▲焔の円卓の騎士

文字数 9,394文字

「なるほどな。ヱクスカリバーによる光のシャフトか! それでも各ピラミッドは、セクリターツ名うてのマギアデプトが固めているかもしれん。とすれば小ピラミッドとはいえ容易ではない。そこをどう占拠するか。やっぱり陽動しかない」
 光のシャフトと闇のシャフトが対決することになる。
「ではキメラを制御している首輪のコントロールを、ハッキングしたらどうだ?」
ライダーの提案に、インディックが興味を持つ。
 キメラの奴隷解放の鍵となる石はその一つ、ヱメラルドである。つまりそれは、ヱメラリーダの石である。
「その混乱に、シャフトは一旦、戒厳令魔方陣を解除せざるをえなくなる。彼らに武器を与え、共に闘ってもらう」
「なるほど、できそうですね」
 インディックがただちに賛同の意を表する。
「まずフォーメーション・ダンスでマカバフィールドを造って、戒厳令内を突破し、ヱメラルドステーション内へ侵入する。そこで気付かれずにダンスをしてステラクォーツ発電所に光の柱を立て、占拠します。ヱメラルドステーションから、キメラの首輪の制御を解き、マンホールの中へ囚われた王党派の仲間たちを解放させる事で、アクロポリスを大混乱へと導くのです」
「逮捕された王党派の仲間達を救出するのは賛成だが、キメラ達を巻き込む、という事か。しかし彼らを危険にさらすのは……」
「オージン卿は反対か?」
 アルコンが訊く。
「半獣人たちが命の危険にさらされるのは、あまり感心ではないな。アルメルダ皇后の、ブルーマザーのご意向に反する。我々がアクロポリスで活動するために、キメラ達に先兵になってもらうというのでは、今大西洋上で行われているシャフト評議会のラグナロックと何も変わらないではないか」
「などと言いながら、大貴族殿はキメラが思い通りにならない事が気に入らないのではないか」
「またあんた達……」
 ヱメラリーダがあきれる。
「ライダー殿は、ミラージュの反乱を焚きつけた張本人だ。貴公こそ、未だに有翼人たちの反乱を引きずっているのではないか?」
 士師ミラージュ。その横顔は、鳥人にして美しく、激しい混乱のさなかに静的な尊厳を保ち続けていた。どこか達観したようなまなざし。種族の垣根を越えた友情が、ジョシュア・ライダーとミラージュを結んだ。
「いいや、オージン卿、この際彼らにもこの危機を共有してもらおう。今も多くの仲間達が戦場で危険にさらされている。我らアトランティス人だけが、危機に瀕しているのではない。この戦いは、彼らにとっても決して無関係ではない」
 アルコンはライダーの解放案を推した。今現在、海軍の最前線に「兵器」として投入されているキメラは、アトランティス全体で三百万の人口を数える。その昔、ツーオイ石を用いたDNA工学によって生み出された。
 大怪獣が跋扈していたアトランティス初期、人間は獣たちに対抗するために科学技術を発達させた。その時発見されたのがクリスタルに光を収束させる技術、レーザーだ。クリスタルはヴリルや太陽エネルギー、星々の力を蓄積するエネルギー源となった。レーザーは兵器に転用され、対怪獣にも使われた。それと同時にその生理学的な効果に気付いた科学者がいた。
 彼らは、レーザーを使って植物や動物に照射し、新しい種を作り出す研究を行った。季節に関係なく農作物が自由に取れ、続々と新しい作物が作り出された。レーザー及びDNA工学によって開発されたアトランティス時代の作物の代表が、後の世にも重宝されているトウモロコシやバナナである。ポピュラーな作物だが、その歴史は意外と新しい。
 最期の大怪獣討伐作戦で、大量の爆薬が使用され、地殻変動が引き起こされた。ポールシフト(極移動)が起こったのである。その結果、地球に氷河期が襲った。だが、アトランティス人達はレーザー技術で食物を改良する事ができたことによって、何とか氷河期を乗り越えた。このレーザーは人体によい影響を及ぼす事が発見され、治療に役立てられた。同時に動植物のDNA工学利用はさらに進んだ。
 ところがそこから、新しい人体を創造しようという研究が始まった。それを「ホムンクルス計画」という。新生命の誕生である。アトランティス人は神の領域に挑んだ。
 しかし完全な人間を創造するこの計画は失敗に終わった。だが、完全な人間を創造することはできなくても、亜人なら創造することができるはずだった。遺伝子科学者たちはそう考えた。それは人と獣のハイブリット種族を作り出して奴隷とする邪悪な魔改造実験へと移行していった。
