第37話 アリサのママの過去

文字数 6,440文字

第10章 推理開始


部屋に戻ると、ママも既に聞き込みから戻っていた。

「お帰り。しかし、大変な事になったわねアリサ。
警察の人が、会場にいた人全員に
外へは出ないで下さいと言っていたわ。
犯人がまだいるかもしれないし
ホテルから逃がさない為にね」

「うん。でね、さっき凄く
かっこいい刑事がいたんだよママ。
しかも240円も貰っちゃったんだ! 
アリサの初恋物語は、今始まったの♡」
はしゃぐアリサ。目がキラキラ輝いている。
恋する乙女の目である。

しかし、その後
1000円をケイトのパパから貰った筈なのだが
何故かそれを言わないアリサ。
多分それをを言ってしまうと竜牙が
大した事の無い刑事と思われてしまうから
言えないのであろう。

しかしアリサ・・展示室の事を一切
言っていないのはどうしてなのだ?
あの筋肉達の勇士。
それこそ一番に伝えるべき事ではないのか?
あれだけの大事件を言わずに
竜牙の事を真っ先に言うとは
これが恋の力という事なのだろうか?

ふむ。まああの恐ろしいトラウマを
再び思い出すのは本能的に嫌なのかもしれぬ
何せそれを話したら、アリサ自身も
そこで倒れた事も話す事になるかもしれない
親にそんな惨めな事を言う事は出来なかった。
そういう事にしておこうか。

そして、思い出したかの様にトイレで拾った
紙切れをママに見せる。

「この紙きれのこの上のマークって何かわかる?」

「え? なに?」
少し不安そうな顔をして、紙を受け取りながら
アリサの言葉に引っかかる。

「かっこいい刑事って、竜牙刑事じゃないよね?
冷静に考えて? アリサが結婚できる年齢になったら
あの人おじいさんよ。その上
多分仕事が出来ない人だから、一緒になったら
アリサは相当苦労する事になるわ。
当然別の刑事さんよね?」

「違うよ! 全く。ママは男を見る目ないなー」
ママは悲しそうな目でアリサを見ながら。

「アリサ、あなたはその
男を見る目のないと言ってる母親の娘なのよ・・」

「え? じゃあ、親父はいい男じゃなかったの?」

「アリサ? 何でパパの事を親父って言うの? 
パパ、ママでしょ?
その理論じゃ両親の事を言う時
親父ママって言う事になるのよ? おかしいでしょ?」

「おかしくないもん! 親父は親父なの! 
パパって感じじゃないのよね。背も低いし
きっとアリサがこんなに小さいのは
親父に似たからなのよ」

「もう! 女の子は小さい方がいいのよ。
可愛くていいじゃない?」

「またそれか・・でもアリサは
ママみたいな男に生まれたかったよ?」

「ママは男じゃないわよ!」

「そうじゃなくってママみたいに身長が高い
上で男の子に生まれたかったなって話なの。
刑事になって悪い奴等をバシバシ捕まえたいの。
女の細腕じゃ何かと不便だし」

「あら、刑事って言っても私みたいに
現場入りする人もいれば、頭を使い机の上で
事件を解決する人だっているのよ。
女子でも大丈夫よ。
アリサはどっちかって言うと後者の方よね」

「あのねママ。私では警官になるには
身長が30㎝程足りないのよ」

「そういえばそんな決まりあったわね
私は一切気にならなかったけど」

「それにそれだと何か違うんだよなあ。ねえママ 
親父のどういう所が好きになったの?」

「そういえば、まだその話はしていなかったわね。
そんなに聞きたいの?」

「はいっ!」

「そうね、じゃあ話してあげようかな」
ママは天井を見上げ思い出す。

ホワンホワンホワンホワーン
え? 何だそれはって? 
何度も言いますけれどもわかりません。

「丁度12年前。今と同じ季節。暑い日だったわ。
まだママが17才の時だったかな。
高校生でバイトをしていた時の話よ。
ママのお母さん。アリサのおばあさんはね
仕事の関係上世界各地を飛び回っていたの。 
でも日本に来た時に、気に入って
2年位留まったの。日本の高校に入れて貰って
八郎君とも同じバスケ部で汗を流していたわ。 
丁度夏休み入って間もない頃
母と喧嘩して家を飛び出したの。 
それで、何も持ってきてなくて
住み込みでコンビニで働かせて貰ったの」

