第6話 「多分、事故物件怪談」

文字数 2,141文字

 いや~、これ楽しい!!

 四作目はどう紹介すべきか迷いました。というのも、選評の「キャラが立っていて楽しいゴーストバスターものでした」が核心を突いていて、それ以上何かを言い添えるのが難しくて(笑)。
 でもとにかく楽しかったのは確かです。私なりにどこを楽しいと感じたのか、可能な限り分析してみようと思います。

 こちらの作品、短編としてもかなり短い方。原稿用紙だと二十五枚ぐらいでしょうか?
 エッセンスが凝縮されていますし、さらっと読めるので未読の方はぜひ作品を先にどうぞ。ホラーということになっていますが、恐怖感よりユーモアがたっぷり。クスリと笑わせてくれます。


 島倉大大主さん『多分、事故物件怪談』

 登場人物は二人。主人公の「あたし」こと葛城亜希子と、「ブツゾウ」こと同じ高校の別のクラスの男の子です。

 人物の書き分けがはっきりしていて、うまい!
「ブツゾウ」はそのあだ名からも何となく想像できますが、「やけに長く見える腕」、「のっぺりした顔」、「寝起きのような半眼」、「唇をほとんど動かさないで喋る」と描写されます。動きもゆっくりしているようです。

 対して「あたし」は「勢いで喋ってしまおうとして……(中略)何度か口をパクパク」、「ああもうと足を踏み鳴らす」。こちらはかなりせっかちですね。

 言葉遣いも、女の子のあたしが乱暴な口調、男の子のブツゾウは丁寧。最初にこれを提示してくれるので、どっちのセリフなのか分かりやすいです。

 ブツゾウには、霊が見えるという噂がありました。だから「あたし」は、死んでしまった愛猫のマタエモンが自分の近くにいるかどうか、彼に確かめて欲しいと思います。
 ところが何を聞くよりも先に、ブツゾウはマタエモンの特徴を見事に言い当ててしまいます。どうやら本当に見えるようです。

 ここでいくつか伏線が仕込んであります。あたしが泣き出すと、ブツゾウがぬ~っとティッシュを差し出すところ。マタエモンが「転生した後も、あなたに飼われたい」とブツゾウを通して伝えてきたところ。マタエモンが「でぶちん」なところ。ビャウ、と鳴くところ。
 いずれも後でしっかり回収されています。

 ブツゾウはあたしに、謎のアルバイトを持ちかけてきます。あなたにしかできないと言うのです。マタエモンが憑いている、というのがその理由だと、少し後に分かります。
 二人は事故物件のアパートへ向かいます。

「エッチではありません」と事前にお断りがあるのだけど、若い男女が密室で二人きりになるので、どうなっちゃうんだろうと思ってしまいます。ここが一つ、物語の牽引力になっていますね。
 しかも息を吹きかけるなど、結構きわどいシーンもあるし(笑)。

 さてその事故物件ですが、今まで六十人くらいの人が亡くなっているといいます。
 ぎょっとするような数ですが、理由はすぐに明かされます。入居条件が余命半年以下だというのです。
 つまりほとんどが病死。入居すると自分に憑いている霊と交流できるので、それが目的で人々は入ってくるようです。

 ただ、最後に亡くなった二人はショック死だったとのこと。
 ブツゾウはその悪さをした霊を排除する仕事を任されていたのでした。ちなみにブツゾウの正体は「地域限定の霊能力者」「この土地の脅威を排除してまわる、白血球みたいな存在」だそうです。

 二人はマタエモンを使い、その悪霊「壁亡者」を呼び出します。
 あたしとブツゾウ、そしてマタエモンの霊は協力して戦います。

 実は空手部のあたし。鋭い上段蹴りを食らわせ、さらにブツゾウの武器である煙(お線香の親玉みたいなもの)の力も借りて、見事、敵を打ち倒します。
 でも哀れなマタエモンは、悪霊につぶされてしまいました……。

 悲しみに沈むあたしですが、ここで後日談に移ります。
 この、ハッピーエンドに転じる流れもうまい! ドアの外でカリカリいう音がして、読者としては「また霊か?」と思わされてしまうのですが(この未知の感覚を出すのがホラーの手法なんでしょう)、正体は生きた猫。

 何とマタエモンは転生し、あたしはまた猫を飼うことになったんですね。
 それも親猫と五匹の子猫! その中の一匹は少しふくよかで、あたしを見てビャウと鳴くのです……
 ついでに言うと、事件を通じてあたしとブツゾウの距離も縮まっていて、新しい恋を予感させます。

 よくできてます! 描写の一つ一つに無駄がなくて、設定もしっかりしている感じ。

 島倉さんはアメリカの作家ラヴクラフトのファンだそうで(私はホラーのことは分からないのですが、ラヴクラフトが作り出した「クトゥルフ神話」について新聞で特集されていたことがあったので、何とな~く知ってる)、ホラーに精通なさっているからこそ、こんなユーモア系の派生作品をも生み出せたのかなと推察します。
 面白いので、他ジャンルで書いている方も一読の価値ありですよ!

「多分、事故物件怪談」はこちら↓。
https://novel.daysneo.com/works/bfc5ba31f11c9a0fab9aaa7c3114ab72.html
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