第100話  私が好きになった人 ~私を好きになってくれた人~ Aパート

文字数 7,705文字


「まず初めになんだけどこれは確認だけだから。これからする質問に対して答えた岡本さんが気に病んだり、責任を感じたりする必要は全くないから。だから気軽にって言うのは変だけど、普通に答えてくれれば良いから」
「それと巻本先生。今ここでの話は、質問事項も含めて特に他の生徒の前では、該当生徒のプライバシー、今後の事、それに岡本さんやその他事情を知ってくれていて、協力してくれた生徒の為にくれぐれも口を開かないで下さい」
「分かりました」
 私に簡単な説明をした後、まるで簡単な質問とは思えないほどの守秘義務を匂わせて、巻本先生にも注意を促す穂高先生。
 その先生の返事を受けて、聞き取りが始まる。
「まず先週の金曜日の件。岡本さんは知ってた?」
「いえ、今週の月曜日、私の足を蹴った女生徒と、担任の先生から朝礼の時に聞いて初めて知りました」
 自分が受け持つクラスの生徒の事だからだと思うけれど、先生の顔が下がる。
「じゃあ火曜日の日に、園芸部の活動場所にいたのはどうして?」
 その先生を穂高先生が一瞬目をやるも、そのまま次の質問を続けて来る。
「朝、優――副会長の空木君から園芸部の話を聞いて気になったのと、私の

が園芸部にいるので、気になっていましたからのぞきに行きました」
 この暴力の件は学校側で対処をする。噂の件に関しては処分も含めて学校側の管轄だと、その間に統括会は雪野さんの事をどうするのかの話をまとめろと、倉本君経由で伝えられていたのを思い出したから、悪いけれど優珠希ちゃんと御国さんとは友達と言う事にさせてもらう。
 そう言えば、今の優希君と雪野さんの関係を優珠希ちゃんは知っているのかな。
 お兄ちゃんの気持ちを一番に優先するのなら、優珠希ちゃんがあれだけ言葉にするのも憚られるくらい酷い事を口にしていたとしても、雪野さんと仲良くしてしまうのかな……そう考えたら、せっかく穂高先生の化粧で分からなくしてもらって、気分も紛れていたはずなのに、また目に涙が溜まり始める。
「……岡本。もししんどかったら無理して二限目から出なくても良いからな」
 私の言葉が止まってしまった事に巻本先生が心配してくれる。
「じゃあ、その火曜日の相手と、先に手を出したのは?」
 言葉だけを聞いていれば分からないだろうけれど、何を考えているのか穂高先生の私を見る目が眇められる。
「相手は後輩の男『ちょっと先生。その目は岡本を疑ってるって事ですか?』――先生?」
 それをどう勘違い――いや、穂高先生が私に向けた視線に対して、巻本先生が抗議してくれる。
 本当に先生のお嫁さんになれた人は、不器用だけれどその分、安心と幸せはもらえるんだろうなって分かる気がする。
「ち、違います。私は岡本さんが落ち込んでいる理由を知りたかっただけで、決して疑っている訳では無いんです」
 慌てて巻本先生に説明した後で“ごめんなさいね”と口にする穂高先生。
「お願いですから私のクラスの生徒。昨日の放課後に来た生徒はともかく、岡本は本当にいい子ですから、もっと大切にしてやって下さい」
 その上、今の私の精神状態で巻本先生にそんなに優しい言葉を掛けられたら
「……」
 駄目に決まっている。
 さっきまで落ち着いていたと思っていた心が、行き場を失っていた感情が、再びあふれ出す。本当に自分でも驚くくらい女々しいんじゃないかって思う。
「岡本。ここがしんどかったら応接室の方へ来るか?」
 授業を休んで保健室まで来て、ちょっと心に染み入る言葉を掛けられてまたメソメソして……先生にしてもらったお化粧も壊して、本当に私って最低だ。
 いくら初恋で心から大好きだと思っていた男の人に気移りされたくらいで、世の中
失恋話なんていくらでも掃いて捨てる程転がっているはずなのに……
「……」
 だから私は巻本先生の提案に対して首を横に振る。
 これは女々しい私の問題であって、雪野さんの持つ魅力に対して私が負けただけで、間違ってもどっちの先生が悪いわけでも何でもない。
「分かった、ありがとう。でももう全て分かった上での確認だけだから、これ以上の質問は辞めるわね」
 そう言って穂高先生がノート型の手帳を閉じようとするのを
「待って下さい。ちゃんと全部言えますから最後まで続けて下さい」
 慌てて止める。でないと午前中の授業を抜け出してまで一体何をしていたのかと言う話になってしまう。
 それにこれで妹さんや御国さんとの関係が終わるとしても、一人の人間として、統括会の役員として二人の力に、二人の笑顔の為に私に出来る事はしたい。
 私の言葉に苦笑いを見せた先生が、
「分かったけど、先に顔を洗ってらっしゃい。すごい事になってるわよ」


