【恋愛】やわらかい朝

文字数 1,221文字


遮光カーテンは素晴らしい。ベッドサイドの時計は午前8時を過ぎているが、寝室はまだ仄暗い。カーテンの端からこぼれる白い光を見るに、今日は晴れだ。きっとお出掛け日和な日曜だ。

だけど、すぐに起き上がる気分にはなれず、僕は気ままにうとうとする。次第に覚醒し、隣から響くスヤスヤと心地よい寝息に気がついた。

音のする方へ首だけゆっくりと向けてみる。彼女はこちらを向いて横向きに寝ており、まだしっかり夢の中にいるようだ。

そのしなやかな髪、小さくて子どもみたいな手、見るからに柔らかそうな頬。彼女の寝姿はなんだかココロが休まり、放っておかれたら5時間くらい眺めていると思う。

手を伸ばし、だけど少し思い留まり、でもやっぱりまた伸ばして、彼女の頬をそっと撫でる。すると、微かにまつ毛が震えた後、ゆっくりとまぶたが開かれた。

「ごめん、起こした?」

僕の声を認識して、ゆっくりと顔を上げる彼女。ゆるりと微笑んで、数回瞬きをする。まだまどろんでいるらしい。そしてしばらくしたのち、こう言った。

「いい夢見たよ」

「へぇ、どんな?」

「覚えてない」

「ん?どういうこと?」

「よく覚えてないけど、あったかい気分だから、いい夢見てたんだと思うな」

「そっか」

嬉しいねと声を掛けながら頭を撫でる。ガーリーでフローラルなシャンプーの香りが鼻をかすめた。彼女は嬉しそうに笑って僕の胸元に顔を埋めるので、つられて僕もニヤケてしまう。たまらず、そっと抱きしめた。


週末になると、彼女はよく僕のアパートに泊まりにくる。「会えると思うと、その1週間を頑張れるの」と言い、いつも楽しそうに訪ねてきてくれるが、ここは彼女のアパートから片道3時間離れた場所。軽く小旅行である。きっと今日も15時過ぎには帰っていくだろう。

「ねぇ」

寝起きの勢いで、僕は思いついた言葉をそのまま伝えることにした。ちゃんと、聞いてね。

「なぁに?」

「これからは毎日僕のところに帰ってくればよくない?」

「毎日?」

彼女は目をキラキラさせてこちらを見上げる。

「すごくそうしたいけど、私のお泊りセット重いから、毎日持ち歩くのは大変かな。あ、それとも、ヒロくんがお泊りセット持って、私を職場まで送り迎えしてくれる?」

あ、えっと、僕が伝えたいのはそういうことでなく。その、ずっと一緒にいようってことで。

でも、すごく君らしいね。君のそういう、まっすぐに受け取めてくれるところ、好きなんだよね。

色々とややこしい人間関係をくぐり抜けた末に他人に興味がなくなり、「誰も近寄るなオーラ」で完全武装していた僕に、また「手を繋ぎたい」という気持ちを思い出させてくれた人。それが君だ。


「うーん、送り迎えかー。どうしようかなー」

彼女の髪の毛をわしゃわしゃと乱しながら、とりあえずの返事をする。また今度、ちゃんと言うね。

あぁ、今日もやわらかな朝だ。

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