どこかに行くの?

文字数 791文字

      9

 あの日、兄貴は倒れていたおれを見つけてから友人に連絡をし、代わりに竹宮詩織にコンタクトをとってもらったらしい。詳しい様子は教えてもらっていないが、竹宮詩織はおれたちの話を聞き入れてくれたようだった。次の日、夜のニュースでは脱法ハーブを吸っていたのは竹宮祥子ではなく、助手席にいた男で、「ハートビート」というハーブを吸っていたということが報道された。

 事件から三日後、東京都内のホテルから出てきた滑川は警察に逮捕された。誰にも匿ってもらえず、一人で逃亡生活を送っていたようだ。

 おれは、ほっと胸を撫ぜおろし、今回の事件の情報をまとめた。
 逃亡し、逮捕された滑川という男は脱法ハーブのブローカーだったということ、「ハートビート」は気合の入った新商品だったけどこのザマだったということを強調し、脱法ハーブと言えども、もう普通の麻薬と同じで、規模は縮小していくだろうという誘導を狙った。

 サイトを更新し、ノートパソコンを閉じる。

「どこかに行くの?」

 朝、リビングで食パンを食べていたら、真紀恵母さんは目を丸くしていた。よそ行きの服を持っていないから、おれはとりあえず高校の制服を着てみている。

「夏休みじゃないの?」
「ただの散歩だよ」

 真紀恵母さんは、「ふぅん」と言い、何か訊ねたそうな顔をしておれのことを見ていたが、それ以上訊ねてはこなかった。帰ってきたら、どこまで行けたのか話をすることにしよう。
 食事を済ませ、身支度をし、「いってきます」と言って、玄関から外に出る。
 熱い日差しを浴びながら、今日はどこまで行けるだろうか。

                                      第4話おわり
参考文献
『危険ドラッグ 半グレの闇稼業』溝口敦 角川新書
『代理ミュンヒハウゼン症候群』南部さおり アスキー新書
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登場人物紹介

平羊介 音楽が趣味の平凡な高校生。だったはずが、同級生の森巣と出会い、平和な日常が終わる。勇気を試され、決断を迫られ、町で起こる事件に巻き込まれて行く。

森巣良 イケメンで優しい、クラスの中心にいる生徒。だけど彼には裏の顔があり……その正体は腹黒毒舌名探偵だった。正義の味方ではないが、自分の町で起こる事件に、森巣なりの美学を持って解決しようとする。

小此木霞 平と森巣の高校の先輩。森巣とは幼馴染で、彼が心を許している数少ない存在。森巣の裏の顔や、彼が何をしているのか知っている。知識が豊富でパズルが得意なので、たまに森巣に協力をする。事件に挑む二人のよき理解者。

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