第13話

文字数 1,625文字

 叶奈は、ダイニングキッチンでツナグと何を作るか思案していた。

「やはり、シチューかカレーが良いんじゃないかな?」

 叶奈は、ツナグに提案する。ツナグは、「ふむ」と言いつつ、野菜のストックを確認した。

「カレーもシチューも、材料は揃っているよ。そうだな……。今日は、シチューにしようか」

 ツナグの言葉に、叶奈は大きく頷いて同意した。鍋などの調理器具を用意する。
 野菜を洗って、てきぱきと下ごしらえを済ませる一人と一匹。叶奈は、ふと、疑問になっていた事をツナグに問いかけた。

「ここの世界では、『死』はあるの?」

 ツナグは、野菜を切りながら叶奈の問いに答える。

「もちろんこの世界にも『死』はある。しかし、ここでの『死』は、二つの種類がある。まず一つ目が君たちの世界へ生まれ変わるための死だ。この世界で死ぬことで、君たちの輪廻転生の転生をすることとなる」

 ことん、と音をさせて、ツナグはニンジンを切り終えた。

「そして、二つ目の『死』は、ここでは『二度目の死』と呼ばれるものだ。この場合の死を迎えると、二度とこの世界はおろか、君たちの世界にも存在することができない。存在そのものがなくなる。大半の人間は、『輪廻転生としての死』を迎えて、君たちの世界へ戻っていく。しかし、向こうの世界や、この世界で悪事を働いた者には、『二度目の死』が待っている。それが、この世界での秩序だ」

 叶奈は、『死』についての思わぬ説明に絶句して、包丁の手を止めた。

「そうなの……」

 ツナグは、そんな叶奈の強張った顔を和らげようと、言葉を続けた。

「もちろん、普通に生きていれば、『二度目の死』を迎えることはまずない。少なくとも、この世界に呼ばれた人間で『二度目の死』を迎えた人間はいない。だから、君は安心すると良い」
「そうだと良いけど……」

 叶奈は、不安げな表情で野菜を適当な大きさに切っていく。不安が少し手元に現れているのか、野菜の大きさが不均一になった。

「ほら、手元が不安に負けているよ。指を切らないようにね」

 ツナグは、叶奈に忠告する。

「ありがとう」

 そんなやりとりをしながら、野菜類を茹でて、シチューの具材を作っていく。野菜に火が通ると、シチューのルーを入れる。シチューのあたたかな優しい香りがダイニングキッチンを包む。
 ツナグは、棚からシチュー皿と小皿を取り出して、テーブルへ並べる。そして、小皿には丸いフランスパンのようなパンを乗せていく。

「さて、完成したよ」

 叶奈は、にっこりと笑うと、テーブルの上の鍋敷きの上にシチューの鍋を置いた。

「よし。じゃあ、私はみんなを呼んでくるよ」

 そう言って、叶奈はみんなを呼びに行こうと、ダイニングキッチンを出ようとした。
 すると、ちょうど同じタイミングで、涼太がダイニングキッチンに入ろうとした。危うくぶつかりかける二人。

「おっと、失礼」
「ごめんなさい」

 涼太と叶奈は、お互い気遣いながら、言葉を発した。ツナグは、そんな二人をそっと見つめている。
 叶奈は、もう一度涼太に詫びて、シチューができたことを伝えた。

「それなら、僕が今から二人を呼んできますね」

 そう言って、涼太は元来た通路を戻って行った。叶奈は、「ありがとう」と言って、笑顔で涼太を見送った。
 ツナグは、スプーンを並べていく。叶奈は、ツナグの様子をぼんやりと見つめていた。

「おや、良い匂いだ」

 林太郎は、叶奈たちの沈黙を破りながら、ダイニングキッチンへと入って来た。

「良い香りだ……」

 剛も、ぶっきらぼうに話しながら、ダイニングキッチンへと足を踏み入れる。涼太も、「うんうん」と言いながら、あとに続いた。
 全員が揃うと、叶奈に促されるままに、それぞれ座席に着いた。

「さて! ディナーの始まりだ!」

 ツナグの言葉を合図に、ディナータイムが始まった。それぞれのこれまでの生活を語り合う。林太郎は、現代の生活スタイルに、終始目を輝かせていた。
 宴もたけなわな頃、剛がおもむろに立ち上がった。
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