レッドリスト小林

文字数 1,761文字

均整に纏められた髪字は

僅かな傾きで艶光を流す


青魚の群れのようにキラキラと

ADHD的な視覚を翻弄する

休み休み読むか



拝啓



なんて初っ端から画数多目で御免なさいッス

髪で字を縫うには漢字が栄えるし

狭い面積に髪いっぱい使えるって


サクラ言うんすよ



桜?

僕の事です

コバちゃんとはゲイコミュで知り合って以来

ずっとハンドルネームで呼び合っていました

己が皮を剥いで髪を縫い込む


生きながらするには難儀だ


遺書が正しく代筆されたものなら

和人は共謀者ということになる

コバ…ちゃん

それ小林のハンドルネームだったのか


とにかく余す事なく使い切りたいなら三千字は書けっていうの

無理だから!漢字多目の三千なんて小林絶対無理だから!


はは
どうせ死ぬなら

沢山書いてほしいと

文字数抑えて髪量稼ぐなら

大きく太く縫えばいい

コバちゃんらし♪

そう

実に小林だ

なんら目新しさもない


俺が笑ったのは別の事だ

別?
ああ
文中を指して見せる



小林…

絶対無理だから?

小林は…自分の事を

小林という


俺でなく

私でなく

下の名の大輝でもない


小林と…

成人が使うには

恥ずかしい一人称ですね

ああ…そうだとも
だが

実の小林は

周囲からそのように見られていたか?

アニメや漫画の真似をする

痛い大人として白い目を向けられていたか?

 
そう

そんな事はなかった

小林は世間で自称小林は使わない

では

如何様に己を語ったか


世界中


どこの言語にも“私”は存在する


人と人とが対話する上で

自らを指し示す事は

それだけで重要な役割を持つ


それを封じたらどうなる?

 

和人は思い返しているようだ

他人と話す時の小林を


僕でもいい

私でもいい


何か他の一人称を使っていれば

溜息の一つでも減らせただろう




そろそろ俺と同じ結論に辿り着きそうだ

拗らせてますね…


実に面倒なものを…

例え

回りくどい言い回しを余儀なくされても


自性を称すよりはマシ


一度足りとも折れた事のない

頑なまでのアイデンティティ…


小林よ

お前は何故

こんな性差に富んだ言葉の国に生まれたか


コバちゃん……

お前がつけたこの名から僅かに女性のニュアンスを感じるが

それは誤りか?

性別の入る余地の無い

純度100%の可愛さを追求した結果か?

和人は


僕…か

まだ17なので


セーフかと

だから“僕”なのか?

ここに来た時は


“私”


だったろ

…はい
“私”とは

“僕”よりも女性的だ

 
女性的


と言っただけなのに


なんで嬉しそうなんだ?

今ので解ってしまいますか
驚く事はない

自身が望む響には呼応するものさ

例え間接的な言葉でも

難かしそうです
因みに

このソナーのような術を小林に仕込んだのは俺だ

 
そりゃ気づかないよな…


アレは受信感度もさながらだが

自身の反響音さえも偽装する

気付かれた事にも気付かせない

 ……
数字には疎いが

鼻は鋭い


欺かれたのはどちらかな?

 
まぁいい


和人は

サクラという愛称の通り

元は女性的だった

 
女…と思われる


のが好きだった




そろそろやめませんか


ソレ

わり
このように

アクティブソナーは迷惑になる事がある

ご利用は計画的に


解るか中露

とにかく和人は

ここに来てから己の女性を抑えた


隠してはいません


髪も切ったし

スカートもやめた

解って当然というので

掘り下げる

自発的にだ

それとも無自覚?

仕草や声色まで女が消えた事に気付いているか?

 


誰に言われるでもなく

女を抑えた


妻が文字通りの嬲りを求めたからか?


かといって一人称は


俺にはならない

僕に留めているな…


女に見られる事への未練……



ではない

女と誤認させる欲求が消えた訳ではないだろう


しかし和人が女性に成りきったところで

(ほんもの)には敵わない


だからか知れないが

現状程よい差別化が出来ている


それには触れない事にしよう

俺の男を立てるため

和人は必要以上に雄化できない

雄化って

魚ですか!

和人が俺に勝つようになれば

男になるのだろうか?


コブ鯛のように


その時には妻を任せても良いと思えるだろうか


あの小林には持ち得なかった期待を……

コブ鯛?
少し漏れてた
魚ほど両極端ではないが

中間性でのポジション取りには眼を見張るものがある


和人は順応性に富んだゲイだな

現代社会でも通用する生殖能力だ

よく解りません…
和人

お前の特性であれば

しばらくの間

次の世代に子孫を残せるかもしれない

だが小林は……

あの……

コバちゃんも僕と同じように

男しか好きになれない男だったかと思うのですが

一見似ているが

生殖戦略上での考えは大きく異なる

小林


あれは


絶滅危惧種(レッドリスト)

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登場人物紹介

斎藤(男:アセクシャル)


新婚ホヤホヤ

順風満々な生活を送っている

心残りがあるとすれば

妻を娶るのと時同じくして消息不明となった小林という男(ゲイ)の事

和人  (男:ゲイ)


斎藤家の家政夫

小林の後任として身の回りのお世話をする

主人を旦那様と慕い

性欲の対象としてもみている


しかし

婦人と性行を許されているのに

主人からはまるで相手にされないのが不満

小林  (男:ゲイ)


斎藤大好き

斎藤が結婚してから行方不明

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