 大怪獣時代、人類は怪獣たちの陰に隠れ、おびえ切って生活していた。だから、怪獣たちに対して畏怖の感情を抱いたとしても不思議ではない。それは長くアトランティス人の深層心理に沈殿していった。
そうして誕生したのが半獣半人キメラ、「間の子」だ。それは怪獣に対する畏怖の念が発端であったが、その目的は奴隷を造るためだった。彼らは人造人間として製造されたのである。エジプトの壁画に描かれた獣面人身の神々、人魚やケンタウロスの伝説は、彼らの子孫にあたる生き残りが描かれたものである。
その後、レーザーDNA工学は植物と人間の健康回復のみに限定され、表向きはキメラのような存在を造る事は禁止された。
 キメラ達は当初、完全な奴隷ではなかった。皇帝家とシャフトは長い間、間の子・キメラの扱いについて対立してきた。アトランティスの奴隷階級であり、物・機械と蔑称で呼ばれているキメラが最初に反乱を起こした際、保安省によって鎮圧され、その後シャフトで魔術論争が巻き起こった。シャフト評議会は公会議を開き、神学論争を呈した論議の末に、キメラを人間とは異なる、「魂のない存在」と定義した。現代ではロボットやアンドロイドに心や魂があるかといえば、それは存在しないと考えるのが普通の感覚だが、それに近い。以後、アトランティス社会ではアウトサイダーとして、物・機械と蔑まれていた。彼らはアトランティス人によって、事実上の奴隷として扱われた。その時代が長く続いてきたのである。
 だが、皇帝家および王党派は、キメラたちも確かにヴリルを宿す魂が存在し、その魂は人間よりも純粋であると主張した。キメラという間の子を生み出したアトランティス人は、生命の尊厳を踏みにじっている。ドルイド僧団も同様の見解だった。そして彼らの美しい魂は、アトランティス人によって長い間、深く傷つけられてきた。「機械」は苦しみを感じないどころか、心ある者であるからこそ、虐待によって永年苦しみを抱えて来たのだと訴えた。
 だが、理性のみに特化し、恐ろしく感性が衰えたアトランティス人は、機械たるキメラに同情するという発想に違和感を覚えた。だから「隣人」の苦しみにこれまで気付く事が全くなかった。帝の博愛精神はキメラもまた隣人なのだと語った。アマネセルの母・ブルーマザーと呼ばれた皇后アルメルダは、彼らのあり様に胸を痛め、アトラス十三世の即位と同時に奴隷解放を宣言した。それ以前に起こったキメラの暴動が一つのきっかけとなった。彼らは一旦首輪を外され、解放された。
 加えてアルメルダ皇后は、シャフトのマギやドルイド僧たちの霊力を使って治療を施す場として、「犠牲宮」と「美宮」の建設を計画した。浄化計画だ。「犠牲宮」は獣とのハイブリッドで生まれた「間の子」を人間形へと戻すための浄化の場所であり、DNA工学、音響寺院におけるクリスタルを使った音楽療法、光線療法、食事療法など、ありとあらゆる治療で、彼らの体の付属物の大半を除去する予定になっていた。それはDNA工学を本来の、あるべき常道へと戻す事であり、アトランティス人たちの贖罪行為でもあった。一方「美宮」では人間形となった彼らが舞踏による身体的なリハビリを行うと共に、霊的教育・知的教育を施され、高次の精神的修行を行って、再びワンネスへと導かれる学校となる事が予定されていた。
 だが多くのアトランティス人たちにとって、もはや日常生活に欠かせない便利な「機械」と化したキメラを失うことは、利便性の一つを手放す事に等しい。奴隷解放宣言後も、半獣人・キメラたちは、事実上様々な不当な差別を受けていた。ブルーマザーは名実ともに彼らを解放するため、さらなる手段を講じようとした。だがその対立は、最終的に一体性の法則・ワンネス論者であったアトラス帝とシャフト評議会の決裂、そしてクーデターへとつながっていく。キメラ、間の子の存在は、長い事王党派とシャフトの重大な争点の一つだったのだ。
 クーデターが起こってシャフト独裁になると、彼らは再び首輪に繋がれた。キメラの悪夢は終わらなかった。ブルーマザーの奴隷解放は長くは続かなかった。結局クーデターによってシャフトはその利便性を取り戻した。
 今もなお、最前線に立たされたキメラの奴隷兵たちが爆弾になって次々と死んでいっている。だが、シャフトを代表とするアトランティス人たちは、その戦場の惨状を見聞したとしても何とも思わないのが大部分だった。「機械」や「兵器」が壊れたからとて、胸が痛むことなどなく、機械はまた交換すればよいからだ。彼らの命は単なる消耗品でしかない。マリス自身も奴隷に対して、これまで特別な痛みなど感じた事はない。機械に対して「痛みを感じない」。それがアトランティス人という者たちなのだ。マリスもその一人なのである。
