ツバメの企み
文字数 3,861文字
*
カンタロウとマリアから一キロほど離れた、森の中。
アゲハとツバメは、一緒に木のそばにいた。
アゲハは白い岩の上に座り、ツバメがそのそばに立つ。
背の低い草むらの中で、ヒバリが昆虫を捕まえていた。
天井は、森の深緑に包まれている。
「話って何だい?」
ツバメは木に手を置き、アゲハを見下ろす。
「マリアってさ。貴族の娘とかなの?」
アゲハがマリアのことについて、聞いてきた。
マリアのこれまでの行動や言動からして、そう判断したのだ。
口調や態度から、ただの町娘とは思えない。
相当教育されてきたことがわかる。
「そうだよ。やっぱ世間知らずなとこ、でてたかい?」
「やっぱり」
「まっ、貴族というか、元金持ちの娘だね。小さい頃から箱入り娘で、何不自由なく暮らしてたみたいだけどさ。盗賊に両親を殺されて、親戚に引き取られたみたいだよ。その盗賊をやっつけたのが私なんだけどね。その縁で、マリアと組んでるわけ」
ツバメは隠すことなく、アゲハにペラペラ話した。
「なんでこんな危険なことしてるの?」
「あいつは赤眼化できたからね。親戚ってのが、武闘派の血筋だったんだよ。それでエリニスのビルヘンって所に、修行にだされたわけ。そこの大使徒様に気に入られたみたいでね。妹の救出も自ら志願して、ここに来たってわけよ。ちなみにあたしは、フリーのハンター。どこにも所属してない一匹狼だよ」
ツバメは自分を、親指で指さす。
「そうなんだ。マリアってあまり、戦闘タイプって感じじゃないのにね」
「まあねぇ。そこんとこは、あいつのプライベートになるから、あたしはわかんないけどさ。いろいろ事情があるんだろうさ」
アゲハに向かって、両手を広げるツバメ。
マリアはどちらかというと、清純で感情豊かなタイプだ。
一度好きになれば、一途に想い続けるのだろう。
カンタロウがマザコンだと知っていても、まったく気にすることがない。
外にでて怪物と闘うイメージとは、程遠い。
「ねえ。もしマリアがさ。カンタロウ君と一緒になりたいって言ったら、特に問題はないの?」
「ええっ? そんなの駄目に決まってるじゃないか。あいつはもう組織にほっとかれるような、立場じゃないんだよ。カンタロウっちと一緒になれるわけがない」
アゲハの言葉に、ツバメは面食らっている。
薄々はマリアの気持ちをわかっていたが、まさか本当に組織を裏切ってまで、男の所にいくとは思っていなかったからだ。
ツバメの驚きように、アゲハも目をパチクリさせ、
「そうなの?」
「そうだよ。もしマリアがそんな我が儘を言うようなら、力づくで連れ戻せって命令があたしにでてる。あたしはマリアに雇われてるんじゃなくて、大使徒に雇われてるからね。マリアの言うことは聞かないよ」
ツバメは腕を組んで、プイッと後ろをむいた。
――そして最低でも『妹』だけは連れてこいって、言われてるけどね。マリアの生死問わず。
ツバメはその先をアゲハに教えなかった。
大使徒の言葉が思い出される。
マリアの生死を問わずということは、もし裏切れば殺してこいということだ。
マリアが妹に同情し、よけいなことをさせない措置だった。
「えっ? 何?」
「あっ、ああっ、なんでもないよ。とにかく駄目だ駄目だ。あたしはマリアのこと、気に入ってるんだ。あいつに悲しい思いはさせたくない。だから、あんたからカンタロウっちに言ってやっておくれよ。――マリアのことは、諦めろって」
ビシッとアゲハにむかって、指をさすツバメ。
