもピッキングで開けられるのですから。わたしならできるだけ早く錠前を交換しますね。一、二万でかなりいいものが取り付けられるはずです」


 警察が引き上げてから紗江が出勤するまでの間、藤崎は猛然とネットを検索した。アドレナリンがふたたび全身に満ちていた。
 黒澤セントラルビルの写真を掲載した掲示板はすぐに見つかった。
 都市伝説「ジャックの家」を探せ!
 なんと幼稚でストレートなスレッドなのだろう。いったいだれが最初にそれを書いたのか人定はもちろんできないが、最初に書きこまれたのは、約一か月前の七月八日午前二時十四分。すでに三百件以上の書きこみがあったが、最初は米丸の人物像とジャックの家に関するイントロから始まっていた。
 そもそもジャックの家の存在は三年前、米丸の関係者を東京地検が根掘り葉掘り取り調べたさいに浮上したらしい。だがそのときは地検も場所を割りだせず、そこが見つかったとの新聞記事は、どこを検索しても見あたらなかった。
 埋蔵金は数千万円――。
 何件目かの投稿でそれが指摘され、やがて建設業者Nの名前が登場した。後援会の有力者で、金庫番であったとの指摘もあった。有力者といってもいろいろあるし、後援会メンバーのほとんどが建設土建業者だった。だがそのうち西原康夫のことが実名で書かれるようになった。藤崎のきのうの調査からも、西原康夫は米丸直太郎後援会の幹事の一人であり、金庫番と名指しされたN氏が彼である可能性は高かった。
 選挙時の集票マシンとなる建設土建業者やマスコミ連中に対する米丸の気配りは露骨だった。「事務所に顔を出すたびにお車代として一万円入りの封筒を差し出された」書きこんだのは、介護施設に年寄りたちを送迎するバスの運転手を自称する人物だった。べつの投稿者は「一般紙の記者時代、先生の家に夜回りに行ったさい、外国大使館主催の舞踏会に参加するために特訓中だという社交ダンスの相手を無理やりさせられた。踊っている途中、上着のポケットが急に重くなる感じがしたので、たしかめると金の腕時計が入っていた。スイス製のレアもので、先生が踊りながらこっちのポケット目がけてストンと落としたものだった。『いくつも持っているから』ひとしきり“特訓”に励んだあと、そう言って先生は手を振った。市価で七十万円は下らない代物だった」
 すべては裏金に基づくものとされ、足がつくのを恐れた秘書たちたちは、そうした資金をすべて現金であつかっていた。そのなかで細かい金の動きを把握していたのが西原で、彼の提案でジャックの家、すなわち裏金をじっさいにプールしておく場所を設けることになったのだという。掲示板では、そこはなんの変哲もないマンションだとされ、当初は地元山形市内にあるはずだと推理された。
 それには多くが疑問を投げかけた。いくら地元対策とはいえ、広い意味での政治資金である。米丸直太郎は工作などしなくとも盤石だったはずだし、収賄で起訴される以前から金がらみの黒いうわさはほかのどの議員ともくらべものにならなかった。だから臭いものにふたをするなら、それは東京以外にないだろうというのが、この都市伝説に引き寄せられた者たちの結論だった。
 そこで議論は壁にぶちあたった。
 都内のマンション――。
 わかっているのはそれだけだった。政治活動の拠点として正式に登録された事務所はもちろん、米丸の親族やさらには愛人とされた女性が暮らすマンションまで、掲示板上に次々と暴露された。だがネット探偵たちが調べたところ――なかには現実にその場所に足を運んだという者までいた――どこもまだ人が暮らしており、とてもでないが大金が隠してあるとは思えないとされた。たしかにそうだ。現住家屋を金庫なんかにしたら、文字通り、金庫でも置かないかぎり、資金は費消される一方だ。なんといっても現金なのだから。それに“ジャックの家”などというロマンに満ちた呼称を冠するなら、人が住んでいない倉庫代わりの場所でないとだめだ。藤崎は勝手にそう考えたし、多くのネット探偵たちもそれと同意見のようだった。
 となるといったいどこだ?
 この半月あまり、掲示板ではおなじ議論がくりかえされていた。つまるところ無数のマンションのなかから問題の一室を見つけださねばならず、米丸本人ばかりか金庫番の西原さえも冥界入りしたいま、ネット上で話題になり、都市伝説の称号まで得たとしても、手も足も出ないのが実情のようだった。だがそれでも掲示板は増殖をつづけた。そのころには埋蔵金は六億円にのぼるとの話になっていたからである。捜査関係者を名乗る人物からの投稿で、米丸の収賄事件を捜査する過程で東京地検もそこまではつかんでおり、金の流れも裏付けられていたというのだ。
「雲泥の差だな」向かいにそびえる新光銀行のピカピカの壁面に反射する朝日をたっぷりと背中にあびながら、藤崎はつぶやいた。「しかも現金か。一千万がこのくらいだろ」藤崎は机上で両手を肩幅とおなじくらいに広げてみた。それとおなじ大きさの箱が六十個あると思えばいい。だがすべてが一万円札だとはかぎるまい。千円札や五千円札だってあるかもしれない。「そうはいってもそれほど広い部屋は必要ないぞ」いすの背もたれに体をあずけ、藤崎は年季が入ってひび割れた天井を見あげた。背中が激しく凝っている。猫背のままずっとジャックの家の件に没入していたのだ。
 堂々めぐりが続くなか、一週間前の七月二十九日に投じられたのが、例の「カギを握る者たち」であり、翌日には藤崎総合法律事務所の外観を撮影した写真がアップされた。
 藤崎士朗は他界している。だったら彼が遺したもののなかから「カギ」を見つけだすほかない。親父が他言している可能性がないとは言い切れない。母親は夫よりも先に亡くなっているが、愛人がいたかもしれない。だったら、いまわの際に親父がなにか伝えていたということもある。できの悪い一人息子のことは完璧に無視して。だが藤崎としては、存在すら不明の愛人を見つけるより、物証を見つけだすほうが容易だった。
 物証すなわち遺品である。
 とはいえ母が亡くなったのち、親父が一人で暮らしていた藤沢市鵠沼のマンションは、半年前に業者にたのんで遺品を整理したのち、売り払ってしまっていた。もちろんそこから大金が転がり出てきたなんてことはない。そもそも売却したところで、いろいろ引かれて手元に入ったのは、七百万円にも満たなかった。
 親父が握っていた「カギ」とは、ジャックの家にいたるヒントという意味だろう。だったらそれがどこに存在するか明確にしめすもの、たとえば地図とか住所とかだろうか。ことによるとまさに裏金を隠してある部屋のドアを開ける鍵そのものという可能性もある。いずれにしろ膨大な私物のなかに埋もれ、遺品整理のさいにさよならした恐れが高かった。
「そうはいってもな」藤崎は立ちあがり、応接ソファ――鵠沼のマンションを売った金で購入した事務所備品のなかでもっとも値の張るものだった――にダイブした。「六億だぜ。指をくわえてるわけにいかんだろ。ほっときゃまた盗っ人が入るだろうし」正直、藤崎はまだ半信半疑だったが、例の手紙の一件もある。調べる場所は一つしかなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み