 マリスはふと思った。キメラは異形で、確かに自分と異なっている。だが本当は機械ではない。「命」を宿す者に違いない。そんな事は分かっている。シャフトの学説など、奴隷制度を正統化するための自分たちに都合のいいものでしかない。それが戦場で爆弾として使用されているのだとしたら、無関心でいられる自分たちとは一体何なのだろうか。それは人間としての当り前の感性を失ってしまった事実を示すものではないか。最近、涙を流したことがあっただろうか。涙は、悲しい時ばかり流れるとは限らない。もしアトランティス人達の大部分が、感性をなくしてしまったのだとしたら、それでもまだ「人間」であるといえるのだろうか。それとも、自分たちの方こそが「マシン」なのか。それは、マリスがこれまで考えもしなかった疑問だった。
 だがレジスタンス、その元となる王党派の連中は全く異なっていた。彼らと間近に接していると、彼らにとってキメラは他者ではなく、むろん機械などでもなかった。キメラはれっきとした「同胞」であり、アトランティス人の一員として何とか援けたいと切望していた。かつてアルメルダ皇后が運動を起したように、彼らを解放し、外見的特徴で二度と差別を受けないように肉体改造を施す事は、王党派が太陽神ラーから与えられた使命なのだと自覚していた。ライダーとオージン卿がキメラ解放について真剣にぶつかり合うのも、キメラ達の事を思ってのことだった。
「ライダー殿、貴殿の目的は、最初からキメラ解放だったんじゃないか? 貴殿は、キメラ脱走事件の時に、議長暗殺未遂事件を起こした。それは彼らをかばうためではないのか?」
「あぁ。卿の言う通りだ」
「……奴隷解放を焦れば、彼らに危険が及ぶ。私はその方法について貴殿と意見を異にする」
「オージン卿、それは分かる。しかし我々には最大の敵が立ちはだかっている。それは時間との戦いだ。奴隷解放のタクティスは有効なんだな、インディック」
 対立の気配を感じたアルコンが割って入った。
「はい。アクロポリスの混乱に乗じて他のステラクォーツ発電所も次々に乗っ取り、各メンバーが魔術ダンスを行います。そうすれば姫の言う通り、アクロポリスのサーキットが回転するのではないでしょうか?」
 インディックは、さっそくアクロポリスの再調査を試みる。
「確かにキメラを制御しているコントロール中枢は、アクロポリスの一番外側、つまりサイト3から容易に侵入できます。私はサイト3の出身なので、その弱点をよく知っています。インディックの案は、今のところ一番現実的で有効な方法です」
 マリスがまたインディックの提案に乗った。
「なんだかお前たち二人は、まるで示し合わせたようだな?」
 にやけたアルコンがマリスとインディックの二人を交互に見ている。
「いいでしょう。父がこの剣に託したミッションを、実行に移す時が来ました。侵入したら小ピラミッドにハッキングし、半獣人たちを解放する。そうでなければ、時が来ればアトランティスが沈んでしまいますからね。彼らにも共に闘う理由がある。母も、きっと分かってくれるはずだと思います」
 アマネセル姫の一言で、陽動としてアクロポリスをかく乱する作戦が決定した。本当は彼らを命の危険にさらさせたくなかったが、二十五人のレジスタンス・メンバーにとって、これ以上の作戦を模索する暇はなかった。
「キメラだけじゃない。最終的には真実を明かし、国民全員を立ちあがらせよう。国民はシャフトのやり方に心底納得している訳じゃない。恐怖政治に口をつぐんでいるだけだ。同時に、諸外国にも発表するんだ。それができれば、革命は成功したも同然だ」
 ライダーが勝利を確信したように杯を呷った。その表情をオージン卿がじっと見ている。
 奴隷を解放するには、ハッキングして首輪の爆弾装置を一括するプログラムを書き換えればよかった。それは、ツーオイ石の奪還よりは難しくないだろうと、マリスとインディックは口をそろえて言った。レジスタンスのこの作戦は例のごとくヱメラリーダによって「アクロポリスのスーパー大回転」と命名された。
「……とりあえずアクロポリスを奇襲する方針は決定だな」
 作戦名はともかく、皆、手に杯を持ち立ち上がろうとした。結局、マリス・ヴェスタの処遇はアマネセル預かりとなり、一応認められる事となった。
