第2話
文字数 1,812文字
私は天使だった。
父や母だけでなく、誰もが私の顔を見て、そう言った。
小学生になった私を母は頻繁に原宿に連れ出した。
母の狙いはスカウトだった。
狙い通り、私はすぐにスカウトされた。そして子役モデルだ。第一の壁、やすやすと突破である。
「すごいねえ、幸子。あんたはやっぱり誰から見ても天使なんだよ」
ニキビ跡の大きく残った肌を、母は何度も私の桃のような頬になすりつけた。
私は我慢して、うれしそうにその愛撫を受け止めた。
演技の練習である。来るべき時のための備え。
そして「来るべき時」はすぐにやってきた。
雑誌の片隅に出てた私の写真に目を止めたオトナがドラマに出てみないかと声をかけてきた。
自分の国に来いと言っているのだ。
そのために母は私を小さなモデル事務所から小さな芸能事務所に移籍させた。
そうして、私と母は喜んでテレビの国の門をくぐった。
当時の子役は今の子役とは違う。大人ばりの演技力などは求められていなかった。
むしろ演技にたどたどしいところがある子のほうが好まれた。
こましゃくれた演技をする子役より、棒読みで幼気な子役が視聴者に好まれたのだ。
これでいいんだ。
そう思って、私は演技を全く身につけなかった。身につけようとすれば周囲のオトナたちに止められただろう。
その空気を読み、私はあどけないままでいた。
そんな私はあっさりと時代の波に流された。
あとから出てくる子たちは、かわいいだけではなかったのだ。
かわいいうえに演技力がある、かわいいうえに歌が歌える、かわいいうえに笑いがとれる・・・
かわいいだけの幸子に舞い込む仕事はあっという間になくなった。
母は事務所の社長に噛みついた。
もっとうちの娘を売り込んでくれと。
そんな母を周囲のオトナたちは持て余し、私(と母)は事務所を解雇された。
そんな私たちに声をかけてきたのが、個人で事務所を立ち上げたばかりの須藤だった。
「こんな天使みたいな子を手放すなんて、あの事務所も馬鹿だよなあ」
須藤はそう言いながら母に近づいた。
母は最初は須藤を警戒したが、すぐに心を解いた。
芸能界に母の味方はいなかった。須藤は唯一の味方になってくれると言うのだ。
拒否する権利は母にも、私にもなかった。
私は十二歳になっていた。来年は中学にあがる。
そろそろ結果を出さなければ、この世界での未来はない。
須藤は焦る私と母の気持ちにうまく滑りこんできた。
ある夜、新宿の高層ホテルで三人で食事をした。
いつにない豪華な食事に幸子は身構えた。おかしい。須藤はケチな男だ。何かある。
食事を終え、母が席を立つ。
幸子もすぐに席を立った。そんな幸子の肩に母が手を置いた。そして、ぐいと強い力で押し下げる。
幸子のまだ細い肩は悲鳴をあげそうになる。顔を見ると、母は笑っていた。
幸子は仕方なく着席した。
「今後についての話があるから」
須藤はそう言って、幸子を上階の部屋に誘導した。
ついに来た。
幸子はこの後、きれいだが校庭の隅のウサギ小屋のように狭いこの部屋で起こることを想像する。
せめて須藤の口が、体が臭くなかったらいい。
幸子は優しく端正だった父の整髪料の匂いを思いだそうと必死になる。
「これも芸能界の洗礼だよ」
そう言いながら、須藤が幸子の安い、明るい色をした服を脱がしていく。
ゆっくりと丁寧に。
須藤は感動しているのか、興奮しているのか、紅潮して目に涙を浮かべはじめる。
剥かれながら涙流されるって・・・私、玉ねぎ? 天使じゃないの?
