「サイクロプス」 ラモー

文字数 1,394文字

<タイトル>

サイクロプス

 ~ クラヴサン曲集 第2巻 (第3組曲 ニ長調・二短調)から 第8曲

<作曲者>

ジャン=フィリップ・ラモー

<おすすめ盤>

ギルバート・ローランド(ハープシコード)

NAXOS(レーベル)

<解説>

 フランス・バロックの作曲家・音楽理論家であるラモーが、クラヴサンという楽器のために作曲した音楽です。

 クラヴサン(フランス語)とは、ピアノが台頭(たいとう)する以前に流行していた鍵盤楽器で、英語ではハープシコード、ドイツ語ではチェンバロ、イタリア語ではクラヴィチェンバロと呼ばれます。

 ピアノは鍵盤を押すとハンマーが弦を(たた)く仕組みですが、クラヴサンは鍵盤を押すと「(つめ)」が弦を(はじ)くという仕組みになっています。

 ピアノが流行しはじめたころから一時期、忘れ去られていましたが、電子音楽が盛んになってから、逆に見直されるようになった感があります。

 ディズニー・ランドのマーチに使用されているアレが、クラヴサンの音になります。

 バロック時代の器楽曲ですが、聴いた瞬間、あのネズミさんを思い浮かべそうな音色(ねいろ)です。

   *

 ラモーは先輩の大作曲家であるフランソワ・クープラン亡きあと、ライバルであったジャン=バティスト・リュリを蹴散らして、フランス宮廷音楽に君臨しました。

 リュリについて、彼はときの権力者である「太陽王」ことルイ14世に、なみなみならぬ想いをいだいていて、王様の前で最高のパフォーマンスをしようとした結果、指揮棒(当時は「(つえ)」状)が足に突き刺さり、その怪我(けが)が原因となって亡くなったという、なかなかのレジェンドです。

 ラモーは音楽理論の研究者としても能力を発揮し、彼の研究成果である「和声論(わせいろん)」は、現在でも学理(がくり)の教科書になっているとか。

 ドラゴンクエスト・シリーズの音楽で有名なすぎやまこういちさんも、少年時代にこの本を読破したそうです。

 ラモーもすごいですが、すぎやまさんもすさまじいですね。

   *

 今回紹介させていただく「サイクロプス」は、ラモーの研究成果の結晶ともいわれ、5分程度の音楽ですが、その内容はおそろしく濃密に聴こえます。

 「サイクロプス」とはギリシャ神話に登場する一つ目の巨人の名前ですが、同時にラモーとは同時代人であるスイス・バーゼル出身の天才数学者、レオンハルト・オイラーのことを指しているといわれます。

 オイラーは数学の研究に没頭(ぼっとう)するあまり片目を失明し、「数学界のサイクロプス」と呼ばれました。

 のちにもう片方の目も失明しています。

 神の不在を数学的に証明したとか、武勇伝を挙げたらキリのない人です。

 ちなみに臨終(りんじゅう)の言葉は「じゃあ、死ぬよ」だったそうです。
 
 まさによい意味で「怪物」の名に恥じません。

 ラモーの曲を紹介するはずが、このエッセイ史上、いちばん長くなったかもしません。

 マーラーよりも長いというのが、個人的に複雑です。

 演奏はギルバート・ローランドさんという奏者で、とても端正(たんせい)な音楽を作られていると感じます。

 動画サイトなどで探したほうが早いかもしれませんので、ぜひ。
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