「異」

文字数 576文字

 私は最近、少年と妙齢の女性しかいない世界を夢想します。

 この世界において私は異です。少年でも妙齢の女性でもないからです。理不尽な暴力と差別と偏見を浴びて、精神は痩せ細り、自律神経は捻り切れて、最後にはガスオーブンに頭を突っ込んで死ぬことになります。シルヴィア・プラスのように。私は。

 しかし、それで良いのです。幸せなのです。だって、私が生きてるこの世界は汚いものだらけです。皮膚、汗、匂い、人間、男性、髭、垢、肩、精液……なぜ私の目がボトボト腐り落ちてこないのか不思議です。もう、美しいものだけを見ていたいです。美しいものに殺されるってこんな幸せなことないと思いませんか。

 藍子さんは云っていました。「少女とおじさんしかいない世界に行きたい」と。

 藍子さんは一瞬だけ少女に見える時があります。ほんの一瞬だけ。私はその一瞬を包摂する藍子さんが好きです。少女であり続けて欲しいわけではありません。一瞬が儚いわけでもありません。希くばその少女、一回だけの少女を見失わないで欲しい。それは紛れもないあなた。一度いなくなったらもう二度と見つかりません。失踪に予兆めいたものなんて何もないのですから。

 私の少年はもういません。今どこで何をしているかまったく見当もつきません。

 藍子さんに私の少年は見えますか。

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