第四話 優の本心

文字数 4,745文字

「とりあえず三人とも落ち着けって!」

優はそう叫び、 三人を必死になだめようとした。
だが三人の勢いは弱まることはなく、 シアの元に詰め寄った。

「王女様のさっきの話廊下から聞かせてもらってましたけどあなたが優君の事を助けようとして、 立候補したことについてはひとまず感謝します。 だけど一緒に住むのは少しやりすぎなんじゃないですか?」
「そうよ! 優ちゃんが私以外の女と同じ部屋で暮らすなんて絶対に許せないわ!」
「お姉ちゃんの言う通り! でもお兄ちゃんと同じ部屋で暮らしていいのは私だけだからそこは間違えないでよお姉ちゃん?」
「何? やるの胡桃?」

そう言うと胡桃と詩織は互いに睨みあい、 ついには殴り合いの喧嘩にまで発展した。
その状況に優はため息を漏らし、 雪は邪魔な奴らが減り、 むしろ好都合であると思っていた。
そしてシアはというと雪のことを見ていた。

「雪様と言いましたか? これは優さんと私の問題であってあなたたち部外者には関係ありません」
「優君は王女様の同居を認めたの? もちろん認めてないよね?」

今の雪の瞳からはおよそ生気と言うものが感じらず、 狂気をはらんだ目をしていた。
何時もの優ならこの時点で雪に謝っていただろう。
だが今回ばかりは引くわけにはいかない。
そう思った優は雪の瞳を直視し、 初めて雪の事を睨んだ。

「ああ、 俺はシアの同居を認めた」
「なんで優君は、 同居を認めたの?」
「それは、 もしここで俺がシアを拒絶したらこいつの味方は、 誰もいなくなってしまうと思ったからだ。 それにシアは昔の俺と似てるんだよ。 両親から虐待され、 人生に対して絶望していた時の頃の俺に。 だから、 誰かがこいつの味方になってやらなくちゃいけないんだよ。 当時俺を救ってくれたお前ならその気持ちわかるだろ?」

優のその真摯な態度が雪にも伝わったのか雪の放つオーラがだんだん小さくなっていき、 大きなため息を一つ漏らした。

「はぁ……わかったよ。 優君がそこまで言うならここは優君の言う通りにしようと思う。 でも王女様。 もし私の優君に許可なく手を出したら必ず生きてきたことを後悔するくらいに残虐に無残に殺すから」

雪はそう言うとシアの事を脅しの意味を込めて強く睨んだ。

「雪様の気持ちはわかりました。 でも雪様の話って優さんから私に手を出してきた場合、 話は別ですよね?」
「大丈夫。 優君は、 絶対に王女様には、 手を出さないから。 ね? 優君?」

 優は雪のその言葉に静かに頷き、 肯定を示した。
雪もそんな優の態度に満足したようで、 完全に何時も通りの表情を見せるようになった。
ちなみに先ほどから話に入ってこない詩織たちは優の話の途中ですでに喧嘩を止めていた。
そして当時の優の悲惨な状況を知っていたため、 二人は無言の肯定を先ほどから示していた。

「さてこれで無事解決だな。 ん? よく見ると姉さん達の奴隷がいないように見えるがどうしたんだ?」
「「「捨てた」」」

三人は躊躇いなくそう言った。
その状況に三人の奴隷に選ばれた奴隷の事をひどく不憫にも思ったりしていた。

「さてと話も終わったことだし私はそろそろ自分の部屋に戻るけど、 朝起こしに来るからその時は必ず扉を開けてね?」
「わかった」
「私もそこの女より朝早く来るか絶対に扉を開けてね。 もし開けなかったらお姉ちゃん優君のこと殺しちゃうかもね」

そういう詩織の目は本気であったため、 それにより優は夜更かしだけは絶対にしようと心に誓った。

「お兄ちゃん震えているけど大丈夫?」
「だ、 大丈夫だよ」
「そう? それならいいんだけど……」
「もしかして胡桃も朝起こしに来るのか?」
「当然だよ! だからノックしたら絶対に扉を開けてね。 胡桃との約束だよ?」
「そんなにしつこく言わなくても絶対に開けるから大丈夫だよ」
「そう? それじゃあおやすみ。お兄ちゃん」
「ああ、 三人ともおやすみ」

優はそう言った後三人手を振りながら部屋から出るのを見送った。

「ふぅ何とかなったな……」

優は当所ここまでうまくいくとは思っておらず、 腕の一、 二本はへし折られる覚悟をしていたのだが、 そのようなことにはならなかったため心底安心したのか安堵のため息を漏らした。

「そうですね。 あ、 優様お茶とかお飲みになりますか?」
「いや、 今はいい。 それよりも聞きたいんだがシアはスキルや職業のことについて詳しいか?」
「ええ。 昔から本しか読むことしかやることがなかったので、 大体のスキルや職業のことについてならわかりますよ」
「それは都合がいい。 もしよかったらなんだが後でそのことについて教えてくれないか?」
「ええ。 構いませんよ」
「それとついでにシアのステータスも教えてくれないか? 俺のステータスも見せるから」
「わかりました。 ではまず初めに私のステータスから見せますね。 ステータスオープン」