「ちょっと思い出したことがあるんですが、クーデターのあった夜、流星群が観察されたのを覚えていますか? あの少し前に、僕は光り輝く流星が胸に飛び込んできた夢を見たんです。その流星はずっとハートを照らしている感覚が続きました」
 突然乾杯の前にインディックが妙な告白をした。その告白に、マリスはぎょっとする。だが驚くのはその後だった。ライダー、ヱメラリーダ、オージン卿、そしてアルコンも、同じ夢を見たというのである。
「なんということだ、ここにいる多くのメンバーが同じ夢を見ている。これはどういう事だ?」
この一件はアルコンの独り言に近いつぶやきで終わった。これこそ、姫のいう聖白色同胞団の導きというものか。
「ありがとう、マリス・ヴェスタ。新しく仲間となってくれて。そしてみなさん。これからもこの円卓の様に、先に来た者、後に来る者の区別はありません。ここでは、誰もが忌憚なく意見を言う事ができる。私が王族だからとて、どうかご遠慮はなく。この席につく者は身分や出自に関わりなく対等です。私は中心に立つ決意はできています。でも中心にいる者は絶対ではない。いいえ、誰一人絶対なんかじゃない、その意味では平等です。だからどうぞ忌憚のない意見を聞かせて欲しいのです。情熱党や王党派はかつて大勢力でした。それが一体なぜこうなったのか。情熱党、王党派内もピラミッド社会でした。それがシャフトを頂点とするマギルドの、しいてはアトランティス人の堕落の根源だったのだと思います」
 ヱメラリーダにとってはショックで、きついセリフに聞こえた。
「私達は無意識のうちにこの社会の、ピラミッドの垂直思考に囚われてきたのです。その結果が今日のシャフトのあり様を生んでいったのです。無意識の中に階級意識が宿り、それが腐敗を生んだ。しかしこの円卓のような関係こそが、シャフトの過ちを正すもの。水平的思考です。……陛下の上からの革命もそれを願っていました。シャフトの巨大な権力の腐敗を解体しようとしたのです。でも志半ばで倒れ、情熱党もそれを成す事ができなかった。それは、無意識の中に階級社会を築き、長く我々の心の中に居座らせていたからです。だから敗れたのかもしれません。この円卓を見ていてふとそう思いました」
 シャフトが腐ったのは、黒魔術師フレスヴェルグのせいだけとはいえなかった。一部の悪人だけのせいにすればずいぶん気が楽だろう。この円卓でいえばマリス一人を悪人に仕立て上げさえすれば。しかしシャフト自体が元々自己組織化、即ち組織を維持するための組織に成り下がっていたのが今日の遠因なのである。それはアトランティス社会における周知の事実でもあり、シャフトという名の官僚機構批判はゴシップの種として人口に膾炙していた。
 それがとうとう、アトラス帝の始めた上からの革命に逆らい、クーデターを起こした。黒魔術師に乗っ取られるほどではなくても、元から腐っていた。そこに、黒魔術師に付け込まれる隙があったという感は否めない。ところがそのピラミッド思考は、何万人のファンクラブ組織の構成員を持った情熱党自体にも言えることだった。平等であるべき組織の中で、いつの間にかメンバーはランク付けされていた。ヱメラリーダは、苦虫を噛んだような顔で座りなおした。一人で勝手に酒を一口飲む。盃の酒は苦く、片鱗も酔える気がしない。
「父は、滅亡の危機に瀕したアトランティスを救うメサイアだったのだと、天使長ミカイールはかつて私に言った事があります。でも、そのメサイアはもうおりません。父も母も処刑されました。二人とも大白色同胞団の一員となって、私達を見守っています。兄は無事、エジプトへ逃れる事ができましたが、きっとこの国へは戻ってきません。だから、私達だけです。地上に残る私達がなさねばならぬ務めです」
 アマネセル姫は紅く輝くヱクスカリバーを持つと、立ちあがった。後継者たるアメン皇子は戻ってこない。彼はエジプトで、いつかヱデンを発見するのだろうか。いずれにせよ、一度は天から見捨てられた土地・このアトランティスで、その地に取り残された王党派の残党たちが、今盃を持って席を立ちあがる。
「この国に残されたのは私を含めて、二十五人。でもたとえ少数であっても、いいえ少数であるからこそ、一人ひとり精鋭となる事が出来る。今こそ無名のあなた方がその力を発揮する時が来たのです。精鋭となった一人ひとりの力を結集すれば、この状況を逆転することだって不可能ではない。私には今、こうして円卓を囲む一人ひとりのハートの炎が燃えたぎっているのが見える。焔の円卓が……。その火がこの円卓のように集まって、いつかアトランティスに大きな焔が燃え上がる瞬間が来るでしょう。その時まで、最期の最期まで頑張りましょう!」