ウイーン。ピンポンピンポン。 
コンビニの入り口の開く音と共に
160センチ位で金髪の男が入ってきた。

「やあ、17茶はどこだい?」
店員は二人居たのだが
態々奥のママの方に声をかける男性刑事。

「奥のウォークにあります」

「ハハハッ何か駄洒落みたいだね。
冷蔵庫じゃないんだ」
と言いつつウォークにウォークしながら取りに行く。

「そうですね。確か人が出入りできるくらい
大きい冷蔵庫。みたいな意味があるらしいですよ
実際はウォークインと言うみたいですよ」

「へえ物知りだね。はいこの4本を売ってくれ。
この時期本当に暑くて一本じゃ足りなくてね
僕は刑事なんだが、張り込みが長引きそうだ。
そこで水分が足りなくなると困るので多めに買うよ」

「へえ、刑事さんなんですね?
でも、張り込みといったら
アンパンに牛乳じゃないんですね」

「それは刑事ドラマの見すぎさ。まあ
そんな刑事もいるが、あれじゃ栄養は補えないよ。
僕の場合は、17茶だけで十分さ。四本もあるんだ。
合わせて58茶だよ? 
それさえあれば僕はもう無敵だよ、ガハハハハ」
痛恨の計算ミス! しかし刑事は気づいていない。

ママはちょっと考え。
「あのー17×4って事は、68茶の間違いでは?
そもそも17茶は、幾つあっても成分的には17茶ですよ。
掛けたからといって、成分は増えないと思いますよ」
刑事の計算間違いと17茶を掛け合わせれば
成分が増えていって更に健康になれるという
思い込みを違うと指摘するママ。

 「ハハ・・は・・」
笑いが終息する。

「はい。じゃあ今、袋に詰めますね」
先程まで豪快に笑っていた刑事
口は相変わらず開いたままだが
顔はほんのり青ざめている。 
それを見て、少し笑いを堪えながらも
淡々と仕事をするママ。それに気づいた刑事は

「あ、あのだな、たった今だな、連絡があってだな
動きがあったみたいなんだな。早く詰めてほしいんだな。
急いで! ハリーアップ!! ハリーアップ!!!
早くしないと僕の顔が真っ赤になる。
やだ、赤くなるのやだ! 急いで早く早く」

既に顔だけでなく耳までも真っ赤な刑事が
電話が来た様子もないのに突然おかしな事を言い出す。
その刑事の狼狽ぶりに堪えきれず。

「すいません。わ・・笑います」
と断り。

「あはははは」
屈託無く笑うママ。そして申し訳なさそうな刑事。 
しかし、ママの笑顔に釣られ

「ガ、ガハハハハ参ったなこりゃ」 
と、ヤケッパチである。
コンビニに二人の笑い声が響き渡る・・

「それがパパとの出会いよ。その後
何度かレジでお話している内に仲良くなったわ。
何て言うかね彼ね、全てが可愛いのよ♡
そして、5回目位だったかしら。
パパは真剣な表情で私の前に来たわ。
そしてこう言ったの。

『あー、あなたは重大な罪を犯してしまった。
私が計算が出来ないと言う秘密を知ってしまった。
よって逮捕する。心の牢獄に永久にね。これは逮捕状だ』
って婚姻届を持って来たの。きゃっ(///照///)」
ママが少女の様に顔を赤らめて言う、その刹那。 

「ぎゃああああああああ」
アリサが蕁麻疹(じんましん)を顔面に出しつつ叫んだ。
これまでもママの少女マンガのヒロインの様に
キラキラした瞳を見る度に
蕁麻疹が吹き出るのを何とか押さえ聞いてきたが
ここで限界に達した様だ。

「親父・・ここであの心の牢獄か、点と点が繋がったわ
親父・・・臭いよ、臭すぎる!!
例えるなら世界各地の臭いう○こを混ぜ合わせて 
3週間発酵させた位臭いよー」
酷い言われ様である。

