第1話 魔王桜はその部下・朽木桜斎を呼び出す

文字数 769文字

「ああ、遅刻だ、遅刻。またあのバカ……もとい、魔王桜(まおうざくら)御方様(おんかたさま)から、雷を落とされるぞ。やれやれ、ああ、やだやだ……」

 みなさん、はじめまして。

 わたしは朽木桜斎(くちき おうさい)という者でございます。

 いまわたしは春のそよ風に乗り、山の奥の桜の森へと急いでいるところなのです。

 なぜかって?

 ほかでもありません、わたしの「ご主人様(しゅじんさま)」から、「呼び出し」を()らったのであります。

 魔王桜というのがそのご主人様であって、いわく「あやかしの王」、いわく「魑魅魍魎(ちみもうりょう)の支配者」、あるいは「宇宙の帝王」……

 などと、自分で名乗っているだけ(・・・・・・・・・・・)の「救えないバカ」なのでございます。

 自分でそう思っているだけなのですね。

 なんという思い上がり、身のほど知らず、妄想野郎(もうそうやろう)……

「聞こえているぞ」

「はひぃっ!?」

 あらら、着物の肩口(かたぐち)に「桜の花びら」が……

「お前の考えていることなど、すべてお見とおしだ。桜斎、貴様はまさか、わたしが作ってやった(おん)も、忘れてしまったのではないだろうなあ?」

「はひ、はいっ! もちろんでございます、御方様あっ! だからこうして、急いでそちらに向かっているのではありませんかあっ!」

「ふん、どうだか。なんでもよいから、早く来い。わたしは気が短いのだ」

「はい、はいっ! すぐに参ります! いましばらくお待ちを!」

「まったく、(どん)くさいやつだ」

 ああ、やだやだ。

 どう思います、みなさん?

 あなたがたの言葉で言えば、とんだ「ブラック上司」ですよ!

 このバカはいつも、こんなふうにわたしをこき使って……

「なんだと? 聞こえていると言っただろう!?」

「ひええっ! すみません、すみませんっ!」

「よいから、さっさと()んか! もとの朽木(くちき)に戻してしまうぞ!?」

「すぐに、いますぐにいっ!」

 こんな具合でわたしは、御方様のいらっしゃる「化物(ばけもの)づくしの(はら)」へと急いだのでございます。
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