 アマネセル姫のあいさつと共に、一同は蜜酒オーズレーリルが注がれた夜光杯を一気に飲み干した。夜光杯はそれ自体が発光している杯である。しかしそれ以外にも不思議な輝きを宿したものがいる。霊視の利くオージンは、アマネセルの傍らに立って、彼女を支えている二人の守護天使の姿を視ていた。左に杖を持った伝説の白魔術師マーリン。右に白い翼を持つ大天使ミカイール。マーリンは主に芸術面、軍神ミカイールは戦いを専門としている。全く対照的な守護天使がアマネセルの左右に立ち、姫を支えていた。彼らはアマネセルを、そして王党派の最後の残党勢力を導く大白色同胞団の一員なのだった。このわずか二十五人の小グループが、天が全てを託したアトランティスの未来を担う最期の希望である事を二人の守護天使の存在が示している。
「我々はシャフト議長を打倒することを誓う。天が落ちて、我々を押しつぶさない限り、我らが誓い破られることなし!」
 これは、ドルイド僧団のゲッシュと呼ばれる誓いだ。ゲッシュを守る戦士は、無敵とされている。
アマネセルはピラミッド社会への批判から、グループ名を「ニーズヘッグ」から「焔の円卓会議」へと改名した。レジスタンス「焔の円卓」は、アマネセル姫を中心としつつも、全てのメンバーが平等に意見を言える場だ。敵対勢力である民主国家ヘラスに近い水平社会の体制こそが、現在の暗黒社会と化したアトランティスの再革命に必要不可欠な要素だった。現アトランティス・シャフトにとっては、それはおそらく真の脅威となるはずである。ここではアトラス帝が復活し、その法が生き残り、アトランティスに再び起こる革命の火種が育ちつつあった。
 アヴァロン島を地震が襲った。
「大地(ガイア)の咆哮か!」
 メンバーらは円卓の下に全員隠れた。とはいえ、この城はびくともせず、ヱメラリーダが不安げに見上げたステンドグラスにも異変はなかった。間もなく止んで、メンバーらが顔を上げると、マリスは言った。
「この地震はヘラスとの戦いに、気象兵器ヴリル・デストロイヤーの使用を開始した証かもしれません。……つまりは」
「つまり?」
「シャフト評議会がクリスタル・リアクターの機能を、一部でも解明した可能性があります。一刻も早く、こちらも作戦を実行しないといけません」
 盛り上がるメンバーの中、立ちあがったマリスは一人勝利を確信している。
 間もなくだ。ここにいる者全員、アクロポリスで待ち受けるカンディヌス様の罠にかかり、一人残らず全滅する運命なのだ。おしまいだ。少数精鋭などと、そんなものこの連中の単なる負け惜しみに違いない。そもそも自分を受け入れた時点で、テロリスト共は確実に滅亡に向かって突っ走っているのだから。
そんな事を考えている内に、突然マリスに立ちくらみが襲った。脳裏に、閃光のようにあるシーンが浮かんでくる。眩い光が天から落ちて来る。何度も何度も。
 あの夜の事。皇帝家の公開処刑が行われた夜に目撃した流星群だ。それで嫌でも思い出す。みんなが見たという夢、まさしくマリス自身も見たのである。マリスにはまだ一つだけ気になる事があった。あの時、流星はちょうど二十五個くらいあったはずである。
 二十五個と二十五人。まさか……これは偶然なのか。その連想に気付いた瞬間、マリスの全身に悪寒が走った。あの流れ星の一つ一つが、この円卓に座すレジスタンス戦士を示している。あの流星群がハイランダー族の古い魔術がもたらした、何がしかの「奇跡現象」だったとしたら。本当にこの者たちは、シャフトを滅ぼす連中なのではないか。いいや、そんなバカな事がある訳ない。今この場で動揺を悟られては駄目だ! ……決して、決してこの連中に自分の動揺を読まれてはならない。
 幸いなことに「円卓」の連中は再革命に陶酔している真っ最中で、一番用心しなければならないテレパスのアマネセル姫の関心さえも彼らと共にある。それでマリスは再び落ち着いて考えた。一体あの光に、どのような意味があったというのか。問題は、もし流星が二十五で合っているとしたら、自分もその不吉な光の数にしっかりカウントされている事だった。流星が飛び込む夢も見た。他ならぬセクリターツの二重スパイである自分がである。一体、どういう事なのか、マリスには理解できなかった。
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