「ヴォツェック」 ベルク

文字数 1,229文字

<タイトル>

歌劇「ヴォツェック」

<作曲者>

アルバン・ベルク

<おすすめ盤>

カール・ベーム(指揮)

ベルリン・ドイツ歌劇場管弦楽団ほか

<解説>

 オーストリア出身の作曲家アルバン・ベルク(1885-1935)が1921年に完成させたオペラです。

 師匠であるアルノルト・シェーンベルクからの影響を受け、調性をかぎりなく排除した「無調」と呼ばれる作曲技法で書かれています。

 ざっくりと言えば、これをさらにふくらませたのが、いわゆる「十二音技法」です。

 初演は1925年、名指揮者カルロス・クライバーの父親であり、やはり当代きってのマエストロ、エーリヒ・クライバーの手によって行われました。

 リハーサルの回数は実に137回におよんだと伝えられています。

 いまでこそ当たり前に演奏される演目ですが、当時はそれほどに難しかったのですね。

 台本はビュヒナーの戯曲「ヴォイツェク」により、19世紀末から20世紀初頭にかけての、退廃とした街の光景が描写されます。

 貧しい一兵卒の主人公ヴォツェックは、つきあっているマリーと結婚をすることすらできず、自分の子どもに洗礼を受けさせることもかなっていません。

 マリーはほかの男のところへ行ってしまったり、さまざまな不条理・理不尽が重なって、ヴォツェックはどんどん精神を蝕まれていくという筋立てになります。

 そして最後には、子どもだけが残される……

 おそろしいまでの心理描写であり、音楽もまたこわい雰囲気です。

 実際にというか、現代におけるホラー音楽の起源はこの曲であるとも言われています。

 同時代の作曲家で神童と呼ばれたコルンゴルトは、のちにアメリカへと亡命し、映画音楽の創始者のひとりとなりました。

 アメリカ映画音楽と言えばこの人というイメージを持つジョン・ウィリアムズも、コルンゴルトらの系統を受け継いでいます。

 コルンゴルトはワーグナーやリヒャルト・シュトラウスといった西洋音楽のエッセンスを、エンターテインメントに落とし込んだのですね。

 ベルクもまた、後継者たちに影響を与えたひとりというわけです。

 ヒッチコックなどが使っておなじみの不協和音も、この作品の中で顔を出します。

 こうして音楽の歴史が続いてきているというのは、とても感慨深いものがあります。

 脱線しまくった感じがしますが、慣れると案外ハマる音ですので、歌詞がわからなくてもけっこう楽しめます。

 おすすめは当時を知る大御所ベームの名録音です。

 なんといってもゲアハルト・シュトルツェというテノールが最高で、自分はこの人の音源ばかり一時期あさっていたんです。

 若き日の名バリトン、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウも出演していますし、夭折の天才テノール、フリッツ・ヴンダーリヒもいたりして、まあよだれが出ます。

 長くなりそうなのでこの辺にしておきますが、涼を取りたいときなどにちょうどいいかもしれません。

 夜にかけるとトイレに行けなくなる可能性があるので、念のため。
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