文字数 943文字





校門の前で出逢った生徒会長(おとこ)御令嬢(おんな)は談笑をしながら足並みを揃えて校舎に向かっていた。


眉目秀麗な彼に大和撫子の彼女が隣に立つと、思わず視線が奪われてしまう。あのお二方、本当に素敵だわ!と周りの同級生から揶揄する言葉や黄色い声援が嫌でも彼らの耳に届く。


『ふふっ。私達お似合いですって』

「鵜呑みにするな」


特に男子生徒らにとって華之衣の存在は単なる憧れだけでは片付けられないようで、彼らの気分はまるで高貴なご令嬢に従う召使いさながらだった。


「は、華之衣さん!おはようございます。俺で良ければお荷物持ちます!」

『・・・・・・?えぇっと』


どなただったかしら。まぁ使える物は使って差し上げましょうか。同じ歳にそんな扱いをされている事に彼女は何も興味が無い。一切彼らの好意は気にも留めておらず、ただの便利な使用人としてしか映っていなかった。


『宜しくお願いするわ』

「は、はい!あの、俺とも登下校してくださいませんか?」

あぁなるほど。そう言う事情ね。顔も知らぬ生徒の下心が顕になった途端、彼女の中で下僕化(ランクダウン)が決定した。珠唯が悪事を働く時、思考回路が回転するスピードは光の速さよりも瞬時である。

『申し訳無いけれど、役割はお一人お一つまでなのよ。
・・・・・・護衛は堂上くんがしてくれるから』

「は?」

『だから他に特別なことをお任せしたいの。これは貴方にしかできないことよ』

「な、何でしょうか?」


そう言ってソワソワと動く男の耳を引っ張ると、耳朶に唇が触れてしまうくらいの近さでゆっくりと妖艶に言葉を紡ぐ。荷・物・持・ち♡と。

華之衣の急な接近に顔を真っ赤にした下僕は、役割を与えられて嬉しそうに女の荷物を運んで行った。この学園生活中、彼女に指示されたことを彼は全うするのだろう。たった今、それを悦びだと洗脳させられたのだから。


「おい」

『なぁに』

「華之衣、出鱈目を言うのはいい加減にしろ」

『だって彼ってば、何か物欲しそうな顔をしていたものだから』


彼女を見ていると嘘も方便と言う言葉が真っ先に浮かび上がってくる。この女の想像力には頭脳明晰な堂上ですら頭を抱えてしまう。お手上げ状態だ。何かを企てている彼女にはどんな言葉を贈っても無駄な事を理解している。


お前いつか痛い目見るぞ、と淡雪のような肌を半ば呆れながら見詰めた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み