するとシアの手元に先ほど見たステータスカードが現れた。

ユリシア・アーククラフト 年齢 16歳 性別 女性  奴隷
レベル:1  職業:魔法使い
魔力:1000/1000
筋力:150
防御力:200
素早さ:100

とりあえずステータスだけを見ると、 シアは魔力が多いようだ。

「次にスキルを見せてくれないか?」
「ええ構いませんよ」

そういってシアは、 スキルを見せてくれた。

<アクティブスキル>
ファイアー
サンダー
ウィンド
バインド

<パッシブスキル>
悟りの眼
基本属性全適正

シアのステータスは魔術向きのものであった。
その中で優は基本属性と言うものが非常に気になった。

「この世界の基本属性は、4つなのか?」
「はい。 属性の名前を言いますと基本属性は、 炎属性、 雷属性、 風属性、 地属性ですね。 また、 基本属性以外の属性は上位属性と呼ばれ、 光属性、 闇属性、 時属性などがあげられます。」
「なるほどわかりやすい説明ありがとうな。 次に俺のステータスを見せるから俺にあう武器を教えてくれないか?」
「わかりました!」

シアの返事を聞くと優は自分のステータスカードを見せたのだが、 優のステータスを見たシアは驚愕を露わにした。

「ステータスを見せていただきありがとうございました。 さて優さんのステータスですがまず圧倒的に防御力が低すぎます。ですので基本的には、 軽い武器で相手の急所を一突きにするか罠を張って相手を殺すのと言ったものが得策です。 なので優さんは投げナイフや糸などの暗殺に特化した武器にすることを私はおすすめします。 幸い優さんは職業が執行者のため暗殺系のスキルも覚えられますしね。 それとなのですが優さんが保持スキルの中で私が知っているのは、 時魔法と闇魔法だけでした。 どうやらほかのは優さんのユニークスキルのようです」
「ユニークスキルってなんだ?」
「ユニークスキルとは、 自分以外の人が習得できないスキルです。 そのためその能力の使い方は、 自分自身にしかわからないのです。 ちなみに私の悟りの眼もこれに当たります。 それと優さんの持つ観察眼のスキルは、 どうやら魔眼の一種のようです」
「そうか。ならスキルのことは明日の訓練の時間に使い方と新しいスキルの獲得方法とか教えてくれ。 だから今日はここまでにしようか。 そういえばこの世界の一年の日数や俺の世界と同じなのか?」
「いいえ。 一日の時間は同じですが、 一年はこの世界では300日ですね」
「じゃあ最後に訓練って明日の何時から始まるんだ?」
「明日の朝9時から夕方の5時まであります。 昼食などは、 食堂がありますので休憩時間に行くような感じですね」
「なるほど。 色々質問に答えてくれてありがとうな。」
「いいえ、 気にしないでください」

その後は特に何事もなく夕食をとった。
またその時部屋の中に風呂があることを思い出した優は可能ならば風呂に入るつもりであった。

「なあシア。 この部屋についている風呂って別に使ってもいいんだよな?」
「もちろんです。 お湯はこの近くから湧き出ている温泉を引っ張て来ているので、 いつでも入れますよ」
「そうか。 それはいいことを聞いた」
「もしかして優様はお風呂がお好きなんですか?」
「ん? まあそうだな。 だから今から風呂入ってくるわ」
「わかりました」

優はそのシアの素直すぎる態度に少々嫌な予感を覚えていたが今はそれよりも風呂に入りたかった為、 特に気にとめるようなことはしなかった。

「おお! これはこれは!」

優がそう思うのも当然であり、 部屋の浴槽は大人二人は余裕で入れるほど巨大であった。
そのことに対し優は目を輝かせ、 嬉々とした表情で風呂にゆっくりと足から入り、 やがて全身つかった。

「ふぅ。 やっぱり一日の終わりは風呂だよな~」
「優さんは本当にお風呂が好きなんですね」
「ああ、 そりゃ日本人だからな。 日本人なら誰だって風呂は好きだ……ん?」

 優はこの時ある疑問を抱いた。
今この場には自分しかいないはず。
それなのにも関わらず何故シアの声が聞こえるのだと。
そう思った優はゆっくりと風呂の出入り口を見た。
そして驚愕した。 なぜならそこにはタオル一枚で、 胸元を隠すように巻いたシアが立っていたからだ。
この時俺優はシアの自分への好意のレベルを見誤っていたと後悔し、 先ほどのシアの態度に合点がいった。

「お前何してんだ?」
「いえ今日のお礼の意味もかねてお背中をお流ししようかと……」
「いや俺はもう出るから入るならお前ひとりで入ってくれ」

優とて男子である。 そのため女性の裸を無心で見ていられるほどできた人間ではない。
 そのため急いで風呂からあがろうとしたのだがそれは、シアがしがみついてきたため阻止されてしまった。

「遠慮しないでください」

そう言うとシアはさらに優の体を密着してきた。
シアの胸は女性のなかではかなり膨満な部類である。
そのサイズは優の知り合いのなかで比べると詩織という全人類のなかでも最高峰と言っても過言ではないものに負けるのは仕方ないにしても、 平均より少し上程度の雪や雪よりも小さい胡桃と比べるとその差は歴然であった。
そんなものをタオル一枚程度では到底カバーしきれず、 優の理性はすでに崩壊しそうになっていた。

「さあさあ。そこに大人しく座ってください」

シアはそんな優の葛藤を知らないのか座るよう促してきた。
この時優は絶好の好機だと悟った。
優の速さは先ほどのステータスでシアより早いことが確認が取れている。
そのため優は椅子に座る途中のシアの拘束が最も弱まるタイミングを見計らい、 シアから逃亡しようと企てた。
その計画は功を奏し無事逃げることに成功した優はシアに金輪際こうゆうことはしないように約束させた。
だがシアはこの程度で諦めるつもりはなく、 次は就寝時に仕掛けようと考えていたのだがそのことを優は疲れたいたのかベットに入るとすぐに寝てしまったため、 シアの腹積もりについて見抜くことは叶わなかった。
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