レビュー

文字数 1,996文字

自転車、飛行機、夢、一人部屋、空、星(スター)、テレビ、逆襲、諦め…。これらは、私が少年たちの予感を聴いてイメージされたものである。MVでもこの中のいくつかはみられるから、これからMVにも触れつつ『少年たちの予感』についてレビューしていきたい。
ヘッドセット・キッズ
自転車と空が目に浮かんだ。これは私が部活後の夜10時過ぎ、このミニアルバムを聴きながら自転車を漕いで帰宅することが多いからかもしれない。それを抜きにしても雲の上を簡単に飛び越えてしまえそうな勢いと疾走感がこの曲自身にはあるし、だからこそこの曲を選択して寒空の下帰宅しているのだと思う。特に、満点の星空の下でチャリで爆走しながら聞いたら気持ちいい。一緒に歌ってしまえばもっと気持ちいい。間奏のエフェクターについて、耳を頼りに姉に尋ねるとBoss BF-3Flangerではないかと言われた。飛行機みたいなエフェクト。これ、好きだな。最初は自転車の上だったはずなのに、気づけば自分が飛行機になって高いところを空中飛行している気分だ。あるいは夢の中。ふわふわしている。自分が自分じゃないみたい、他の別人になってるような錯覚を引き起こす。ヘッドセットの先にある世界は現実ではない自分だけの世界である。そんな世界でなら自分の思うままにできるのに…。
MVではメンバーそれぞれの遊び道具である私物を持ち寄っているそうだ。かっこよく演奏しているバンドをテレビの前で見ているぺい氏が最後に写る。走りながら、どこか違う方向から自分を客観視していて、胸の中にあるしこりに気づいているのかもしれない。

ダイヤモンド・キッス
部活が終わり、いつものようにこれを聴きながら帰宅していると強い光の流れ星を見た。ちょうど流星群のタイミングだったようだ。ラッキー。ダイヤモンドみたいにキラッとしていてあの輝きはまだ忘れられない。
星のイメージ。ここでいう星には二種類の意味を含んでいる。空に浮かぶ星と、スター…すなわちヒーローの意味での星である。
小室氏がこのMVの中で女装するように、この曲を聴いていると別人になれる胸騒ぎがしそう。MVのみんな最初パジャマだし。画面の大きさもテレビのサイズ感だし、紙吹雪とともにいつもと違う何かになれる予感がする。

ブラックホール
「最高密度に達してる」これ、「青年ナイフ」の歌詞にもある。あえて入れたのだろう。
ブラックホールはというと、小室氏が映る時のみ画面がカラーになり、それ以外のシーンはすべてモノクロ仕様になっている。(そういえば、夢というのは人によって色が違うらしく、カラーのある夢を見る人と色のないモノクロの夢を見る人がいるらしいということをどこかで聞いたことがある。)もしかしたら自分で自分のヒーローなるものを演じていたのかもしれない。
またここでもヘッドセットキッズの時と同じ、名付けて「飛行機エフェクター」が間奏に入る。宇宙遊泳。

アンカー
前の3曲から一変してこの曲はリアル。「時間さ」タイムリミット、つまり自分の番が来た。今日提出期限の課題をやらずに朝起きてはっとする焦り。楽しい夢を見ていたはずなのに、急に現実に引き戻されるあのやるせない感じ。一応頑張ってみるけど誤魔化しがきかなくてすったもんだする感じ。甘くなくて全然追いつけない。くそっ!
歌詞がリアルなのは等身大の自分を歌っているからだろうか。シャウトもリアル。「でも...」という歌詞で終わっている。でも、と、悪い想像をしてしまう弱さ。
予感がどのようなものなのか、いい予感なのか悪い予感なのか。
アンカーでのシャウトは自分の涙で出来た海に溺れている。自分の体なのに自分でしたい動きができない、身動きが取れない水中にいる感じだ。

「小室ぺいの自由研究」で、彼はロックについて「ひとりぼっちの心に寄り添うもの」と形容していた。人は肉体面でも精神面でも究極的に考えれば、やはりひとりぼっちなのかもしれない。でも自分だけはいつもそばにいる。だから自分で自分を鼓舞することはできる。分身術で自分を客観視し、まさに小室氏自身がそんなロックを継承していきたいという思いが感じとられる。

今年はNITRODAYは新しい試みに挑戦し続けてきた。MVでのイメチェン(女装)、ラップとコラボ、ミニアルバム、ニトロデイからNITRODAYへ。変わりゆく姿をリアルタイムで見ていきたい。

NITRODAYを聞いているとかつて少年(ex少年)だった頃の青臭い思い出や感情が、まるで記憶の彼方に沈殿していたカスみたいなものがふわっと舞い上がってくるような感覚になる。いや、私は彼らと2、3歳しか違わないし性別でいうと少女にあたるのであろうがあえてここでは少年と言わせてほしい。10代前半をピークに少年特有の疾走感、少年たちの予感だから。
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