第6話

文字数 710文字

本当はあのとき死ぬはずだった。

実際、死んでいた。肉体的には即死だったはずだ。

しかし、私が死ぬと、会社や家族がいろいろと困ることになるようで、特別な治療がほどこされた。

まず、脳をコンピュータにつなぎ、私の記憶を吸いだす。

そして、細胞を培養し、新しい肉体をつくりあげる。

最後はその新しい脳に、吸いだした記憶をコピーする。

そうして再生されたのが、今ここにいる、“私”なのだ。

私はできたばかりのクローンなのだ。



そしてまだ、今の体に記憶がなじんでいない。だから、記憶があいまいだったのだ。

コピーされた記憶がリアルに実感されるようになるには、もう少し時間がかかる。

今はそのリハビリとして、少しずつ知人に会っているところだった。

すべてを思いだし、いてもたってもいられなくなった。

私は病室を飛び出した。

これからどうしたらいいのだろう。

公園のベンチでひとりたたずんでいると、背後から殺気をおびた気配を感じた。

とっさに、ふりかえる。

シュッ。

また、何かが飛びかかってきた。今度こそ、よけられない。

もうダメだと思ったとき、バサッと大きなネットがとんできた。



「すみません。ご無事ですか」

目の前には、やたらにこにこした白衣の人が立っていた。



手には大きなネットをかかえている。

中には、どろどろぶよぶよした肉の塊のようなものが入っている。

私に飛びかかってきたのは、どうやらこの物体らしい。

「お怪我はありませんか。私たちの管理ミスで、一体、逃げ出してしまったのです」

捕獲されたどろどろの塊は、ぬめぬめと動いていた。

よく見ると、目玉のようなものがあっちとこっちについている。

どことなく顔のようにも見える。

そしてその顔はどこかで見たことがある……。






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