「ちょっと! 
これから良い所なのに変な事言わないでよ。アリサ! 
これ位のサプライズは、誰だって隠れてやってるの!
まだまだ子供ね。体こそ小さくとも心は大人が
あなたの座右の銘でしょ? もっと大人になりなさい」

「十分大人よ。それにしてもあいつ
よくあんな赤っ恥かいた後なのに
ママに会いに来れたわね」

「それは思ったわ。メンタル強いなーって
でもアリサ、パパをあいつ呼ばわりしちゃ駄目よ
次言ったら、心の牢獄に閉じ込めるわよ!」

「何か迫力あるわねその言葉・・
いいのよあんなの。私だったら
二度とママのいるコンビニだけは使えないわ」
 
「でもねアリサ。これ位の事、企画出来なければ
人生なんてつまらないわ。
ただ毎日を惰性で生きていて何が楽しいの?
せめて人生の一大イベント位
何から何までオリジナルで行きたいって考えは
誰だってあるでしょ?

例えば結婚式にゴンドラで登場する芸人が居たり
結婚式で歌を歌って滑った芸人も居たわ。
でも彼らも本気だったのよ。だから涙を誘ったのよ。
対照的にこういう人だって居るわ
ウエディングプランナーさんに全て任せっきりで
結婚式をこなして来ました。っていう奴! 
こう言う奴一番嫌いなのよ。
本当こういう人は心の牢獄に閉じ込めたくなるわ
でもパパは違ったわ!
私一人の為に、誰もやらない事を一人で必死に考え
もしかしたら私に笑われるんじゃないかって悩んだ末
それでも私に届けてくれたのよ!! 
だって彼、逮捕状(婚姻届け)を見せている時
それを持った手は震えていて、涙目だったもの!!!
身長差15センチの大女に笑われるかもしれないって
いう恐怖。生半可じゃなかった筈よ!!!! 
それでもその恐怖を乗り越え、私に思いを届けてくれた。
そこまで私を愛してくれた。
その気持ちが届いたから受け入れたのよ。
5回程度で、結婚の申し込みは少し早いとは
思ったけど・・会った回数なんて関係ない!
そこん所肝に銘じておきなさい。
少なくとも私は嬉しかった。心が温かくなった。
優しい気持ちになれた。ただ普通に結婚してくれ
指輪の入った入れ物パカッじゃ 
アリサはこの世に生まれていなかったわ。
産んだ私が断言する。 
アリサはパパの企画構成力の高さに感謝しなさい!!
それにあんた松谷修造のファンじゃなかったっけ?
このパパの熱意を感じ取れないなんて
あんたは真の松谷修造のファンじゃないわ
あんたが本当の松修ファンなら
ママの言葉から間接的でも伝わるパパの熱意を
容易く読み取り感じ取れた筈。
それが出来なかったあんたはひょっとして
にわかなんじゃない? もっと熱くなりなさい!!!!
そんなパパの気持ちも汲み取れず
臭いの一言で片付けて大人ぶっているアリサ。
あんたはまだまだまだまだまだまだまだま子供ね!!
しかも、言うに事欠いてう○こなんて
お下品な言葉なんか使って・・
あんたも一応乙女なのだから
言葉遣いに気を付けなさい
後、リアクションがオーバー過ぎるわ。
リアクション芸人にでもなるつもりなの?
刑事になるのが夢なんじゃないの? 
まあアリサは絶対無理ね。この腐れう○こが!!」

相当怒っているようだ。無理もない。
プロポーズの美しい思い出を排泄物で汚されたのだから。
クールに、そして長い付き合いで、アリサの
嫌がるであろう言葉を網羅しているので
それら全てを重ねて反論する。そしてトドメは
目には目を、歯に歯はを
そして、う○こにはう○こで締める。