 そしてお化粧は改めて一番最後にすると言う事で、仕切り直しの後、聞き取りの再開をする。
「えっと火曜日は、私が園芸部の活動場所に着いた時には、もうサッカー部の後輩男子が御国さんや園芸部に対して乱暴をしていました。だから私が慌てて間に入って止めました」
「その時、他の部員や顧問の先生は?」
「いえ、誰も見ていません。そもそも顧問の先生を私は活動場所で一度も見た事がありません。ただその時一人だけ遅れて来た生徒はいました」
 と言うか、あの二人以外で顧問の先生も含めて活動している生徒を一度も見た事が無い。
 これじゃあ何のための部活で、何のための割り当て費なのか分からない。しかもそう言う事は学校側管理で統括会には何の権利も話も無いから、その実態自体も何も分からない。
「じゃあ最後に。水曜日の事なんだけど、二日続けて園芸部に顔を出したのはどうして?」
「前日の男子生徒から暴力を受けた時に、私たちの正当防衛に関して“お礼参り”をするって言っていたのが気になったからです」
 ただあの時点では、まさか翌日に同じクラスの女子の姿を見るとは露ほども思っていなかったけれど。
 ただ最後の質問に答えた時、先生の口元がほんの少しだけ暗く歪む。
「それで水曜日も貴方たちが暴力を振るわれて、園芸部の子が私に助けを求めに来てくれたのね」
 私のどの言葉に反応したのか、先生の目までもが一瞬暗い笑みに変わるけれど、次の瞬間にはいつもの表情に戻して話を締めにかかる。
「はい。後は先生がご存知の通りで間違いないはずです」
「……岡本。今までの俺が言えた事じゃないが――」
「――先生のお気持ちは嬉しいんですけれど、今は駄目ですよ。それに私は、先生に私の大切な友達の事をお願いしました。だから、私以外の生徒の事もちゃんと見て下さいね」
 私と穂高先生のやり取りが終わるや否や、巻本先生が口を開こうとするけれど、今は目の前に腹黒先生がいるからと、その先に続くであろう言葉をやんわりと止めさせてもらう。
「そう言えば(つつみ)と月森が岡本の事を気にしてて、話したい事もあるからって言ってたから、もし大丈夫そうならあの二人とも話してみてくれ。逆にもし無理そうなら先生の方からうまく言っとくから気にしなくて良いぞ」
 そうしたら私の言葉で頼まれていた伝言を思い出したのか、二人の友達の事を教えてくれるけれど、
「大丈夫です。二限目からはちゃんと授業に出ます」
 さすがに口下手な先生がうまく言うなんて事は無理なんじゃ無いかなって、失礼ながら考えてしまう。
「本当に大丈夫か? それとこの一限目については学校側からの聞き取りだって言う事で、出席扱いで処理してもらうように俺から頼んでおくから、この時間は何も気にしなくて良いからな」
 なのに先生が更に私に気遣いを見せてくれる。のを、穂高先生もびっくりした表情で見て来る。
「分かりましたって。先生もずっとここにいて良いんですか?」
 穂高先生相手だとこれ以上は下手な勘繰りをされそうだからと言う事もあって、少し申し訳ない気持ちもあったのだけれど、先生には早く退室してもらうように促す。
「あ……ああ。そうだな。それと今の話、先生にも聞かせてくれてありがとう」
 私の意図が伝わり切らなかったのか、先生が寂しそうな表情で出て行こうとするから
「先生は頼りになる先生なんですから、胸を張ってくださいね」
 その表情を消したくて、穂高先生が目の前にいるにもかかわらず、もうひと声を掛けてしまう。
「ありがとう。じゃあまた数学の授業の時にな」
 ただその一言で先生が元気になれるのなら、私としては悪い話じゃないと思ってしまう。