「カンタロウ君は大丈夫だよ。ヒナゲシママしか愛してないし」
「あっ、そうだったね。あいつ、マザコンだった。なら安心だね。まっ、マリアには親戚が決めた婚約者だっているし。叶わぬ恋ってやつだ」
ツバメが言う事実に、またアゲハは目を丸くし、
「えっ? 婚約者までいるの?」
「いるよ。まあ政略結婚だけどね。子供の頃は、何不自由なく暮らしてたんだ。その代償さね」
ツバメは意外に、仲間に対して厳しいようだ。
「ふぅん……」
アゲハはどっちつかずといった表情で、両手に顎を乗せた。
アゲハの様子を見ていたツバメは、よからぬことを思いついた。アゲハの見えない所で、ニヤリと笑う。
「ああ、まあ、もしマリアが残りたいと言ったら、あたしは手を引いてやってもいいよ。あいつの幸せが一番だからね。その代わりと言ったらなんだけどね……お前の胸を触らしちくり」
ツバメがその言葉を言った刹那、空気が止まった。風も止み、鳥や虫の鳴き声も止まった気がした。
「…………」
アゲハは無言のまま、何の反応もしない。
しばらく、時間が過ぎていった。
さすがのツバメも、この無音無言な世界に、耐えられることができなくなり、
「あっはっはっは! 冗談! 冗談さね! だからそんな、汚物を見るような目で、あたしを見つめないでおくれ。ちょっとした……」
「いいよ」
「……えっ! いいのっ! 本気かい! あんた! これセクハラだよ!」
アゲハのあっさりとした了承に、ツバメは脳天に一撃をくらった。
ダメージが大きかったため、これがセクハラだと自分で認めてしまったほどだった。
「うん。胸ぐらい、別にいいよ」
アゲハが岩の上から立ち上がる。
「よっしゃ! 誰もいないね?」
ツバメは鋭い目つきで、辺りをキョロキョロさせた。興奮しすぎて、唾が飛んでいる。
性的なことを何も知らないアゲハは首をかしげ、
「どうして? 誰かいたらまずいの?」
「そりゃおおまずさ! よしよし」
「ねえ。約束してよ。マリアのこと、ほっといてあげるって」
「いいさね。約束するよ。あたしは手をださない」
ツバメはバッと、両手を上げた。ついでに片足も上げていた。
――まっ、あたしはださないけど、他の誰かがだすだろうねぇ。ふふふ……。
心の中でほくそ笑むツバメ。
「じゃ、とりあえず、鎧を脱いで、剣を置きな」
「えっ? このままじゃ駄目なの?」
「駄目に決まってるじゃないか。触りずらいよ」
「はいはい。脱げばいいのね?」
アゲハはツバメの言うことを聞き、剣を外し、鎧を脱いだ。
――おいおい。本当に素直に脱いじゃったよ。やっぱこれ。誘ってるね! あたしのこと、絶対誘ってるね!
ツバメの気持ちが高ぶってくる。汗がにじみ、唾液があふれた。体温はすでに最高潮に達している。
「はい。これでいいの?」
アゲハは鎧を脱ぎ終え、簡素な格好になっている。おわん型の胸が、くっきりと見えていた。
「おう! バッチリさね! シャワーがないのが、残念だけど」
「シャワー? どうして?」
「なんでもないよ。じゃ、両目を閉じとくれ」
「両目を? まあ……いいけど」
なぜ胸を触るのに、両目を閉じるのか、アゲハは不思議に思ったが、とりあえず目をつぶった。
隙だらけの格好だ。
ツバメが何をするのか不安だが、マリアのためと、アゲハは我慢することにした。
――はあああああ! 興奮してきたぁ! まずはそうだねぇ。口を奪って、押し倒して、胸をまさぐって……そしてパラダイスに行かせてあげるよ。あたしのアゲハ!
