第5話 夜の見張り

文字数 1,511文字

 二回目の遺跡の夜。小さな頃の夢を見ていたランツは、夜中遅くにローディに起こされた。見張りの当番の時間のようだ。体をほぐし、頭が少しはすっきりしてきた頃には、夢の内容はもう思い出せなくなっていた。
 ローディは次にルカを起こそうとしていたが、なかなか目を覚まさなかった。少し躊躇(ためら)いながらも、少女の体をゆさゆさと揺すっている。
 ルカと二人で見張りをすることになったのは、単にくじ引きの結果だ。あまり気が進まないと言えば進まないが、まあ女性陣二人がペアにならなくてよかったと思う。
「ごめん、起こしてもらっていい?」
 ローディが間の抜けた声で言った。ランツはちらりと視線を向ける。ルカはまだ寝ているようだ。
「ああ」
「よろしく」
 大欠伸(あくび)を漏らしながらローディが言った。普段なら、女の子を起こす役なんて喜んでやるのに、よっぽど眠かったのだろうか。
「ルカ」
 部屋の端で、壁の方を向いて丸くなっている少女の体を、ローディの真似をして大きく揺する。すると、
「んん……」
 もぞもぞと動き出すルカ。起きるのかと思ったが、体の向きを変えただけだった。今度はこっちを向くと、また丸くなる。
 小さく口を開いたその顔は、昼間よりも幼く見えた。少女の無防備な寝顔を目にして、ローディの「でもかわいいデショ?」という台詞が頭に浮かぶ。
 不意に、ルカが目を開いた。睨むような視線を向けられ、慌てて顔を背ける。
「……見張りの時間だぞ」
「そう」
 ぶっきらぼうにそう答えると、ルカはのろのろと体を起こした。ランツは元いた場所に戻った。
 しばし、無言の時間が続く。夜の見張りなんて、基本的には暇なものだ。お喋りでもしなければ、本当に何もすることがない。昨日はローディとペアだったようだが、何か話したのだろうか。
 なんでアリエルを嫌ってるんだ。そう尋ねようとして、やめた。
 ランツは諦めて見張りに専念した。

 地下で一夜を明かした四人は、昼までは何とか粘って探索を続けた。が、さすがに水も無いのにこれ以上長居するわけにもいかない。
「残念だな」
「全くだね」
 帰り道の途中でランツがぼやくと、ローディも肩をすくめて返した。だがまあ、遺跡探索なんてこんなものだ。稼ぎがゼロだだなんて、珍しくもなんともない。その代わり、一つの聖導具で億万長者になれることもある。
 それに、今回は誰も見つけていない――恐らくは――隠し通路という、お宝への重要な足掛かりを発見できた。次に期待できる。
「帰る途中で何だけど、またここに来ないかい? 僕としては、このメンバーで挑戦したいんだよね」
「明日すぐに?」
「いやいや」
 困ったように言うルカに、ローディは笑った。
「明日はさすがにみんな休みたいだろ?」
「俺はすぐでもいいぞ」
 ランツの言葉に、彼は肩をすくめて言った。
「君の意見は置いといて。明日はゆっくり休んで、明後日出発にしようと思うんだけど、どうかな?」
「はい!」
 元気よく頷くアリエルに、ローディは笑みを浮かべて返した。ランツは何も答えない。わざわざ何も言わなくとも、彼の意見に従うことは分かっているからだ。
「……」
 残り一人の少女は、ずいぶん迷っているようだった。アリエルが、様子を(うかが)うかのようにちらちらと顔を見ていた。
「……あとで答えてもいいかしら?」
「もちろん。でも、明日の夕方までには教えて欲しいな」
「わかったわ」
 ルカは小さく頷いた。その返事に、ランツは少し驚いた。お断りだと言われるかと思ったのだ。
「何?」
「いや」
 横目で睨まれ、ランツはゆるく首を振った。
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