荊軻の計略、破れる、再び安陵君

文字数 1,557文字

 物語は、『資治通鑑』巻七、秦紀二に入ります。

 秦王政の二十年(B.C.二二七)になりました。

 荊軻(けいか)咸陽(かんよう)に至り、王の寵臣(ちょうしん)蒙嘉(もうか)によりて()をひくくして謁見(えっけん)を求めました。秦王は大いに喜び、朝服(ちょうふく)して、九賓(きゅうひん)(れい)(もう)けて荊軻(けいか)謁見(えっけん)しました。

 注では九賓(きゅうひん)について述べていますが、ここでは深入りは避けます。丁寧な対応と見ていいでしょう。

 荊軻(けいか)は地図を(ほう)じて王へと進みました、地図が(きわ)まる(終わる)と匕首(ひしゅ)が現((あらわ))れました。当時は紙がなかったはずなので、布にでも地図を書いたのでしょうか、ともかく包んであるものが終わると、匕首(ひしゅ)があらわれたわけです。

 そして機をとらえて王の服の(そで)()りて王を()しました。まだ(からだ)に至らないうちに、王は驚きて起ち、(そで)()たれ(破れ)ました。荊軻(けいか)は王を()い、王は柱を(めぐ)りて走りました。

 群臣は皆な恐愕(きょうがく)し、(にわか)()ちて()あらぬ様子で、ことごとくその()をうしないました。そうではあるものの、秦の法では、群臣の殿上(でんじょう)()する者は尺寸(せきすん)(へい)(武器)を()ることもできませんでしたので、左右(さゆう)のものは手で共に荊軻を()とうとしました。そして申し上げました。

「王よ、剣を負われよ!」

 剣を背負うと、王は遂に剣を抜き、そして荊軻(けいか)()ち、その左股(さこ)(左の足でしょう)を断ちました。

 荊軻は立てず、そこで匕首(ひしゅ)を引いてから王に(なげう)ちましたが、銅柱(どうちゅう)(あた)りました。

 事が()らなかったことを知り、(ののし)って申しました。

「事が成らなかったのは、生きながらに秦王を(おびやか)し、必ず約束(やくそく)(わりふ)を得て太子に(ほう)ぜようとしたからだ!」

 もともとわかってはいたことですが、ここに誰が黒幕だったかが、告げられたわけです。

 遂に荊軻(けいか)の体をバラバラにして(とな)えました。(見せしめにしたわけです)

 秦王はここに大いに怒り、ますます兵を発して趙にいたらせ、王翦(おうせん)に配属させて燕を伐ち、燕の(ぐん)、代の(ぐん)易水(えきすい)の西に戦い、大いに連合軍を破りました。

 二十一年(B.C.二二六)になりました。

 冬、十月、王翦(おうせん)(けい)を抜きました。燕王と太子はその精兵を率いて東にゆき遼東(りょうとう)を保ちました。李信(りしん)はこれを急追(きゅうつい)しました。代王(だいおう)()は燕王に書を(つか)わし、太子・(たん)を殺しそして献ぜさせようとしました。丹は衍水(えんすい)の中に(かく)れました。燕王は使いに(たん)を斬らせ、それを秦王に献ぜようとしましたが、秦王はふたたび兵を進め燕を攻めました。

 王賁(おうほん)が楚を伐ち、十余城を取りました。王は将軍・李信(りしん)に問うておっしゃいました。

(われ)(けい)(楚)を取りたい。(王の父、莊襄王(そうじょうおう)(いみな)が楚であったことから、そのために楚をいって(けい)としている)将軍ならば用をはかるに幾何(いくばく)の人であれば足るであろう?」

 李信(りしん)は申しあげました。

「用(軍を動かすの)は、二十萬を過ぎません。」

 王はそこで(同じことを)王翦(おうせん)に問いました。

 王翦(おうせん)は申しあげました。

「六十萬人でなければ不可でしょう(無理でしょう)」

 秦王はおっしゃいました。

「王将軍は老いたかな、何をか(きょう)たらん!(消極的であろう)」

 遂に李信(りしん)蒙恬(もうてん)に二十萬人を(ひき)いて楚を伐たせました。

 王翦(おうせん)はそこで病と謝して(病気だといって)頻陽(ひんよう)に帰りました。(王翦(おうせん)は、秦の頻陽(ひんよう)の人とのこと。)

 二十二年(B.C.二二五)

 王賁(おうほん)が魏を伐ち、河に(みぞ)を引いてそして大梁(たいりょう)にそそぎました。三月、城が壊れました。魏王・()は降服しましたので、魏王を殺し、遂に魏を滅ぼしました。

 王は人に安陵君(あんりょうくん)にいって申させました。

寡人(わたし)は五百里の地と安陵(あんりょう)とを()えたいとおもう。」

 安陵君(あんりょうくん)は申しあげました。

「大王は(けい)(めぐみ)を加えてくださり、大で小に()えてくださる。幸いは甚だし。そうではあるものの、臣は地を魏の先王に受けております。願わくは()いにこれを守りて、あえて()えざらんことを!」

 王は()としてこれを許しました。

 さて、秦の楚攻略はどうなったでしょうか。
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