ツバメはアゲハの視覚がなくなったことを確認すると、自分の唇を近づけていく。
アゲハの唇は光沢があり、近くで見ても初で綺麗だ。
処女の唇を奪うべく、ツバメは鼻息を強制的に止めた。
――うんん……あれ? なんか尖ってる物が、目の前に……。
何かが光っていることに気づいた。それは空の光に反射し、ツバメの目の中に入ってくる。
槍の穂先であることがわかった。
「あっ」
ツバメはそろりと、槍の端に視線を移す。
マリアが槍を構え、鬼のような笑顔で立ち、
「ツバメさん。何をなさってるのですか?」
マリアはニコニコ笑っているが、目は怒りで引きつっている。
ツバメの全身から、変な脂汗が流れでて、
「ふっ、どうやら催眠にかかったみたいだね。変な力で引き寄せられ……」
「ツバメが私の胸。触りたいんだって」
マリアに気づいたアゲハは、すべてを言ってしまった。
「ちょ! アゲハちゃん! 何言ってるんだい!」
ツバメの血液が、逆流する。
「ツバメさん。やっぱり。――あなたは殺さないと駄目みたいですね!」
マリアが容赦なく、槍をツバメにむかって振り下ろした。
それをかわし、すんでの所で命を救う。黒い髪が何本か、犠牲となった。
ツバメは後ろに引き、
「ぎゃあ! まっ、待てって! マリアは潔癖すぎるんだよ! だから、あたしを受け入れられないだけさ!」
「誰が、あなたなんか受け入れますか! このケダモノ! 変態! 胸が無駄に大きいんです!」
ついポロッと本音がでてしまうマリア。少し羨ましかったようだ。
「胸を根に持ってたんかい! 大きくなりたきゃ、あたしが揉んでやるよ」
ツバメが両手を卑猥に、モミモミと動かした。
「女神の名のもとに、あなたを滅殺します!」
マリアの戦闘能力が、さらに上がった。
「ぎゃああ! 本気だよこの子! 本気であたしを殺る気だよ!」
マリアは槍を振り回し、ツバメを追いかけていく。
ツバメは後ろを振りむかず、恐怖で叫びながら逃げていった。
アゲハは呆然と、目をパチパチさせながら様子を見守っている。
カンタロウが静かにやってきた。
アゲハは片手をあげ、
「あっ、カンタロウ君。どうなの?」
「アゲハ。小さい母は――いなかったよ」
カンタロウの目から、キラリと透明な涙が光った。
「うん。現実におかえり。カンタロウ君」
アゲハはカンタロウの腰に、ポンッと手をやった。
「ただいま」
カンタロウは指で、目頭を押さえていた。
カンタロウとマリアから一キロほど離れた、森の中。
アゲハとツバメは、一緒に木のそばにいた。
アゲハは白い岩の上に座り、ツバメがそのそばに立つ。
背の低い草むらの中で、ヒバリが昆虫を捕まえていた。
天井は、森の深緑に包まれている。
「話って何だい?」
ツバメは木に手を置き、アゲハを見下ろす。
「マリアってさ。貴族の娘とかなの?」
アゲハがマリアのことについて、聞いてきた。
マリアのこれまでの行動や言動からして、そう判断したのだ。
口調や態度から、ただの町娘とは思えない。
相当教育されてきたことがわかる。
「そうだよ。やっぱ世間知らずなとこ、でてたかい?」
「やっぱり」
「まっ、貴族というか、元金持ちの娘だね。小さい頃から箱入り娘で、何不自由なく暮らしてたみたいだけどさ。盗賊に両親を殺されて、親戚に引き取られたみたいだよ。その盗賊をやっつけたのが私なんだけどね。その縁で、マリアと組んでるわけ」
ツバメは隠すことなく、アゲハにペラペラ話した。
「なんでこんな危険なことしてるの?」
「あいつは赤眼化できたからね。親戚ってのが、武闘派の血筋だったんだよ。それでエリニスのビルヘンって所に、修行にだされたわけ。そこの大使徒様に気に入られたみたいでね。妹の救出も自ら志願して、ここに来たってわけよ。ちなみにあたしは、フリーのハンター。どこにも所属してない一匹狼だよ」
ツバメは自分を、親指で指さす。
「そうなんだ。マリアってあまり、戦闘タイプって感じじゃないのにね」
「まあねぇ。そこんとこは、あいつのプライベートになるから、あたしはわかんないけどさ。いろいろ事情があるんだろうさ」
アゲハに向かって、両手を広げるツバメ。
マリアはどちらかというと、清純で感情豊かなタイプだ。
一度好きになれば、一途に想い続けるのだろう。