 そうは言ったものの、保健室内で穂高先生との二人きり。今の辛い気持ちでこの先生と対峙するのだけは避けたい。
「もうあの先生とは仲直りしたの?」
 それでも今は二人しかいないのだから、どうしても先生としては私が気になるのだと思う。
「はい。ちゃんと話し合って、先生の気持ちも考えも分かりました。穂高先生には巻本先生との事で助けてもらいましたけれど、私と先生との話は喋りませんから」
 優珠希ちゃんや御国さんに優しくしてくれるのは嬉しい。そして私を雑に、乱暴に扱うと言うのならそれでも良い。
 でもせっかく自分の夢を叶えた先生の事までと言うのなら、私は口を開かない。
「岡本さんは私の事嫌い? どうしたら信用してくれるの?」
 私は充血しているであろう目で穂高先生を見返していると、先生の瞳から力が抜ける。
「嫌いではありませんが信用はしていません。親友の事も私の尊敬する先輩から穂高先生を頼るように助言をもらったので打ち明けただけです」
 私に見せるあの腹黒さ、大人の狡さと妹さんを相手にする時の扱いの差。
 そしてテストの時に蒼ちゃんに向けたあの露骨な視線。蒼ちゃんの教材をわざと落とした生徒の所にすぐに飛んで行った先生の事は嫌いじゃ無い。それに人に寄り添うと言う意味では、人によって態度や行動を変えると言う事は良い事なんだろうし、理解はできるけれど、どうしても先生の事を信用できない。
「でも空木さんや御国さんとはずいぶん打ち解けているわよね」
 先生が困り果てた表情を浮かべる。
「打ち解けるも何も、優珠希ちゃんは素直とは言えないし分かりにくいけれど、二人とも良い子ですよ」
 その優珠希ちゃんが雪野さんにも懐くのかと思うと
「……」
 もう今日は一日駄目かもしれない。少しでも優希君が絡むと、私の心はかき乱されてしまう。
「……ねぇ。何かあったのなら先生に話してみてよ。ちゃんと秘密は守るし誰にも言わないって約束する」
 なのに先生が、私は信用できないと言った事も聞いてくれていなかったのか、相談に乗るからと言いだす。
 だけれど信用するしない以前の話で、失恋のショックで授業をすっぽかすとか口に出来るわけがない。
 結局この顔で二限目からは授業に出ないといけないのかと目の前を真っ暗にしていると、
「あの変態オヤジ。わたしの太ももばかり見やがって絶対セクハラで――」
「だからウチも言うてるやん。そんな格好してたら誤解――」
「……優珠希ちゃん? 御国さん?」
 噂をしてたら何とやら。何と件の妹さんが一限目の授業中にもかかわらず、慣れた雰囲気で保健室の中に入って来る。