「グスッ、うえーん。
ママも大人気ないよー。可愛い一人娘を
腐れう○こなんて言い方はないよー。
しかも、まだまだまだまだっていっぱい
言ってた所さ、最後【ま】で終わっていたよ
後で訂正しろって
コメント付くかも知れないじゃん!
コメント稼ぎが目的なの? 露骨だよー。
誤字脱字は無くて当たり前。
分かっていてそのままにするなんて邪道だよー。
畜生、畜生ォォ! 親父のせいで
清楚なアリサのイメージが崩れた。
う○こなんて、した事も、見た事もないのに」
涙目で滅茶苦茶な事を言うアリサ。
既に巻き○ソや一本〇そなどの言葉を
何回も言っているアリサに、清楚のイメージは無い。

ママは、言いたい事は沢山あったが
アリサの言葉を完全に無視して進める。
これがアリサに一番効く攻撃と分かっているのだ。

「それでね、パパね

「これは手錠だっ」

て言って手作りの鎖で繋がれた
2つの指輪の内の片側を
私の左の薬指に嵌めてくれたの。
そして、もう片方を自分の薬指に・・嵌める時
ガチャって自分で効果音を付け足していたわ。
かわいいでしょ?」

ここでママの両目が潤んでくる。

「頼む・・もう止めてくれ・・」
オチも大体予想が付き
その先は聞きたくなくなったアリサは、懇願する。

「ここで止まる訳ないでしょ!!
こんな所で止めたら
私自体が心の牢獄に閉じ込められるわ」

「汎用性高いのねその言葉・・何にでも使えて
羨ましい・・」

「でね、私、二つ返事で
ぐすっ・・不束者ですが宜しくお願いします』
って涙目で、顔くしゃくしゃにして
言っちゃったのよ(///照///)
もうちょっと焦らした方が良かったかもしれないけどね
あの時は若かったから・・」

「何即答してるのよ? 
それに逃げなかったの? 逮捕されちゃうんだよ?
前科者になるんだよ? 高校生だったんでしょ?
これから就職するのに、不利になるんだよ?
全力で逃げなきゃ駄目だよ!!」

「それは、パパの心の牢獄に私の心の牢獄が
閉じ込められたからに決まっているでしょ?」
・・こやつ何を言っておるのだ?
恋は盲目と言うが、もはや末期ではないか・・

「心の牢獄に心の牢獄が閉じ込められる? 
意味が分からないわ・・お願い詳しく教えてよ」

「秘密って言っているでしょ! 
それに彼、背が低くて頭頂部が
少し薄くなっていたのが見えたの
そう、私に禿がばれる覚悟でも告白してくれたのよ
その勇気素敵じゃない?
これを受けなければ絶対駄目って気がした。
アリサも分かる時が来るから・・」
全く納得のいく答えが帰ってこず不満なアリサ。
白黒はっきりさせないと気が済まない性格なのである。

「でも、12年前もハゲとったのかあいつ
若ハゲの上にチビとか・・悲しすぎる・・
確かによく考えたら
逮捕状も婚姻届も似た様な物よね。
相手に拘束されるには変わらない訳だし
それが家か留置所かの違いよね」
シビアな事を言うアリサ。

「まあ、結婚のイメージは人それぞれよね。
で、1ヵ月後には結婚したわ。
彼は、私の7つ上。でも彼、私の事を
年上だと思っていたらしいの。失礼しちゃうわね。
まあ身長が大分違ったしそう思われても仕方が無いわ。
でもねアリサ。恋愛には身長なんて
全く関係ないなって思ったわ。
そしてこの事は
一応家族にも言わないといけないなって思って
久しぶりに家に戻ったの。そして謝って
パパを母親に紹介したわ。そしたら
17歳で、しかも刑事なんて危ない仕事に就いてる人を
旦那にするのは止めた方が良いって言ってきたけど
その言葉を跳ね退け一緒になったの。
それでね、私も彼の話を聞いている内に
彼と同じ職業に自分もなりたいって思ったの。
アリサを身篭っている間も
パパに勉強を見て貰いながら採用試験を受け続け
4年後に警察官になったわ。
パパの教え方、テキスト選びが良かったのかもね。
そして、交番勤務を経て25で刑事になった訳。
パパには感謝しているわ。だから私は
自分では男を見る目はあるって思っているよ」

ンーワホンワホンワホンワホ
え? なんだそれはって? 再三再四言うけれども
分からないのです・・
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