五十一 GWの二人

文字数 1,283文字

 俺のアパートに初めて来たのはドーンだった。
 ゴールデンウィークの真っ最中。高校時代の仲間とバーベキューをして、こいつだけ現地解散したらしい。俺のアパートは東京のはずれだ。

『せっかくだから寄っていい? 邪魔じゃないよね?』

 わざわざ電話でにこにこと言う。
 おもいきり勉学の邪魔だ。でも知り合いはいまだ少ない。だから駅まで迎えにいった。自習も切りあげた。

「めっちゃ簡素な部屋じゃん。て言うか、哲人は彼女いるの?」

 いないと答えると、自分の彼女自慢が始まる。画像を見せられる。盛りまくっているので、なんとも答えられない。高校時代の加工してない画像も見せられた。……かわいいじゃないか。4―tuneの一年女子レベルだ。ほめ過ぎかな?

「俺は夕方からバイトだから」
 言うのは二度目だ。まだ二時間あるけど、早々に帰ってほしい。

「焼肉屋だっけ(当時は。夏に閉店してバイト先を変えた)? 店員割引ある?」
 ドーンは気にしない。
「でも肉食いすぎたし。ラケットふたつあるじゃん! テニスやるじゃん。俺さ、初心者にしちゃうまくね? ていうか両方とも左用?」
「巻きだけね」

 ほかになにもない部屋だから、休みの会社の駐車場に行く。

 ***

 ひさびさに汗をかいて発散できた。
 ドーンは運動センスのかたまりだった。とくに体の切り返しと反応。ラグビーの背番号9番を連想させる動き。敏捷性は間違いなく俺に勝る。バスケなんかでなく別の球技のが合っているかも。

「背丈なんて関係ねーし」

 ……こいつ、本気でにらんだよな。ドーンは調子がいいだけじゃない。テニスの真似事でさえ、たまに勝気があふれた。

「シャワー貸して。そんで、バイト終わるまで部屋にいていい?」

 なにもなかったように言う。断りたい。顔を覗きこみながら言われると、いいよと言ってしまう。あさられて困るものもないし。
 ドーンのペースは小気味よくて、ある意味一緒にいて楽だ。

「川田って、のんびりしているよね?」
 俺はドアを開けながら言う。

「あまり口きいてないから知らね。東京にいれば、来年の夏ぐらいには変わるんじゃね?」
 ドーンがスマホをいじりながら部屋に入る。
「カカッ、やっぱ飲み会だとよ。大学入ったら、みんなこれ。勉強漬けの男もいるのにね」

 こいつは歓迎会を二度とも来なかったな。未成年だからと真面目なのか、賑やかすぎる集まりが苦手なのか、単にアルコールが駄目なのか、多忙すぎるのか。付き合いが浅いからなにも分からない。

「鍵をポストに入れて、勝手に帰っていいよ」
 いつまでもいて欲しくない。

「帰んねーし。哲人が終わるまでここで待つじゃん」
 ドーンがにこやかに手を振る。

 ***

 戻ってくると、たしかに待っていてくれた。俺のベッドで爆睡していた。コンビニには抜けだしたらしく、俺の分らしき炭酸飲料と缶コーヒーがあった。
 俺は微糖コーヒーを飲みながら二時まで勉強して、タオルケットをかけてフローリングで寝る。
 ドーンは起きない。床からの冷気がきつい――


「いつまでも寝ているな」
 思玲に護布をはがされる。彼女は全裸だった。




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