 その私の顔を見た瞬間
「……」
 妹さんは視線を逸らし、
「ちょっとどないしたんですか? 岡本先輩?!」
 何も知らないのか、今の私の顔を見てびっくりした御国さんが駆け寄って来てくれる。
 その対照的な二人の反応で、優珠希ちゃんもやっぱりお兄ちゃんの事を知っていたんだなって分かってしまう。
 つまり優珠希ちゃんも知っていた上で私に隠していたのか。
 ――お兄ちゃんの事なんにも信用してないじゃない――
 あの取り繕う事が嫌いだと言っていた言葉と言い、
 ――自分勝手に壁を作って、取り繕って付き合う人間にわたしたちの事なんか何も教えられない。そんな女と信頼「関係」なんて出来るわけない―― (共に53話)
 信用していない私が悪いと言っていた妹さんは一体何だったのか。どうして優希君の事を心から信用した結果がこんな事になってしまっているのか。もちろん自分にも悪い所があったのかもしれない。
 でも本当に、ああまで言われて妹さんにぶたれた私は一体何だったのか。もう本当にこの兄妹にとって私って何だったのか。
「……」
 悔しくて悔しくて涙が止まらない。
「……先生。

と話がしたいから、少しの間だけ二人きりに――」
「ちょっと岡本先輩!」
「……分かったわ。じゃあ私達はどこかで時間を潰すから。その代わり一限目が終わるまでがタイムリミットよ」
 優珠希ちゃんが言い終わる前に私が頬をはたく。それに対して御国さんはびっくりして、穂高先生は優珠希ちゃんの一言で察したのか、時間制限だけを口にして保健室内、室主を不在にした、私と優珠希ちゃんの一対一の話し合いが始まる。

「優珠希ちゃん。この事知ってたんだ」
 優珠希ちゃんの頬を張った事を謝るつもりはない。そして優珠希ちゃん相手に隠す事なんてしても意味がない。第一優珠希ちゃんはそうやって取り繕う事が大っ嫌いなはずなのだ。だから私は優珠希ちゃん相手にこれで本当に最後になるかもしれないからと、本音で向き合う事にする。
「なんとか言ったらどうなの? 人には散々取り繕うなって言っていた人間が、いざ自分がその立場になったら黙り込むの?」
 私はまだ優希君とお付き合いを始めたばかりの頃に、優珠希ちゃんから役員室で言われた事を意識しながら話を進める。
「知ったのは、昨日あんたと別れて家に帰った後なのは本当なのよ」
「だから、今朝、優希君と私が一緒に登校するように仕向けたの?」
「――違う。それは違――」
 私は優珠希ちゃんの言葉を、さっきとは反対側の頬を叩いて止める。
 これでちょうど往復ビンタみたいな形になる。
「何で嘘つくの? 優珠希ちゃん。嘘つかれるの嫌いなんじゃ無かったの? 学年七位。ナメんな」
 今朝優希君との会話の中で、優珠希ちゃんから言われていたと、とても言いにくそうに言葉を濁しながら言っていたのを考えると、純粋に登校するんじゃなくて、その話をしろっていう意味だと言うことくらいは今となっては分かる。
「……その気持ちは確かにあったけど、先週からの事で学校から呼び出しがあったのも本当なのよ」
 何の真似なのか、いや、私に頬をはたかれたのがショックだったのか、優珠希ちゃんの目が潤む。
「分かった。そこから先の話は今朝、全部じゃ無かったけれど優希君から聞いたからもう良いよ」
 よく考えたら、優希君の気持ちが私から離れてしまったのなら、もうそれはどうしようもない事なのだ。でもせめてこんな形じゃなくて、ちゃんと優希君の口から聞きたかった。
「ちょっと待ってよ。アンタまさかお兄ちゃんと別れるつもり?」
 優珠希ちゃんの瞳の揺れが、まるで感情を表しているかのように大きくなる。
「……別れるも何も、優希君の気持ちが雪野さんの方に流れてしまっている以上どうしようもないじゃない」
「……」
 そして再び黙る優珠希ちゃん。
 そもそもそれをどうして優希君本人じゃなくて優珠希ちゃんから聞くハメになっているのか。
「良かったじゃない。元々優希君と仲良くしているのは気に食わなかったんでしょ」
 本当ならフラれた私が泣きたいはずなのに、どうして優珠希ちゃんの瞳が涙でゆれているのか。何も分からない。
 私なりに二人から信頼を勝ち取るために、色々と正面からぶつかり合って来たはずなのに、それでも教えてもらえていない事が多い私にはどうしても意味が分からない。
「初めは……そうだった事もあったけど……今はそんな事思ってない。アンタとお兄ちゃんは……お似合いだって、思ってる」
 私の困惑もそのままに、優珠希ちゃんも涙声そのままに答える。
「でもそう思っていたのは優珠希ちゃんだけで、優希君は雪野さんと口づけをして二年では雪野さんとカップルだってほとんどの人が思ってるんでしょ?」
「……」
「だいたい優希君が雪野さんと口付けした事、優希君から聞いたんじゃないよ『――!』あの放課後に私の足を蹴った、御国さんに暴力を働いた女子生徒の友達から聞かされた私の気持ち、優珠希ちゃんに分かる? どれだけ悔しくて、悲しかったか分かる?」
 今思い出しても悔しくて悲しくて辛い気持ちで、また涙があふれて来る。
 蒼ちゃんも優希君の気持ちは私からは離れていないって言ってくれたけれど、雪野さんと口付けをした事には変わりないし、優希君にとってもうその時点で初めての口付けじゃなくなっている。それは雪野さんに持って行かれた形になってしまった。
 それに、お互い隠し事は無しにしようって、私たち二人の事はちゃんと言葉にして伝え合おうって言ったのに、隠したのもまた優希君の方なのだ。
「お兄ちゃんと一回ちゃんと話して欲しい。

