第2話 月満ちる夜、あやかしに攫われて [2]

文字数 1,071文字

村人

おや、澪ちゃん。

ふもとへお買い物かい?

十月に入ったばかりの夕方、わたしはバス停で、ふもとの街へと向かうバスを待っていた。


通りがかったある村人が、話しかけてくる。

もうすぐ月花祭ですから!

村人

がんばるねぇ。

でも、無理はいけないよ?

はい、ありがとうございます

村人を見送ると、ちょうどバスがやってきた。


わたしはステップを踏み、街へ向かうべくバスへと乗り込む。

もう夕方なので、今から街へ向かう乗客はわたし一人だ。



――月花祭(つきはなさい)

それは月花神社の秋祭りで、十月の最後、ハロウィンと同じ夜に行われる。


わたしは高校生でありながら、月花神社の巫女をしていて、祭の準備は大切なお役目のひとつだ。


小さな、寂れた村を守護する、唯一の神社。その、小さな秋祭り。


けれど退屈な田舎暮らしをする村人たちにとって、数少ない楽しみのひとつが、この月花祭なのだ。


そしてわたしにとっても、祭は大切な晴れ舞台である。




育ての親であり、先代の巫女であったおばあちゃんは、わたしが中学生の頃に亡くなってしまった。


一人暮らしをしつつ、学業と神社の巫女を両立するのは、とても大変だけれど……。

(神社なんていいから、

巫女をやめてもいいんだよ、

って言ってくれる人も

いるけど……)

(わたしは村のみんなの

ために、社を護りたい)

(おばあちゃんの遺して

くれた、この月花神社を

――)





     † † †





うわぁ、もう真っ暗……

ふもとの街で買い物をすませ、最終のバスに飛び乗った。

そして村のバス停についたときは、すでにとっぷりと陽が暮れていた。

(ついこの間まで、

夏だったような気が

してたけど……)

(もう十月だもんね)

荷物、重い……

月花祭の当日、ご馳走やらは、村の人が材料や調理された料理を提供してくれる。


わたしは今日、花飾りを作る造花や、小さな子供のお土産にするお菓子なんかを買ってきたのだ。


ひとつひとつはとても軽いものだけど、たくさんの荷物を背負い、夜道をゆくのは心細い。

早く帰って、神楽の

練習もしなきゃ

けれど、その瞬間。

――……っ

ぐるりと、視界が廻った。


天地があべこべになり、わたしの視界に映ったのは――

(月が、赤い――)

目眩だと気付いたときには、


わたしはすでに地面へと倒れ込んでいた。

(ああもう。

早く帰らなきゃ)

(早く……)

けれど、どれだけ体に力を込めようとしても、体はぴくりとも動かない。

(どうしよう……)

焦りを感じ始めた、その時だった。


わたしの元へ、ふたつの人影が近づいてきたのだった。



――足音も響かせずに、わたしの元へ近づいてくる、ふたつの人影があった。

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登場人物紹介

リュカ

ツェリ

???

???

???

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