第72話 目を覚まして帰る前に
文字数 2,956文字
もふもふもふもふもふもふ。
ふぅー、やっぱり心がツラい時にはもふもふに限るなぁ〜
私はいま、アルフォンス様の意識がないことをいいことに、彼をもふもふしてる真っ最中でございます。
ちなみに個人的なもふもふポイントが高い部分は、耳の裏と顎 の下の毛ですね!!
いや、なぜこんなことしているのかというとね……。
実はアルフォンス様にはちょっとした催眠系魔術が掛けられているようだったため、目を覚ますのにはそれを解除するための魔術を使う必要があったのです。
それでまぁ目を覚ますのに、地面に転がしたままではアレだし……木に寄りかからせるなどして身体を起こしておこうと思い、彼を担いだんですよね。当然、私の素の腕力だけだと全然足りないので補助で魔術なんかも使いつつ……。
そこで、気付いてしまったわけですよ。
ええ、触った瞬間にもふっと……ではなく、ビビっと。
そう、もしかして今ならもふり放題ではないかと?
そこには多少の葛藤 もありましたとも、そういうことをするのは良くないんじゃないかと……。
でも最終的にバレなきゃいいのでは……? どっかのお兄様のせいで、疲れてるし少しでも癒されたい……!! という結論に至り、無事現在のもふもふタイムを堪能しているわけです。
ふふー、もふもふもふもふ~
あぁ、顔も埋もれさせたいけど、流石にそれは我慢…………でも、ちょっと頬ずりするくらいならいいかな? いいよね!? そーっと、すりすり……わふぅー、最高!!
でも、しかしどうしようかな。
このあとアルフォンス様を起こしたとして、さっきまでのあれをどう説明したものか。
『さっきの異常事態ですが、実は私の兄が襲撃してきたせいでしたー、てへ!!』とは絶対言えないし……。
幸運にもアルフォンス様が知ってるのは、お兄様が出てくる前の出来事までだ。
その先は知らない、当然お兄様の存在も知らない。だから私に兄なんていない、今後もそういう設定で生きていきたい……あ、これはただの私の願望だった!!
まぁつまりお兄様のことは伏せて、ごまかすか、それらしい言い訳をする必要があるわけですね……。
あれ、なんか私お兄様が出てきた辺りから、ごまかしと言い訳ばっかりしていません?
なんかイヤだな、そう言うのってモノによっては後々自分の首を絞めることになる気がするし……。
例えば、さっきの場当たり的な嘘なんて……っっ。
いや、そういうのを思い出すのはやめよう!! せっかくもふもふで回復したのに、また調子が悪くなってきてしまうから……。
もふもふもふ、ふぅー。
よーし、それじゃあ頑張るぞっと。
「うぅ……」
解除の術を使うと、すぐにアルフォンス様が目を覚ました。
今だ……!!
「申し訳ありません……!!」
意識を取り戻したアルフォンス様が何か言うより先に、私は両膝をついて謝罪をした。
「っ!?」
「私の力が至らないばかりに、賊の気配を事前に察知できず、アルフォンス様に危害が及ぶ結果になってしまいました……!!」
そう……これが私の考えた、謝り倒して色々ごまかそう作戦である!!
相手の判断力が正常に戻らないうちに素早く多めの情報を与えて、細かい部分は突っ込まれないようにうやむやにする。正直、だいぶ力押しの作戦だ。
でもほら、思い切りって大事だからね!?
「本当に申し訳ありません……!!」
よし、もっと低くっっ!! 更に低姿勢でっっ!!
全力で申し訳なさを出すんだ…… !! 私の謝罪の才能を今ここにっっ!!
「ち、ちょっと待ってくれ……!! というか、まずそれを止めてくれないか!?」
私自身はノリノリで謝罪をしていたのだが、慌てた様子のアルフォンス様に腕を掴まれて立たされてしまった。
な、なんだって……一体何が足りなかったのだろうか。もっと地面に食い込むような感じの方がよかったのかな……?
しぶしぶ立ち上がった私から手を離した彼は、一息ついてからこう言った。
「……そもそもキミが謝るようなことは何もない」
え……えっ? ここは私が叱責 されたうえで責任を追求されるシーンでは……だって彼が把握してる部分だけを切り取っても、明らかに私が悪いですし……。
私が心の中で驚いているとアルフォンス様は「ほら、そんなことするから土が付いてしまったじゃないか」と、わざわざ私の服の土まで払い始めた。
あれ、もしかして物凄く優しいし、いい人では……?
「私のことよりもキミ自身は大丈夫なのか……怪我などはないか?」
「はい、まぁなんとか……」
いい人だ、間違いなくいい人だ……もふもふしてるだけじゃなかったのだ……。
ちなみに怪我などについては、去り際のお兄様にボコられたものの、元凶がいなくなり時間も経過したお陰で、体調はすっかり良くなっていた。だから今では普通に元気である。
「そうか、ならよかった」
私の言葉に安心したような笑みを浮かべたアルフォンス様だったが、すぐにその表情を曇らせた。
あ、今度こそ私の何かに気付いてしまったやつですかね……!? はい、謝罪と言い訳の準備!!
「しかし謝らなければならないのは私の方だ」
やはり内容に合わせて上手く考えないと……って、ん? あ、アナタの方ですか!?
「早々に意識を無くして、私は何も出来なかったのだから……」
あの、いや、あれは仕方ないと思いますよ? なにしろ相手が悪いですし……言えないけど。
「きっとキミは一人きりで、ツラく苦しいこともあっただろう」
…………それは、ありましたね。
「それに私がいるせいで余計な負担にもなったかもしれない」
ま、まぁちょっと危ない橋も渡りましたけども。それに関しても根本的に悪いのは……。
「本当にすまなかった……」
「いえ、アルフォンス様は悪くありませんよ……お気になさらないで下さい」
そう、全面的に悪いのはお兄様で、間接的に非があるのは巻きこんでしまった私だ。言えないけども……!!
「そうか……ではキミも気にしないでくれ」
「え……?」
「そうすれば同じ条件だ」
い、いや、一切そんなことないんですけど!?
包まずに私の罪状を並べると多すぎるくらいなのですが……。
私が戸惑って答えないでいると、アルフォンス様はジーッとつぶらな瞳で見つめてくる。
そ、そんな捨て猫が訴えかけるような目を向けるなんて……っっ!!
「わ、分かりました」
「そうか」
そう言って頷くアルフォンス様はなんだか嬉しそうだった。
いや、なんでですか……? どっかの兄よりはマシなんですが、彼もたまに何を考えてるか分からないんですよね……。
「では怪我もないようだし、お互いもうこの話は止めよう」
それも確かに、助かりますけども……。
色々と私に都合がよすぎませんかね。
「それで構わないか?」
「……はい」
迷いながらも私が頷くと、アルフォンス様は安心させるかのように笑いかけてくれた。
……もしかしてアルフォンス様は、私に気を使ってくれたのだろうか。
もしくは最初の謝罪に内心で引いてて、触れたくないからそういう流れにした可能性も考えられるけど……。
まぁ、とりあえずは良いように考えて置こうかな? だって本当にここまでロクなことがないからね……!?
ああ、お兄様の件も後のこと考えるとツラいなぁ……忘れたい……。
ふぅー、やっぱり心がツラい時にはもふもふに限るなぁ〜
私はいま、アルフォンス様の意識がないことをいいことに、彼をもふもふしてる真っ最中でございます。
ちなみに個人的なもふもふポイントが高い部分は、耳の裏と
いや、なぜこんなことしているのかというとね……。
実はアルフォンス様にはちょっとした催眠系魔術が掛けられているようだったため、目を覚ますのにはそれを解除するための魔術を使う必要があったのです。
それでまぁ目を覚ますのに、地面に転がしたままではアレだし……木に寄りかからせるなどして身体を起こしておこうと思い、彼を担いだんですよね。当然、私の素の腕力だけだと全然足りないので補助で魔術なんかも使いつつ……。
そこで、気付いてしまったわけですよ。
ええ、触った瞬間にもふっと……ではなく、ビビっと。
そう、もしかして今ならもふり放題ではないかと?
そこには多少の
でも最終的にバレなきゃいいのでは……? どっかのお兄様のせいで、疲れてるし少しでも癒されたい……!! という結論に至り、無事現在のもふもふタイムを堪能しているわけです。
ふふー、もふもふもふもふ~
あぁ、顔も埋もれさせたいけど、流石にそれは我慢…………でも、ちょっと頬ずりするくらいならいいかな? いいよね!? そーっと、すりすり……わふぅー、最高!!
でも、しかしどうしようかな。
このあとアルフォンス様を起こしたとして、さっきまでのあれをどう説明したものか。
『さっきの異常事態ですが、実は私の兄が襲撃してきたせいでしたー、てへ!!』とは絶対言えないし……。
幸運にもアルフォンス様が知ってるのは、お兄様が出てくる前の出来事までだ。
その先は知らない、当然お兄様の存在も知らない。だから私に兄なんていない、今後もそういう設定で生きていきたい……あ、これはただの私の願望だった!!
まぁつまりお兄様のことは伏せて、ごまかすか、それらしい言い訳をする必要があるわけですね……。
あれ、なんか私お兄様が出てきた辺りから、ごまかしと言い訳ばっかりしていません?
なんかイヤだな、そう言うのってモノによっては後々自分の首を絞めることになる気がするし……。
例えば、さっきの場当たり的な嘘なんて……っっ。
いや、そういうのを思い出すのはやめよう!! せっかくもふもふで回復したのに、また調子が悪くなってきてしまうから……。
もふもふもふ、ふぅー。
よーし、それじゃあ頑張るぞっと。
「うぅ……」
解除の術を使うと、すぐにアルフォンス様が目を覚ました。
今だ……!!
「申し訳ありません……!!」
意識を取り戻したアルフォンス様が何か言うより先に、私は両膝をついて謝罪をした。
「っ!?」
「私の力が至らないばかりに、賊の気配を事前に察知できず、アルフォンス様に危害が及ぶ結果になってしまいました……!!」
そう……これが私の考えた、謝り倒して色々ごまかそう作戦である!!
相手の判断力が正常に戻らないうちに素早く多めの情報を与えて、細かい部分は突っ込まれないようにうやむやにする。正直、だいぶ力押しの作戦だ。
でもほら、思い切りって大事だからね!?
「本当に申し訳ありません……!!」
よし、もっと低くっっ!! 更に低姿勢でっっ!!
全力で申し訳なさを出すんだ…… !! 私の謝罪の才能を今ここにっっ!!
「ち、ちょっと待ってくれ……!! というか、まずそれを止めてくれないか!?」
私自身はノリノリで謝罪をしていたのだが、慌てた様子のアルフォンス様に腕を掴まれて立たされてしまった。
な、なんだって……一体何が足りなかったのだろうか。もっと地面に食い込むような感じの方がよかったのかな……?
しぶしぶ立ち上がった私から手を離した彼は、一息ついてからこう言った。
「……そもそもキミが謝るようなことは何もない」
え……えっ? ここは私が
私が心の中で驚いているとアルフォンス様は「ほら、そんなことするから土が付いてしまったじゃないか」と、わざわざ私の服の土まで払い始めた。
あれ、もしかして物凄く優しいし、いい人では……?
「私のことよりもキミ自身は大丈夫なのか……怪我などはないか?」
「はい、まぁなんとか……」
いい人だ、間違いなくいい人だ……もふもふしてるだけじゃなかったのだ……。
ちなみに怪我などについては、去り際のお兄様にボコられたものの、元凶がいなくなり時間も経過したお陰で、体調はすっかり良くなっていた。だから今では普通に元気である。
「そうか、ならよかった」
私の言葉に安心したような笑みを浮かべたアルフォンス様だったが、すぐにその表情を曇らせた。
あ、今度こそ私の何かに気付いてしまったやつですかね……!? はい、謝罪と言い訳の準備!!
「しかし謝らなければならないのは私の方だ」
やはり内容に合わせて上手く考えないと……って、ん? あ、アナタの方ですか!?
「早々に意識を無くして、私は何も出来なかったのだから……」
あの、いや、あれは仕方ないと思いますよ? なにしろ相手が悪いですし……言えないけど。
「きっとキミは一人きりで、ツラく苦しいこともあっただろう」
…………それは、ありましたね。
「それに私がいるせいで余計な負担にもなったかもしれない」
ま、まぁちょっと危ない橋も渡りましたけども。それに関しても根本的に悪いのは……。
「本当にすまなかった……」
「いえ、アルフォンス様は悪くありませんよ……お気になさらないで下さい」
そう、全面的に悪いのはお兄様で、間接的に非があるのは巻きこんでしまった私だ。言えないけども……!!
「そうか……ではキミも気にしないでくれ」
「え……?」
「そうすれば同じ条件だ」
い、いや、一切そんなことないんですけど!?
包まずに私の罪状を並べると多すぎるくらいなのですが……。
私が戸惑って答えないでいると、アルフォンス様はジーッとつぶらな瞳で見つめてくる。
そ、そんな捨て猫が訴えかけるような目を向けるなんて……っっ!!
「わ、分かりました」
「そうか」
そう言って頷くアルフォンス様はなんだか嬉しそうだった。
いや、なんでですか……? どっかの兄よりはマシなんですが、彼もたまに何を考えてるか分からないんですよね……。
「では怪我もないようだし、お互いもうこの話は止めよう」
それも確かに、助かりますけども……。
色々と私に都合がよすぎませんかね。
「それで構わないか?」
「……はい」
迷いながらも私が頷くと、アルフォンス様は安心させるかのように笑いかけてくれた。
……もしかしてアルフォンス様は、私に気を使ってくれたのだろうか。
もしくは最初の謝罪に内心で引いてて、触れたくないからそういう流れにした可能性も考えられるけど……。
まぁ、とりあえずは良いように考えて置こうかな? だって本当にここまでロクなことがないからね……!?
ああ、お兄様の件も後のこと考えるとツラいなぁ……忘れたい……。