カンタロウがマザコンだと知っていても、まったく気にすることがない。
外にでて怪物と闘うイメージとは、程遠い。
「ねえ。もしマリアがさ。カンタロウ君と一緒になりたいって言ったら、特に問題はないの?」
「ええっ? そんなの駄目に決まってるじゃないか。あいつはもう組織にほっとかれるような、立場じゃないんだよ。カンタロウっちと一緒になれるわけがない」
アゲハの言葉に、ツバメは面食らっている。
薄々はマリアの気持ちをわかっていたが、まさか本当に組織を裏切ってまで、男の所にいくとは思っていなかったからだ。
ツバメの驚きように、アゲハも目をパチクリさせ、
「そうなの?」
「そうだよ。もしマリアがそんな我が儘を言うようなら、力づくで連れ戻せって命令があたしにでてる。あたしはマリアに雇われてるんじゃなくて、大使徒に雇われてるからね。マリアの言うことは聞かないよ」
ツバメは腕を組んで、プイッと後ろをむいた。
――そして最低でも『妹』だけは連れてこいって、言われてるけどね。マリアの生死問わず。
ツバメはその先をアゲハに教えなかった。
大使徒の言葉が思い出される。
マリアの生死を問わずということは、もし裏切れば殺してこいということだ。
マリアが妹に同情し、よけいなことをさせない措置だった。
「えっ? 何?」
「あっ、ああっ、なんでもないよ。とにかく駄目だ駄目だ。あたしはマリアのこと、気に入ってるんだ。あいつに悲しい思いはさせたくない。だから、あんたからカンタロウっちに言ってやっておくれよ。――マリアのことは、諦めろって」
ビシッとアゲハにむかって、指をさすツバメ。
「カンタロウ君は大丈夫だよ。ヒナゲシママしか愛してないし」
「あっ、そうだったね。あいつ、マザコンだった。なら安心だね。まっ、マリアには親戚が決めた婚約者だっているし。叶わぬ恋ってやつだ」
ツバメが言う事実に、またアゲハは目を丸くし、
「えっ? 婚約者までいるの?」
「いるよ。まあ政略結婚だけどね。子供の頃は、何不自由なく暮らしてたんだ。その代償さね」
ツバメは意外に、仲間に対して厳しいようだ。
「ふぅん……」
アゲハはどっちつかずといった表情で、両手に顎を乗せた。
アゲハの様子を見ていたツバメは、よからぬことを思いついた。アゲハの見えない所で、ニヤリと笑う。
「ああ、まあ、もしマリアが残りたいと言ったら、あたしは手を引いてやってもいいよ。あいつの幸せが一番だからね。その代わりと言ったらなんだけどね……お前の胸を触らしちくり」
ツバメがその言葉を言った刹那、空気が止まった。風も止み、鳥や虫の鳴き声も止まった気がした。
「…………」
アゲハは無言のまま、何の反応もしない。
しばらく、時間が過ぎていった。
さすがのツバメも、この無音無言な世界に、耐えられることができなくなり、
「あっはっはっは! 冗談! 冗談さね! だからそんな、汚物を見るような目で、あたしを見つめないでおくれ。ちょっとした……」
「いいよ」
「……えっ! いいのっ! 本気かい! あんた! これセクハラだよ!」
アゲハのあっさりとした了承に、ツバメは脳天に一撃をくらった。
ダメージが大きかったため、これがセクハラだと自分で認めてしまったほどだった。
「うん。胸ぐらい、別にいいよ」
アゲハが岩の上から立ち上がる。
「よっしゃ! 誰もいないね?」
ツバメは鋭い目つきで、辺りをキョロキョロさせた。興奮しすぎて、唾が飛んでいる。
性的なことを何も知らないアゲハは首をかしげ、
「どうして? 誰かいたらまずいの?」
「そりゃおおまずさ! よしよし」
「ねえ。約束してよ。マリアのこと、ほっといてあげるって」
「いいさね。約束するよ。あたしは手をださない」
ツバメはバッと、両手を上げた。ついでに片足も上げていた。
――まっ、あたしはださないけど、他の誰かがだすだろうねぇ。ふふふ……。
心の中でほくそ笑むツバメ。
「じゃ、とりあえず、鎧を脱いで、剣を置きな」
「えっ? このままじゃ駄目なの?」
「駄目に決まってるじゃないか。触りずらいよ」
「はいはい。脱げばいいのね?」
アゲハはツバメの言うことを聞き、剣を外し、鎧を脱いだ。
――おいおい。本当に素直に脱いじゃったよ。やっぱこれ。誘ってるね! あたしのこと、絶対誘ってるね!
