第30話 ミルキーウェイ⑤
文字数 898文字
さて、どうしよう。
最後に兄に会った時のことを、
未読だった部活仲間からのLINEを、目だけで追いながら、頭はそのことばかり考えた。
正語にも話せることと、話せないことがある。
だが嘘は、つきたくない。
ということは、黙っているしかないか……。
秀一はスマホを閉じて、階段を上がった。
とにかく正語に会った時にまた考えよう。
今は
「秀ちゃん!」
階段を途中まで上がった所で、下から声をかけられた。
野々花は大きなクーラーボックスを抱えながら、公民館入口の大扉を肩で押さえている。
秀一は急いで階段を降りて、野々花からクーラーボックスを受け取った。
「秀ちゃん、おかえり。また大きくなったね」
中に入った野々花はハンカチを取り出した。「今日も暑いわね」と軽く額を拭う。
野々花からは、香水の香りに混じって、微かにタバコの匂いがした。
「それ、差し入れのアイスなの。二階に運ぶの手伝ってくれる?」
秀一は承知した。野々花の後に従い、階段を上がった。
「お昼、うちに来てくれるんでしょ?」と野々花が振り返り、笑いかけてきた。
「……お父さんもいるの?」
「由美子さんが落ち着かないかと思って、帰ってもらったわ。由美子さん達が来ていること、智和さんには話していないのよ」
「……お父さんが、迷惑かけているみたいで、ごめんなさい」
由美子はまた振り返り、笑った。
「秀ちゃんは、そんなこと気にしなくっていいのよ」
そう言われても、やはり申し訳ない。
(……お父さんもバカだなあ……こんなキレイな人がお父さんなんか相手にするわけないのに……)
それにしても
秀一は情けなかった。
みずほは狭い。
人の口に戸も立てられない。
兄の一輝が真理子と由美子を二股にかけていた事や、本家の高太郎がコータの父親の前妻と不倫関係だった話などは、嫌でも秀一の耳に入ってくる。
野々花の後ろを歩きながら、秀一は思う。
自分は決して女性に対して不誠実な真似はするまいと。