詩小説『ホテルサーヴァント』3分の少女物語。一寸先は闇。二寸先の光へ。~第1話~

エピソード文字数 1,708文字

私の人生、どこで間違えたのだろうか? やっぱり十六の秋だろうか? それとも八歳の頃か? いや、たった今、十八歳なのか?
 私の人生、何処まで堕ちていくのだろうか? ここは底なのだろうか? もっと深くまで続いているのだろうか? 上がり方すら分からなくなってる。
 私の人生、やり直すのならどこから? きっと生まれた時点から。ただ、やり直したとしたって同じこと。どうせ此処へ辿り着くだろう。
 メイン通りからひとつ離れた、ドブ川沿いの古びたホテル。天井にはプラネタリウムの安い演出。作り物の空に、偽物の星。壁の鏡に映った知らない顔、これが私。
 コンビニ飯って、確かに美味しい。そりゃそうだ、商品戦略の賜物。きっと、簡単に買えて、簡単に満足出来る様に作られている。だけど、なんだろう? 温度がないというか、食べ終えた後、一瞬、虚しさが吹き抜けるのは。それでも抜け出せないのは、やっぱり美味しいから。それにコンビニ飯しか思いつかないからだ。
 ここは眠らない街。それぞれの思惑と欲望が渦巻く、人間交差点。今夜だけを生きる歓楽街で。
 今日もいつもの様にコンビニで夕食を買った。街の片隅に座り込み、食べていたところ、あの人に声を掛けられ、そのままふたりでホテルへ。
 イニシャルすら知らないあの人の、背広は壁に掛けられてある。シャツや、ネクタイは床に転がっている。
 いったい彼はどんな経緯でこの通りへ? きっと大した考えもなく、軽い気持ちで、遊びに来たという類。この街にどっぷり足を突っ込んだ私とは大きな違い。
 淡い桃色のライトがほんのり照らす浴槽で、ふたりして向かい合わせで湯につかれば、やけに静かで、一時の安らぎを手に入れたみたいだ。毎度繰り返される、生々しい現実は遠い向こうへ、そんな感じ。
 浴槽のふちに置かれたミネラルウォーターを含んで、彼に擦り寄ってその口へ移した。私の口元からは一筋の水が零れだしていた。
 すると彼は、驚くでもなくただ、にやりとひとつ笑っていた。私が口移しで含ませた水は、彼の喉を通っていくのが見て分かった。 
 壁についた水滴を私は眺めた。なんだか無心になって見てられるこの風景。現実離れした場所をいつでも探して、さ迷っているだけのこの脳には意思がないみたいだ。
 私は一八、いわゆる未成年。よって夜の仕事は出来ない年頃。それでもこの街には、私みたいな若い娘の需要がある。
 この通りをひとりで歩いていると、決まって誰かに声を掛けられる。その知らない誰かに宿や食事、時にはお金を頂戴して、その日、その日をやり過ごすような生活を重ねている。
 それと引き換えに私は何かを失っていく。それは眼では減り具合が確認出来ない物。それはきっと同い年の誰かさんなら必ず持っている物で、大事にしている物。寂しくないよう、やり過ごす為に、今日も少しだけ失っていく。
「お前未成年だよな? こんなことしてて良いのか? まあ、俺もたった今いけないことしてんだけどね。もったいないだろ? お前にあって、俺にない唯一の物。それは若さだ。その若さを無駄にしてるだなんて、要らないんだったら俺にくれよ」
「......。」
「まあ、その若さ、どう使って良いのか分からないって顔してるな。こう使うしか思いつかないんだろ? 使ってるだけまだマシだな」
「ねぇ、殺してよ」
「はぁ? 何言ってんだお前」
「だから、殺してよ」
「嫌に決まってんだろ? 何でお前の為に一生刑務所で過ごさねぇといけないんだよ」
「だって、どっちみち、あなた今いけないことしてるじゃん」
「馬鹿言うんじゃねぇよ。それと殺人じゃあ、罪の重さが違いすぎる。それにな、人を殺したら必ず捕まる」
「つまらない」
「つまらないよ」
「え?」
「大人なんてつまらない生き物なんだよ。俺とお前じゃ背負っている物が違いすぎる。失う物がないお前とは訳が違うんだ。だから俺なんてつまらないんだよ。だからこうして遊んでんだろ?」
「怖いんでしょ? 人を殺すのが」
「怖くないのか? 殺されるのが」
「怖くないよ、命なんて要らないから」
「お前って、とことん暗い奴だな」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック