第4話 リトル・ハンズ

文字数 421文字

彼は未熟児だったから、保育器に入れられた。
ずっと、呆けていた。
幼稚園に入る頃まで。
きっと、あの、神様とやらのしょんぼり去っていく姿を見たせいだろう。
いや、誰かのせいにすまい。
彼は、自分のあたまが悪いのだ、いつもそう思っていた。

幼稚園の事は、よく覚えている。
夢にまでみた、初恋の京子ちゃん。
恋敵の三浦くん。
親友のはじめくん。
なんだか小さくてかわいいのにしっかりした理恵ちゃん。
パンを牛乳と口の中で混ぜて食べるんだよ、と、大口を開けて彼に見せてくれ、パンと牛乳を嫌いにさせてくれたよしえちゃん。

楽しみにしていたフォークダンスでは、三浦と京子、彼とよしえ、ばかりが、黒いゴミ袋をくり抜いた変な衣装で踊った。
卒園式に、地蔵の前で狸が死んでいた。
運動で敵わなかった、背の高い野口くん。

たくさんの思い出の中で、何故かよしえちゃんの白い口のなかに浮き沈みする湿ったパンと、その浅黒い満面の笑みがいちばん印象に残っている。

色の黒い女は、終生受け付けなかった。
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