第四〇話 生きる者すべての個人情報
文字数 2,218文字
――そんなわけで、『ドリームアームズ』と提携するメリットが、魔境銀行さんにはたくさんあるはずです。
よく考えてみてください。私たちが魔境銀行さんのために、たくさんの人に魔法剣スリーパーと魔境銀行さんの金融商品を売り込んでいくことになるんです。私たちを手下のように使えるということじゃないですか?
……そう安易に判断することもできぬ。なぜなら、おそらく今、『ドリームアームズ』は、我が魔境銀行なら決して金を貸さぬであろう不良な筋にも魔法剣スリーパーを販売しているであろうからだ。銀行業のノウハウの根幹は、回収方法よりも、その客に金を貸すのが相応しいかどうかを見極めることにある。貴様らには、その基本ができていない。
ゴ、ゴメンなさい……。
泣いているつもりはないんです、でも必死になりすぎちゃって、なんだか思わず涙が出ちゃっただけで……本当にゴメンなさい……。でも私は『ドリームアームズ』だけが成功しようとしているわけじゃなくて、魔境銀行さんにも利益を得て欲しいって心から思っているんです。だから必死になっちゃって……。
ここで勢いを止めず、さらなる販売攻勢を仕掛けていく必要があるって確信しているんです。でなければ『ドリームアームズ』は、魔境銀行さんへの借金を返済できないどころか、永遠に魔王さんに追いつくことも、魔王さんの遥か後ろを追いかけさせてもらうことすらも不可能です。だからこそ、魔王さんに少しでも認めてもらうためには、何があっても、勇気を振り絞って耐えなくちゃならないときなんだって思うんです。
魔王さんの背中が少しでも見えるくらいまで早く追いつきたい……『ドリームアームズ』経営で少しは社会の仕組みがわかるようになってから、それはすごく遠い道のりだって知ってます……。それでも、私は命を懸けてます……。魔王さんみたいに、私だって少しは世界をより良いものにするために、命を燃やしてみたいんです……!
すでに国家を顧客としている魔境銀行ではあるが、巨大になりすぎたが故、成長が頭打ちになってしまっていた。これ以上の成長を求めるには、どうしても既存の手法を脱却した次の一手を打つ必要があったのだ。しかしその手を見つけるのは容易ではなかったというのが実際のところだ。
これからは国家や法人のみならず、個人客への貸付の力を付けていくべき時期だと考えていた。たしかに国家を相手にすれば管理も営業も楽だが、相対としての経済規模の巨大さでいえば、やはり愚民どもの大集団の規模には敵わぬもの。ただ、そうは言っても個人客を押さえ込んでいくにあたって、肝心の営業活動をどのように展開すべきか思いあぐねていたところだ。
ですから、それを私たちがやります! 私たちがどんどん新製品を作って、市場に投入して、魔境銀行さんの金融商品とくっつけて販売していけばいいんです。『ドリームアームズ』を営業の先兵として使ってください。『ドリームアームズ』も、魔境銀行さんを利用させてもらい、一気に飛躍しようと思うんです。この提携は、お互いにとって大きな実りをもたらすに違いありません!
……我が行に新しい管理部門を創設せねばならぬようだな。個人客をデータベース化し、我が行があらゆる情報を統合していく。究極的に目指すところは、この世に生きる者すべての個人情報を収集し尽くすことにある。さすれば我が行は、世界のビジネス界において、さながら神のような立場となるだろう。
この月賦販売のビジネススキームは、我が行にとって新しい事業分野となってくれるに違いない……。大口相手の商売から、あまねく個々人の情報を魔境銀行に統合し、やがて世界統一政府に繋げて人民を管理していく手始めとなるだろう。フフフ、第二の飛躍のチャンスが、向こうから飛び込んできたというものだ。