第4話 到着
文字数 1,256文字
それから打ち上げまで二日しかなかった。欧米や中東、アフリカからの代表者との顔合わせがあり、宇宙船内の座席配置、「ノア」での居住区について説明を受けた。「ノア」は自転しているので昼の面と夜の面が存在する。どちらの側にも約四十人ずつの居住区を設けている。同数で分配することを検討したそうだが、結局アジア系四十一人とその他三十九人の二区に分かれることとなっていた。その方が現在の地球に近い、ということか。居住区に合わせた座席配列であり、野丸の隣は北朝鮮からの女性だった。興味を持って顔を見たが、ツンと向うを向かれてしまった。
離陸の時にちょっと重力がかかるのを数秒我慢するだけで、大気圏は突破できてしまう。宇宙空間に出てからの注意事項は多いが、大事なことはたった一つ。自分の排せつ物が船内を漂うことは、絶対に避けたい。離陸前の最終確認でもそのことは繰り返し注意された。頭の中で復唱する。必ず袋に排泄物を入れ、直ちに密閉する。そしてしかるべき場所に捨てる。これだけは守らねばならない。随分速くなったとはいえ、二か月にも渡る長旅である。その間に八十人の顔や性格は徐々に知ることとなった。
人工惑星には地球のような大気圏がないので、球体の表面を膜のようなもので覆っている。この一部が太陽光パネルになっており、人工惑星内のエネルギーは基本的にこれで賄う。太陽に向かわない側では原則として、活動を自粛するように求められている。その膜の中は強力な磁力と陰圧がかかっているが、宇宙船が入るときだけ北極に当たるエリアの膜が解放される。ちょうど運河の閘門 のように圧を変えていく仕組みだ。四つの段階を経て、ようやく人工惑星の地表に降り立つことができる。宇宙船の素材は当然、磁力、圧力そして熱に強いが、それでも地球との間を一往復するだけで大規模な修繕が必要となる。そのため地球からの船は一か月ほど停泊するのが常だった。
「ノア」は中心に強力な磁性体を持つ球体である。本物の惑星と違い内部に熱を持たない。地球と火星との間の軌道を公転するが、公転速度は地球と等しくなるように計算されている。そして自転も地球の二十四時間に合わせることとなった。地軸のズレを作らなかったこともあり、「ノア」には季節の変化がほとんどない。天候は安定しており、土地を潤わせるための人工雨は事前の通告通りに降る。夜にまとめて降らせるので、ホモ・サピエンスたちに雨具は必要ない。風は心地よい。昼夜に関しては、太陽に向いているところが昼、そうでないところが夜である。昼夜の時間配分はほぼ一定である。
地球から移すべき動植物の種類はそれほど多くない。一部食用と観賞用があればよく、必要な物質はほぼ全て宇宙空間からの採取で人工的に維持していた。「ノア」には自然災害もなく、天敵もいない。ホモ・サピエンスに最適な環境であり、不都合がないため生物学的な進化は完全に止まった。しかしいわゆる退化も避けたい。現状の機能を維持するため、移住者には一定の運動が強制されることになっていた。
離陸の時にちょっと重力がかかるのを数秒我慢するだけで、大気圏は突破できてしまう。宇宙空間に出てからの注意事項は多いが、大事なことはたった一つ。自分の排せつ物が船内を漂うことは、絶対に避けたい。離陸前の最終確認でもそのことは繰り返し注意された。頭の中で復唱する。必ず袋に排泄物を入れ、直ちに密閉する。そしてしかるべき場所に捨てる。これだけは守らねばならない。随分速くなったとはいえ、二か月にも渡る長旅である。その間に八十人の顔や性格は徐々に知ることとなった。
人工惑星には地球のような大気圏がないので、球体の表面を膜のようなもので覆っている。この一部が太陽光パネルになっており、人工惑星内のエネルギーは基本的にこれで賄う。太陽に向かわない側では原則として、活動を自粛するように求められている。その膜の中は強力な磁力と陰圧がかかっているが、宇宙船が入るときだけ北極に当たるエリアの膜が解放される。ちょうど運河の
「ノア」は中心に強力な磁性体を持つ球体である。本物の惑星と違い内部に熱を持たない。地球と火星との間の軌道を公転するが、公転速度は地球と等しくなるように計算されている。そして自転も地球の二十四時間に合わせることとなった。地軸のズレを作らなかったこともあり、「ノア」には季節の変化がほとんどない。天候は安定しており、土地を潤わせるための人工雨は事前の通告通りに降る。夜にまとめて降らせるので、ホモ・サピエンスたちに雨具は必要ない。風は心地よい。昼夜に関しては、太陽に向いているところが昼、そうでないところが夜である。昼夜の時間配分はほぼ一定である。
地球から移すべき動植物の種類はそれほど多くない。一部食用と観賞用があればよく、必要な物質はほぼ全て宇宙空間からの採取で人工的に維持していた。「ノア」には自然災害もなく、天敵もいない。ホモ・サピエンスに最適な環境であり、不都合がないため生物学的な進化は完全に止まった。しかしいわゆる退化も避けたい。現状の機能を維持するため、移住者には一定の運動が強制されることになっていた。