お一人様とお一人様（後編）
文字数 1,578文字
ゴクッゴクッ……ぷはぁ
いい飲みっぷりだね
いや、はは……（素面では駄目だ！ まずは酒のペースを早めて酔っぱらおう！ そうすりゃ多少は……）
あ、これ美味しい
へ、へえ、それ、なに？
豚のしそ巻き。一個食べる？
あ、俺、しそ苦手で……
ふーん、そっか
……
むしゃ、むしゃ……
……（話題話題話題話題、なにか話題！）
この安藤という男……後輩である唐須の前でこそ、偉そうによく分からない御託を並べていたが……
とどのつまりは、女の子との会話が苦手な奥手野郎に過ぎなかった……
……（あー！ なにも思い浮かばねぇ！ き、気まずい……）
安藤くんってさぁ
はひっ？……な、なに？
私たちと距離置いてるよね？
！！ それは、その……
あ、ごめん。別に責めるとかそーいうのは全くなくて……私もちょっと前まではそうだったし……
そ、そう……
ただ、その……この前、温泉旅行に一緒に行きたいって言ってくれたじゃん？ あれは正直、意外だったな……けっこう嬉しかった、かも
！？（う、嬉しかった……？ え、どういうこと？ まさか、俺のことが、す、す……）
あのモノグサな唐須くんまで誘ってくれてさ。研究室内での親交を深めようと頑張ってくれてるんだよね。ありがとう
あ、ああ……まあ、な（女の子らの日常系が崩壊するのを防ごうとしたなどとは、とても言えん）
いい意味で変わろうとしてるんだなぁって、嬉しくなっちゃった
…………水戸、さんこそ。最近少し……いや結構、変わったよね？
……うん。そうかも
心境の変化でもあったの？
あー……なんつーかさ……もったいないなって思って
もったいない？
うん。私、と安藤くんは来年もあるけど……内藤たちはあと半年ちょいで卒業じゃん？
まあ、そうだな
内藤とミツノはさ、道外に就職決まったし……きっと、今後会えたとしても年１回とかだと思うんだ
そんなこと……！ いや……そう、かもな。恐らく
うん……だからさ、『今』って、私の人生を総括したときに、多分ものすごく重要な時期なんじゃないかなって、そう思ったんだ……
……よほどウマが合うんだな
それもそうだけど……私ね、昔……ああ、なんか今日は語り過ぎかも。やばい
いいじゃん。語っちゃえよぉ！（←酒と雰囲気のチカラに飲み込まれた奥手男）
えへへ。安藤くんって、酔うとそんな感じなんだ
ドキッ！（な、なんだ？ 今、胸の奥が、なんだか……）
じゃあ、お言葉に甘えて、今日は少し、語っちゃおうかなぁ
お、おう。語っちゃいな
……私、中学の頃さ、仲いい友達がいたんだけど……色々あって、最終的に裏切ってしまったんだよね
あー……まあ、誰しも後ろ暗い過去の一つや二つはあるだろうさ
……うん。でも、当時は……というか、わりと最近までは、そういう風に割り切れなくてさ……私は、他人と仲良くする資格がないんじゃないかって
……（マジかよ）
だから、高校、大学と、人と深く関わらずに生きてきたんだけど……
（似てる。俺と）
そーいう思い込みの壁は……内藤のやつにすっかりぶち壊されちゃった
……そうか（俺の場合は、唐須のせいでますますおかしな方向に進んでいる気がするよ）
うへぇ～。なんか恥ずかし～！
……なんか、いいのかな。そんな内面の話を、俺なんかが聞いちゃって……いや、煽ったのは俺だけど……
安藤くんなら、いいよ
ドキドキィ！？（やっぱ、俺のことが？？）
……なんかさ、私たち、似てるなって思ってて。他人と敢えて距離を置いてる感じとか……でも、ホントは仲良くしたいとことか
いや、俺は別に、仲良くしたいとかは……
そうかな？ 安藤くんは、『他人と仲良くしたい人』だと、私は思うけど
……なんでそう思うんだよ？
安藤くん、なんやかんやで優しいから。温泉旅行の件もそうだし……私の班のことも心配してくれてること、分かってる……
……
あのさ、優しいってことは、人が好きな証拠らしいよ？
……なんだよ、それ
私の尊敬する人の言葉
