嵐のあとに 2
文字数 2,241文字
「来やがったな、ジジイ」
その顔を見た途端 、才 が不機嫌になる。彼自身も予測はしていたことだ。祖父は『アパート』の創設者であり、最高責任者なのだから。それが問題なのではない。
「ずいぶんと俺らをコケにしてくれたじゃねーか」
「コケにしたわけではないぞ。語らなかっただけだ」
「『重要度の低いアパート』ね……そこを守らせておきながら、何一つ教えてくれねーってのはどういうことだよ!」
「ほぅ、それでお前は『守れた』とでも言うのか?」
「何だと!?」
「『風変わりな水槽 』!」
突如 、源二 と才の顔の周りに、透明な光の箱が出現した。
口論は全く聞こえなくなり、二人はただ魚のように口をぱくぱくとさせている。言葉は色とりどりの光の泡へと変わり、箱の中を上っていった。
「おもしろーい! キレイ!」
「いいでしょう? 二人が喧嘩 したら使おうと思って、ひそかに開発しておいたの」
「何という才能のムダづかい……」
「うわはははは!」
しかし、静かになったはずの部屋へと響く高笑い。結界を自力で解いた源二だった。
「中々良い結界だが、私にこの程度の術が通用すると思ったのかね!」
「いえ、特に思ってませんけれど」
あっさりと認められ、彼は妙に残念そうな顔をする。
マリーは扇をひと振りし、才の術も解くと続けた。
「冷静な状態で、ちゃんとご説明いただきたいのは、わたしもですわ」
「ま、知る権利はあるだろうな。私も一応、そのつもりで来てはいるがね」
「あの……」
向かい側へと腰を下ろした源二に、祥太郎 はおずおずと声をかける。
「マスターは、一緒じゃないんですか?」
「何だって?」
「そうですわ、マスターだって当事者ですし。今日は姿をお見かけしていないので」
「もしかして、何か処分があったんじゃ……?」
驚いたような顔。――それから起こる大笑い。皆が呆気 にとられる中、源二は手を叩いて喜ぶ。
「これは……愉快 愉快 。確かに、処罰はあったな」
「何なんだよジジイ、処罰って」
「殴 られた」
「殴られた? 誰に?」
「私に。一発殴るくらいの権利はある。だがまあ、それで終 いだ」
「あっ!」
真っ先に気づいたのは、それまで静かに考え込んでいた理沙 。彼女の指さした先には、ずっと黙 って立っている男の姿がある。
あの大きな物音と、腫 れたように赤くなった頬 。
「マスター!?」
驚く一同に、源二はまた腹を抱えて笑った。
「お前、説明してなかったのか」
「いや、私自身すっかり忘れていて……面目 ない」
「何でマスター……若返ってるんですか?」
少し迷ってから発した祥太郎の言葉が、一番現状をよく表していると思われた。
別人へと変わっているわけではない。言われてみれば、確かによく知るマスターの面影 がある。だからこそ、理沙もどこかで見たことがあるという気がしたのだろう。
「あーっ!」
本人が口を開く前に、今度は何故か才が大きな声をあげる。
「あれだな! パワーアップしたって!遠子 さんにチューされて!」
「いやいや、あれはだね……」
「遠子さんのエキスを吸い取ったんだな、このスケベジジイ!」
「『風変わりな水槽 』!」
マリーが顔を少し赤らめながら暴走を止める。才の抗議は小さな水槽の中で光の泡となり、静かに立ち上った。
「マリー君、感謝する。……とにかくだね、今まで彼女の存在を隠すために使っていたエネルギーを使わなくて良くなったから、というのが理由だ」
「それで、若返っちゃうんですか?」
「魔力、気 ……様々な呼ばれ方をするが、結局は生命エネルギーだからね」
「若々しくありたいがために力を使う者もいるが、私達クラスになると、自然と若返ってしまうというわけさ、伊村 君」
ドヤる源二の実年齢は知らないものの、才の祖父という事を考えると、確かに若々しすぎる。しかし、マスターの場合はそれ以上の若返り方だ。
「なるほど……でも、逆に言えば、あんなになっちゃうまで力を使い続けてたってことですよね?」
「いやいや祥太郎君、あんなになっちゃうって酷 くないか」
「……それも当然なのかも。だって、あの鳴原君 の存在を、ずっと隠し通してきたんだから」
挟まれたマリーの言葉に、祥太郎は目をパチパチとさせる。
「そんなに凄いの?」
「少なくとも伝説級の魔女だもの。『最凶 の魔女フェス』だったかしら? それにも出てたんでしょう?」
「う……まあ、そうだけど。あれゲームだし」