幸子はあっという間に全裸にされた後、須藤に侵入された。もちろん潤うこともなく。
いま思えば、須藤のそれは大層小さかった(子供だったからそれでも苦痛だったが)。
処女を奪った男が小悪党だったことが問題なのではなく、短小だったことが私の運の無さを示していると思う。
幸子の膨らみはじめた胸を撫でながら、須藤は耳元でささやいた。
「これからこんなことが何度か続く。でも、それはこれからのステップアップに必要なことなんだよ。ほら、握ってみ」
須藤が自らに幸子を誘導する。
それは小さいがシーツの下できりっと上を向いていた。
幸子はこれで成功がつかめるのかと半信半疑だったが、ゆっくりと須藤に添えた手を上下させてみた。
父や母だけでなく、誰もが私の顔を見て、そう言った。
小学生になった私を母は頻繁に原宿に連れ出した。
母の狙いはスカウトだった。
狙い通り、私はすぐにスカウトされた。そして子役モデルだ。第一の壁、やすやすと突破である。
「すごいねえ、幸子。あんたはやっぱり誰から見ても天使なんだよ」
ニキビ跡の大きく残った肌を、母は何度も私の桃のような頬になすりつけた。
私は我慢して、うれしそうにその愛撫を受け止めた。
演技の練習である。来るべき時のための備え。
そして「来るべき時」はすぐにやってきた。
雑誌の片隅に出てた私の写真に目を止めたオトナがドラマに出てみないかと声をかけてきた。
自分の国に来いと言っているのだ。
そのために母は私を小さなモデル事務所から小さな芸能事務所に移籍させた。
そうして、私と母は喜んでテレビの国の門をくぐった。
当時の子役は今の子役とは違う。大人ばりの演技力などは求められていなかった。
むしろ演技にたどたどしいところがある子のほうが好まれた。
こましゃくれた演技をする子役より、棒読みで幼気な子役が視聴者に好まれたのだ。
これでいいんだ。
そう思って、私は演技を全く身につけなかった。身につけようとすれば周囲のオトナたちに止められただろう。
その空気を読み、私はあどけないままでいた。
そんな私はあっさりと時代の波に流された。
あとから出てくる子たちは、かわいいだけではなかったのだ。
かわいいうえに演技力がある、かわいいうえに歌が歌える、かわいいうえに笑いがとれる・・・
かわいいだけの幸子に舞い込む仕事はあっという間になくなった。
母は事務所の社長に噛みついた。
もっとうちの娘を売り込んでくれと。
そんな母を周囲のオトナたちは持て余し、私(と母)は事務所を解雇された。
そんな私たちに声をかけてきたのが、個人で事務所を立ち上げたばかりの須藤だった。
「こんな天使みたいな子を手放すなんて、あの事務所も馬鹿だよなあ」
須藤はそう言いながら母に近づいた。
母は最初は須藤を警戒したが、すぐに心を解いた。
芸能界に母の味方はいなかった。須藤は唯一の味方になってくれると言うのだ。
拒否する権利は母にも、私にもなかった。
私は十二歳になっていた。来年は中学にあがる。
そろそろ結果を出さなければ、この世界での未来はない。
須藤は焦る私と母の気持ちにうまく滑りこんできた。
ある夜、新宿の高層ホテルで三人で食事をした。
いつにない豪華な食事に幸子は身構えた。おかしい。須藤はケチな男だ。何かある。
食事を終え、母が席を立つ。
幸子もすぐに席を立った。そんな幸子の肩に母が手を置いた。そして、ぐいと強い力で押し下げる。
幸子のまだ細い肩は悲鳴をあげそうになる。顔を見ると、母は笑っていた。
幸子は仕方なく着席した。
「今後についての話があるから」
須藤はそう言って、幸子を上階の部屋に誘導した。
ついに来た。
幸子はこの後、きれいだが校庭の隅のウサギ小屋のように狭いこの部屋で起こることを想像する。
せめて須藤の口が、体が臭くなかったらいい。
幸子は優しく端正だった父の整髪料の匂いを思いだそうと必死になる。
「これも芸能界の洗礼だよ」
そう言いながら、須藤が幸子の安い、明るい色をした服を脱がしていく。
ゆっくりと丁寧に。
須藤は感動しているのか、興奮しているのか、紅潮して目に涙を浮かべはじめる。
剥かれながら涙流されるって・・・私、玉ねぎ? 天使じゃないの?
幸子はあっという間に全裸にされた後、須藤に侵入された。もちろん潤うこともなく。
いま思えば、須藤のそれは大層小さかった(子供だったからそれでも苦痛だったが)。
処女を奪った男が小悪党だったことが問題なのではなく、短小だったことが私の運の無さを示していると思う。
幸子の膨らみはじめた胸を撫でながら、須藤は耳元でささやいた。
「これからこんなことが何度か続く。でも、それはこれからのステップアップに必要なことなんだよ。ほら、握ってみ」
須藤が自らに幸子を誘導する。
それは小さいがシーツの下できりっと上を向いていた。
幸子はこれで成功がつかめるのかと半信半疑だったが、ゆっくりと須藤に添えた手を上下させてみた。