堕天使

文字数 1,152文字

広大な宇宙空間にある全ての命を呑みこむ“深淵”がある。
恐ろしい重力に支配された黒い穴。
全ての光が届かない暗黒の世界。
その“深淵”の底にある赤黒く燃えさかる世界。
それは地獄。
その最下層にある氷の世界で異変が起きた。
氷の世界の中心に亀裂が入り、炎と稲妻が噴き出す。
巨大な炎は天にも突かんばかりに噴き上がり爆発しながら何かの形になっていく。
地獄の空を覆い尽くさんばかりの巨大な6枚の翼を持った恐ろしい炎。
熱風に山は崩れ空は荒れ狂う。
氷の亀裂から噴きあがった炎はやがて縮小して人の形になっていった。
逆巻く炎ようにゆらめく漆黒の髪。
薄紫色の瞳は傲岸不遜な“闇”。
容姿はミカエルと同等に美しく、黒い炎をまとっている。
その背にはこの世にあらゆる禍をまき散らす漆黒の6枚の翼。
地獄の王、魔王ルシファー。
ルシファーはゆっくりと氷の上に舞い降りると確認するかのように手の平を閉じたり開いたりし始めた。
「ハッ――ッハハハッ!久しぶりに自由になったぜ」
その声は地獄の隅まで響き渡った。
「ルシファー様――!!」
地獄の空から翼をはばたかせながら黒い狼が現れた。
「マルコシアスか」
「はい!ミカエルが地球(エデン)に向かいました」
「やれやれ、相変わらず忠義な野郎だ」
うんざりといったふうにルシファーは頭を振った。
「ルシファー様も急がないと遅れをとります」
「わかってるよ。あのイケ好かねえ奴らの思い通りにはさせねえ。地球(エデン)は毒悪にまみれたまま永遠に汚泥の塊になるんだ。そして俺達悪魔の宇宙が産まれる!」
ルシファーは美しい顔を邪悪な笑みでゆがめると肩をゆすった。
「おまえも一緒に来い」
「えっ!それは!!」
「安心しろよ。ミカエルと闘おうってんじゃねえんだ。まあゲームみてえなもんさ」
「しかし私、あの方苦手なんですよ…」
おずおずとマルコシアスが言う。
「手数は多いほうがいいんだよ。それにこの勝負に負けたら俺達も消えちまうんだぞ。地獄もろともな」
「それはそうですが……ちょっと聞いていいですか?」
「なんだ?」
「もし…その…勝負に負けちゃったら?やっぱ相手があることですし」
「決まってるだろ?そのときは殺す」
呆れたようにルシファーは言う。
「さてと!めんどくせえが新しい“主”に御面会と行くか!行くぞ!」
黒い翼を6枚すべて広げるとルシファーは広大な地獄の空に舞い上がった。
慌てたように黒狼マルコシアスが続く。

赤黒く燃えさかる世界から二つの“闇”が飛び立った。
そして全ての光が届かない暗黒の世界から闇が宇宙に吐き出された。
暗黒から出た“闇”。
光点から出た“光”。
二つは等しく同じ星を目指していた。
青く輝く地球(エデン)を。












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