第20話 瘴気の塊

文字数 1,157文字

 視界をさえぎる瘴気が鬱陶しい。
 普段、この辺りは普通の人間が散策できるほどだったのに。
 
 自分の周りの結界が時々揺らぐ。
 瘴気が波になって押し寄せてくるのが分かった。
 アイストルスト王国側の結界が揺らいでいるのだ。多分、数年……どんなに頑張っても10年もせずあの結界は破裂してしまうのだろう。
 そうしたら国内にこの瘴気が流れ込み、そして更に年数を掛けて消えていくのだと思う。
 アイストルスト王国もこの瘴気も……。

 そうすればルイーナ王国の結界も用無しになるわね。
 
 薬草が生えていた場所の更に奥、瘴気の塊が見えた。
 魔物ですらない……闇を切り取ったような塊?
 中にかろうじて生命反応を感じ取ることが出来る。
 
 私は浄化の魔法を使い瘴気を払おうとした。
 その瞬間、騎士団の鎧を着た男性が、何かを庇うようにうずくまっているのが見えた。
 
 あの子たち……。サラさんの子たちだわ。

 確認できたと思ったら、また瘴気に飲まれて行く。
 私は覚悟を決めて、彼らの傍……瘴気の中に飛び込んだ。

 できるだけ瘴気を払い結界を張る。
 結界の中を浄化し始めた。
 
 なんとか、いにしえの魔女の結界の中に入らなければ。
 そう思い、結界ごとルイーナ王国の結界を目指した。
 
 薄暗い瘴気の中、ふよふよと私たちは浮いて移動している。
 傍から見れば異様な光景だろうけど、幸い人の目は無い。騎士団の人たちも皆逃げてしまったのだろう。

「ううっ」
 おっと、騎士団のお兄さんが目覚めてしまう?
「大丈夫です。まだ、起きないでください」
 私はお兄さんの額にそっと手をおく。浄化と精神安定の魔法。
 そして少し睡眠効果をもたせる。

 その甲斐あってか、お兄さんは穏やかに眠りに就いた。

 バチッ。
 何かに弾かれて結界が揺らぐ。一瞬、結界が壊れかけたけど何とか持ちこたえた。
 ルイーナ王国の結界に拒まれた?
 以前は瘴気を纏ったけが人は結界をすり抜けていたのに?
 それだけこの3人の体から出ている瘴気が強いという事なのだろうか。
 その上、私は結界を張り、3人の生命維持の為に魔力を使っている。
 
 仕方が無いので入り口から離れた目立たないところへ移動した。
 中に入れない以上、ここで治療するしかない。

 カバンからポーションを入れる容器を取り出し、中に水を生成する。
 そして魔力を込めて浄化できる水を作った。
 子ども達から、少しずつ飲ませていく。
 内側と外側から、浄化すれば完全に瘴気は消えるだろう。
 
 ただ、人間に使うのは初めてだ。
 元々、私が瘴気の森に結界を張り、引きこもっていた時に狩った魔物を食べるため編み出した方法だ。
 この方法で、人間を生かせたまま瘴気のみ払えるかどうかは分からない。

 どうか助かりますように、そう祈りながら私は瘴気を浄化するための魔法を使い続けた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み