橘 麗名《たちばな れいな》 二

文字数 485文字

 お母さんと接した記憶が、私にはあまりない。

 いつも家に居なくて、私と妹を世話してくれたのは、お祖母(ばあ)ちゃんだ。

 お父さんはフォトグラファーで、お父さんも家を留守にすることが多かった。

 だから家族のぬくもりというものは、私の記憶にはないのだ。

 家に帰って、テレビを観る。すると、大抵のドラマにお母さんが映っている。


『ただいま』


 テレビに向かって、そう言ったこともあったっけ。

 家に居ないお母さんは、テレビの向こう側にいた。だから思わず、テレビに向かってそう言ってしまったんだ。


 テレビの向こうにいるお母さんは、私の知っているお母さんとは違った。


 まるで、光を放っているみたいに。お母さんは、一段と綺麗に見えた。

 どんなに不機嫌でも、疲れていても、『今日、テレビに映ってたお母さん、とっても綺麗だったよ』そう言うと、お母さんは笑いながら、決まってこう返してきた。


『お母さんは"女優"だからね。"女優"はいつでも、誰よりも、綺麗じゃないといけないの』


 その時のお母さんの顔が、私の目蓋の裏に貼り付いている。
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