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 桶狭間で信長の鉄包隊が有名になると、獣の名は密かに全国に広まった。
「信長はおそろしい獣を飼っている。ありゃ、人間でねえ。引けば鉄の玉が飛んでくる。近づけば長刀に食いつかれる。隙を見て飛び込めば、おそろしい力で押し殺される。そいつを身軽な猿が操っているらしい。」
 恐怖で幻でも見たのだろうと笑われるだけで、決して歴史の表舞台に出る事はなかった彼らだが、諸国の足軽たちのあいだでは、命あってのものだね、獣が出たらとにかく逃げろと噂されていた。
 所詮足軽は農民なのだ。戦って死ぬなんて美学は持ち合わせてはいない。手柄を立て、報奨金をもらったところで、年貢が軽くなるわけでも無いし、武士になれるわけでもなかった。

 もっとも、これは秀吉の作戦であった。農民出の彼は他の武士達と違い、少ない労力で戦わずして勝つことが一番と考えていた。戦で素人の足軽たちは大した戦力にはならない。かれらの主な仕事は出城を築いたり、食料を運んだりといったことだった。だが、彼らがいなくなると、戦うことしか知らない武士たちは食事さえままならなくなるのだ。公家の率いる隊ではなおさらであった。なので、秀吉は足軽など下っ端の兵をとても大切にしていた。
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登場人物紹介

猪熊 四五六(しごろく)

組討の使い手

十一の父

二三(ふみ)

剣術の使い手

十一の母

長い細身の背負い刀、長柄草刈刃を使う

十一(じゅういち)

鉄砲使い

オリジナル改造の種子島を二丁持つ

八(やつ)

見世物小屋の芸人

吹き矢芸

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