第7話:春めぐる

文字数 999文字

 冬が過ぎ、春もすぐそこまで迫った三月。
 色の無い彼は、あの日以来一度も見かけていない。
 私はといえば、部活に戻るようなことはしていないが、なるべく前を向けるように努力はしているつもりだ。


 そんなある日、私のもとに一通の手紙が来た。

『今更だけど、会って話したいことがあります』

 簡素な一文とともに、放課後、学校の屋上に来るように書かれていた。
 差出人は、かつての仲間の一人だった。



 放課後――屋上。
 私が扉を開けると、そこにはあの日の仲間たちが集結していた。

「――よっちゃん」

「「「ごめんなさい」」」

 一斉に頭を下げられる。

「え……?」

 困惑する私に、

「私たちね、冬のアンサンブルコンテストに木管八重奏で出たの。でも――ダメだった」

 アンサンブルコンテスト。夏のコンクールとともに、吹奏楽部の二大大会ともいわれるコンテスト。
 そこに、二年生が三人出たのだという。だが、結果は酷かったらしい。

「やっぱり……よっちゃんの力が必要なの」
「多分私たちがあの日、陰口言ってたのを聞いちゃったんだと思うけど……本当にごめんなさい」
「今更だけどさ、戻ってきてほしいの」

 そう言って差し出されたのは、”入部届”と書かれた紙だった。

「ちょっと! これ名前まで書いてあるじゃん……しかも私の字そっくり」


「よっちゃんが戻ったらさ、もしかしたら私、またコンクール出られないかもしれないけど。でも、よっちゃんが居ないよりマシだから……」

 サックスパートの二年生は、五人いる。曲目にもよるが、全員が出られる確率は相当低い。
 来年の、夏のコンクール。それが、新三年生の出られる最後の大会だ。

「私、戻っていいの?」

「お願い、戻ってきて」
「先生には全部説明したの。だから……お願い」

 手に持った入部届が、風になびく。
 あたたかな、やさしい春の風だ。

 思わず、涙が溢れる。

「え……よっちゃん? ごめんね?」
「ううん、そうじゃないの」

 きっと私は、泣きたかったんだ。
 この何か月もの間、孤独を抑え込んで。そして、再びこうして仲間たちと仲直りして。

 だからこれは、悲し涙じゃない。
 だって、涙でかすんだ視界には、たくさんの黄色(ともだち)が視えているのだから。




COLORED TEARS  ― 完 ―
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