が怒るのも呆れるのも分かるけど、お兄ちゃんの気持が

から離れるってゆう事は絶対にないから、後一回で良いからお兄ちゃんと話して」
 瞳一杯に涙を溜めた優珠希ちゃんが、私に頭を下げながら蒼ちゃんと同じ事を口にする優珠希ちゃん。
 どうして優希君じゃなくて、優珠希ちゃんが私にそこまでするのかも分からない。
 でも優珠希ちゃんの態度を目にして、やっぱり泣いている人が私の近くにいると言うのは私にとっては寂しいのだ。
「分かった。ちゃんと話してみるけれど、これ以上私に隠している事は無いよね」
 それに、ここまで取り乱すほどに優希君の事が好きな私にはこう返すしかない。
「ええ、もうないはずよ……その。お兄ちゃんだけじゃなくて、わたしの話もちゃんと聞いてくれてありがとう」
 私の返事がよっぽど嬉しかったのか、瞳一杯に涙を溜めたまま顔を赤らめる優珠希ちゃん。
 まだほとんど数える程も見せてもらった事は無かったけれど、そのほんのりと赤らめた表情と相まって、小さな花が咲くような笑顔がとても可愛らしいのだ。
 そう。その服装がハッキリと違和感を持つほどにとても可愛らしいのだ。
「じゃあ優珠希ちゃんの話。後一回だけ信じるからね。これでまだ何か出てきたら、私多分もう立ち直れないからね。それからさっきは二回も()ってごめんね」
 まだまだ私の中にある辛い気持ちは抜けきらないし、今でもほんの少し油断をするだけで涙がこぼれそうになる。
 だけれど、笑顔の可愛らしい優珠希ちゃんに私が手を上げた事には変わりは無いのだからと、今度は優珠希ちゃんの頬をいたわるように手の平で優しく撫でる。
「愛美先輩がお兄ちゃんから受けた心の痛み、傷に比べたらこれくらいなんて事無いわよ」
 言いながら私の手の平に心なし頬を押し付けてくる優珠希ちゃん。ひょっとしたら優珠希ちゃんは気を許した相手には甘えん坊になるのかもしれない。
「どうする? 待たせている二人、呼んで来ないと駄目だよね」
 気付けば間もなくタイムリミットである一限目が終わる時間に差し掛かっている。
 逆に言うとそれだけの時間、私たちがこの保健室を占有していた事になる。
「今はそんな事どうでも良いから、愛美先輩と二人でこうしていたい」

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