「ゲームの題材になるほど知名度があるってことじゃない。しかも閉じ込めて封印してたんじゃないのよ? 一緒に何気なく生活してたんだから」
「でも、遠子さんは協力的だったんですよね? 遠子さん自身が力を抑えれば、それで十分だったんじゃないかなぁ」
「……ああ、彼女はとても協力的だったよ」
理沙の疑問に、マスターはうなずく。見た目や声にまだ違和感はあるが、仕草も口調も、いつもの彼そのものだ。
「だがね、彼女が言ったんだ。――『私を捕 えて欲しい』って」
その顔を見た
「ずいぶんと俺らをコケにしてくれたじゃねーか」
「コケにしたわけではないぞ。語らなかっただけだ」
「『重要度の低いアパート』ね……そこを守らせておきながら、何一つ教えてくれねーってのはどういうことだよ!」
「ほぅ、それでお前は『守れた』とでも言うのか?」
「何だと!?」
「『
口論は全く聞こえなくなり、二人はただ魚のように口をぱくぱくとさせている。言葉は色とりどりの光の泡へと変わり、箱の中を上っていった。
「おもしろーい! キレイ!」
「いいでしょう? 二人が
「何という才能のムダづかい……」
「うわはははは!」
しかし、静かになったはずの部屋へと響く高笑い。結界を自力で解いた源二だった。
「中々良い結界だが、私にこの程度の術が通用すると思ったのかね!」
「いえ、特に思ってませんけれど」
あっさりと認められ、彼は妙に残念そうな顔をする。
マリーは扇をひと振りし、才の術も解くと続けた。
「冷静な状態で、ちゃんとご説明いただきたいのは、わたしもですわ」
「ま、知る権利はあるだろうな。私も一応、そのつもりで来てはいるがね」
「あの……」
向かい側へと腰を下ろした源二に、
「マスターは、一緒じゃないんですか?」
「何だって?」
「そうですわ、マスターだって当事者ですし。今日は姿をお見かけしていないので」
「もしかして、何か処分があったんじゃ……?」
驚いたような顔。――それから起こる大笑い。皆が
「これは……
「何なんだよジジイ、処罰って」
「
「殴られた? 誰に?」
「私に。一発殴るくらいの権利はある。だがまあ、それで
「あっ!」
真っ先に気づいたのは、それまで静かに考え込んでいた
あの大きな物音と、
「マスター!?」
驚く一同に、源二はまた腹を抱えて笑った。
「お前、説明してなかったのか」
「いや、私自身すっかり忘れていて……
「何でマスター……若返ってるんですか?」
少し迷ってから発した祥太郎の言葉が、一番現状をよく表していると思われた。
別人へと変わっているわけではない。言われてみれば、確かによく知るマスターの
「あーっ!」
本人が口を開く前に、今度は何故か才が大きな声をあげる。
「あれだな! パワーアップしたって!
「いやいや、あれはだね……」
「遠子さんのエキスを吸い取ったんだな、このスケベジジイ!」
「『
マリーが顔を少し赤らめながら暴走を止める。才の抗議は小さな水槽の中で光の泡となり、静かに立ち上った。
「マリー君、感謝する。……とにかくだね、今まで彼女の存在を隠すために使っていたエネルギーを使わなくて良くなったから、というのが理由だ」
「それで、若返っちゃうんですか?」
「魔力、
「若々しくありたいがために力を使う者もいるが、私達クラスになると、自然と若返ってしまうというわけさ、
ドヤる源二の実年齢は知らないものの、才の祖父という事を考えると、確かに若々しすぎる。しかし、マスターの場合はそれ以上の若返り方だ。
「なるほど……でも、逆に言えば、あんなになっちゃうまで力を使い続けてたってことですよね?」
「いやいや祥太郎君、あんなになっちゃうって
「……それも当然なのかも。だって、あの
挟まれたマリーの言葉に、祥太郎は目をパチパチとさせる。
「そんなに凄いの?」
「少なくとも伝説級の魔女だもの。『
「う……まあ、そうだけど。あれゲームだし」
「ゲームの題材になるほど知名度があるってことじゃない。しかも閉じ込めて封印してたんじゃないのよ? 一緒に何気なく生活してたんだから」
「でも、遠子さんは協力的だったんですよね? 遠子さん自身が力を抑えれば、それで十分だったんじゃないかなぁ」
「……ああ、彼女はとても協力的だったよ」
理沙の疑問に、マスターはうなずく。見た目や声にまだ違和感はあるが、仕草も口調も、いつもの彼そのものだ。
「だがね、彼女が言ったんだ。――『私を