第7話

文字数 800文字

 芸能活動にも失敗した。勉強もまったくできない。
 しかし、幸いなことに 私にはまだ美しい顔と男に求められる若い体がある。どん底なんかとはほど遠い。
 幸子はとりあえず銀座をぶらついた。
 すぐにスカウトにホステスにならないかと誘われた。
 壁を超えるのは何度目か。今度は上手くいくだろうか。幸子はこのときばかりは少しドキドキした。
「はい。お願いします」
 幸子は男に丁寧に頭を下げた。
 大丈夫だ。
 こうやって次は銀座の女を演じればいい。カメラが回ってないときの自分の演技力はなかなかのものだ。
 きっと世のなかを渡っていける。まだまだなんとかなる。
 芸能界はもういい。もともとは母の夢だ。
 それを手放し、母との関係を断つことに、幸子は震えるほどの快感を覚えた。
 まだまだ、これからだ。
 このころの幸子は幼いころから修羅場を経験しすぎたせいか、妙にポジティブだった。
 そんな幸子に世間はまた別の厳しさを見せてくれた。

 二十代が幸子の絶頂期だったかもしれない。
 幸子には驚くほどに「太い客」が次々についた。
 これまで須藤やディレクターたちに搾取された分を取り戻すかのように、幸子は金を稼いだ。
 隅田川沿いの広く清潔な高級マンションに住み、タクシーで自宅と店を往復した。
 職場近くの百貨店で服や着物、宝石を買い漁った。
 どんなにお金が入ってきても幸子の手元には何も残らなかった。
 それが銀座の女を演じることだと、どこかで思っていたせいもあった。
 止める者もなかった。
 幸子は狂ったように金を使った。その様子は何かに復讐しているようだった。
 幸子は自分を自由にした男たちに復讐していたのかもしれない。
 あの頃には到底手に入れることのできなかった宝飾品に身を包み、武装することで。
 浪費と饗宴。
 三つの店を渡り歩きながら、幸子の二十代はあっという間に過ぎていく。
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