ツバメの気持ちが高ぶってくる。汗がにじみ、唾液があふれた。体温はすでに最高潮に達している。
「はい。これでいいの?」
アゲハは鎧を脱ぎ終え、簡素な格好になっている。おわん型の胸が、くっきりと見えていた。
「おう! バッチリさね! シャワーがないのが、残念だけど」
「シャワー? どうして?」
「なんでもないよ。じゃ、両目を閉じとくれ」
「両目を? まあ……いいけど」
なぜ胸を触るのに、両目を閉じるのか、アゲハは不思議に思ったが、とりあえず目をつぶった。
隙だらけの格好だ。
ツバメが何をするのか不安だが、マリアのためと、アゲハは我慢することにした。
――はあああああ! 興奮してきたぁ! まずはそうだねぇ。口を奪って、押し倒して、胸をまさぐって……そしてパラダイスに行かせてあげるよ。あたしのアゲハ!
ツバメはアゲハの視覚がなくなったことを確認すると、自分の唇を近づけていく。
アゲハの唇は光沢があり、近くで見ても初で綺麗だ。
処女の唇を奪うべく、ツバメは鼻息を強制的に止めた。
――うんん……あれ? なんか尖ってる物が、目の前に……。
何かが光っていることに気づいた。それは空の光に反射し、ツバメの目の中に入ってくる。
槍の穂先であることがわかった。
「あっ」
ツバメはそろりと、槍の端に視線を移す。
マリアが槍を構え、鬼のような笑顔で立ち、
「ツバメさん。何をなさってるのですか?」
マリアはニコニコ笑っているが、目は怒りで引きつっている。
ツバメの全身から、変な脂汗が流れでて、
「ふっ、どうやら催眠にかかったみたいだね。変な力で引き寄せられ……」
「ツバメが私の胸。触りたいんだって」
マリアに気づいたアゲハは、すべてを言ってしまった。
「ちょ! アゲハちゃん! 何言ってるんだい!」
ツバメの血液が、逆流する。
「ツバメさん。やっぱり。――あなたは殺さないと駄目みたいですね!」
マリアが容赦なく、槍をツバメにむかって振り下ろした。
それをかわし、すんでの所で命を救う。黒い髪が何本か、犠牲となった。
ツバメは後ろに引き、
「ぎゃあ! まっ、待てって! マリアは潔癖すぎるんだよ! だから、あたしを受け入れられないだけさ!」
「誰が、あなたなんか受け入れますか! このケダモノ! 変態! 胸が無駄に大きいんです!」
ついポロッと本音がでてしまうマリア。少し羨ましかったようだ。
「胸を根に持ってたんかい! 大きくなりたきゃ、あたしが揉んでやるよ」
ツバメが両手を卑猥に、モミモミと動かした。
「女神の名のもとに、あなたを滅殺します!」
マリアの戦闘能力が、さらに上がった。
「ぎゃああ! 本気だよこの子! 本気であたしを殺る気だよ!」
マリアは槍を振り回し、ツバメを追いかけていく。
ツバメは後ろを振りむかず、恐怖で叫びながら逃げていった。
アゲハは呆然と、目をパチパチさせながら様子を見守っている。
カンタロウが静かにやってきた。
アゲハは片手をあげ、
「あっ、カンタロウ君。どうなの?」
「アゲハ。小さい母は――いなかったよ」
カンタロウの目から、キラリと透明な涙が光った。
「うん。現実におかえり。カンタロウ君」
アゲハはカンタロウの腰に、ポンッと手をやった。
「ただいま」
カンタロウは指で、目頭を押さえていた。